Vmax
バイクなんざ、てめえの女房と同じさ。
「ホレたから、いっしょになった」
ここに他人の介入する余地はない。
例えばこうだ。
街を歩いていて誰かとバッタリ会ったとする。
そのときに、相手はこう宣う。
「おまえ、なんてぇ女連れてんだ?
女ってのはなあ、こういう奴じゃなきゃあだめだぜよ、おい!」
そして得意げに自分の女を指さす。
こんなとき、ふつうの男ならこう思うハズだ。
(てめえが連れているような女じゃなきゃだめだと?
俺はこの女が好きだから、自分がいいと思ったから
一緒になったんだよ。
おめえに言われる筋合いなんかねぇってんだ!)
ヘタしたら殴り合いが始まりかねないほどの、
侮辱的な台詞だろう。
ところが、バイクの場合はこれがあるのである。
「なんでそんなバイク乗ってるの?」
余計なお世話だ。
何に乗ろうとオレの勝手だろうが、張っ倒すぞ、このやろう!
排気量が大きかろうが小さかろうが
新車だろうがポンコツだろうが、
自分はそれに乗りてぇから乗る、乗っている。
それでいいのだ。
欠点や弱点があったって構いやしない。
人にだっていろいろあるのと同じことなのだ。
風貌・スタイルに始まり、
性格に性癖、金銭感覚から酒癖までといろいろあるうちの、
その全てが良いなんて奴はまずいない。
百歩譲って仮にいたとしても、
そんなパーフェクトの見本のような奴とて、
相手と相性が合わなかったらそれでおしまい、
単なる理想の形をした、でくの坊の人形となってしまうのだ。
デブだろうがチビだろうが、ノッポだろうがヤセだろうが関係ない。
足が臭かろうが顔が曲がってようが関係ない。
好きになればアバタもエクボ、
それがどうしたと、とことん良く解釈してやる。
足りないところは補ってやる。
ホレてホレて、ホレまくってやる。
それが男ってもんじゃねぇか。
オートバイもそれと同じこと。
型落ちだろうがフレームが弱かろうが、
パワーが無かろうがコーナーが苦手だろうが、
だからどうした、
お前あっての俺じゃねぇかと手に手を取り合って、
気にするなよとばかりに駆け抜けて行くのが、
男ってものじゃあねぇのか?
オレはそう考えて生きている。
ゆえに、オレにはVmaxの悪いところなんか
まったく見えて来ない。
てめぇが身銭切って買った、
好きで好きで、欲しくて欲しくてたまらずに買った
オートバイなのだ。
悪いところなんざ、あるわけがない。
発表からすでに15年? 上等よ。
オレだって同じく15年歳取ってらあ。
「これ昨日発表された新型です」
と言われてもなんの疑いも持たないほど、
オレにはコイツのすべてが良く見える。
セル一発で、いかにも精度よくシャンシャン回り始め、
ガゴゴゴゴッ! と息を吸い、
ズウォッ! と豪快にぶっ飛んで行く。
シャフトは妙なクセがある?
ねぇよそんなもの。人の噂を真に受けるな。
チェーンと乗り分けつく奴なんか、いるものか。
曲がらないって?
どこが。
ヒョイヒョイ切り返せるし、スイスイ曲がって行くわ。
「クソ力がある、しかも重い」
という事実の重圧に耐えかねて、
そうとでも書かなければ「自分のプロとしての立場がない」
てな輩が書いたインプレなんか、鵜呑みにするな。
重心は低いしポジションもまともだから、
最新の、「妙に腰高でつんのめったポジション」
の大排気量レプリカなんかよりも、
峠なんかよっぽど安心してカッ飛べるぞ。
例えば12Rのほうが加速が良いって?
そりゃあ高速道路での、全開ごっこのときだけだ。
街中じゃあまだコイツのほうが速い。
いや正確に言うと、速く走らせることができる。
なんせ低回転域での粘りにしろトルクの立ち上がり方にしろ、
コイツは完璧に市街地向きのセッティングとなっているからだ。
例えば大通りでUターンしてドンと加速する。
そのときの駆動力の強さ、滑らかなトルクの出方は、
まだまだコイツのほうが一枚も二枚も上手だぜ。
そして、そのUターンがまたやり易い。
Uターンと言えば取り回し判定の最右翼に来るものだが、
コイツは白バイのようにヒョイと決められるのを知ってるか?
それはレプリカと違いハンドルが大きく切れ、
半クラのことなど考えずに済むほど低回転域での
信頼性に富んでいるからだ。
しかもシート高が低いから、
重いとはいうものの、自在に扱える。
これはすごいことだと思わないか?
そんなこんなが重なって、
「ケツが振られても怖くない」
こんな大型バイクが他にあるか。
ねェ、ねェェ、ねェ! ねェったら、ねェ!
・・・いま書いて来たようなことは、
実はXJRの1300やCB1300、
それにイナズマやGSFの1200等にも
すべて当てはまってしまうことなのだ。
が、それでもオレは言い切らずにはいられない。
なぜかって?
コイツは、オレのホレたバイクだからだよ。
最近、やたらとVmaxを見かけるようになった。
少なくとも東京近辺では、間違いなく増殖していると思う。
無論、中古車が増え値がこなれた、という理由も
あるではあろうが、それだけではないとオレは感じている。
みんな気が付き始めたのではないのだろうか?
コイツが単に速いだけではなく、
極めて乗り易いオートバイなのだということに。
そして発表から15年経とうが、
それは考慮する問題ではない、ということにも。
気に入ったから買う。
いいと思うから乗る。
乗りたいから乗る。
それでいいのだ。
迷うことはない。
20世紀も30世紀も絶滅も再生も関係なし。
あるのは、己が信念のみ!
キャプション
エンジン
国内仕様と逆車・フルパワーとの加速力の差は、
歴然としたものがある。キモはVブーストの有無。
・・・やっぱ買うなら逆車だ、逆車!
Fホイール
このホイールじゃないものは、初期型のやつだ。
手入れしてないと、クリアー皮膜の下に
錆が出てしまうので、雨ざらしすると泣くぞ。
マフラーエンド・リアホイール
フルパワーの逆車は、マフラーの穴が国内仕様より
ふた回りほどでかい。
また、いわゆる「シャフトのクセ」というものは
まったくなし。
シート
まるで馬の鞍のようなデザインのシートは唯一無二。
ケツ痛くならないし、ホールド感も最高だ。
燃料タンクはこの下に装備されてる。
ライト回り
ハーレーがそうであるように、コイツもライトが
小さいからこそカッコイイ。
ノンカウルの極致。風をまともに食らう。
そこがまたいい!
メーター回り
タンクに見えるカバーの下は、
ほとんどエアクリーナーが占領。
新鮮な空気を真下に落としている。
ちなみにカーボン色は、塗装だ。
GOGGLE 2000.12月号