五葉光バトル説法生きてみんかい！ 10

　ワシは、若い頃、禅の修行道場で数年にわたって坐禅修行した。
道場に入るとっすぐに大接心（おおぜつしん）と言う
一週間のものすごく厳しい修行が行われる。
この期間中は一日三時間の睡眠以外は
ひたすら坐禅を組み続けるというもの凄い修行で、
別名「新入り殺しの大接心」と呼ばれ、
余りの辛さに逃亡したり無理をして体を壊す人も結構多い。
実はワシもその時、余りの痛さに失神した覚えがあるんじゃ。

　有名な般若心経の中に「色即是空」（しきそくぜくう）と言うのがある。
これを平たく言うと、
「する事も思う事もみんな空だ。カラッポだ」
という意味なんじゃけれども、ただのカラッポではなくて、
充実したゼロ、充実したカラッポという事で、
その充実したゼロ充実したカラッポに、
ものを詰め込むと言う作業をしながら生きなさい
という教えなのである。

　と言うのも、先ほどワシが修行中、
大接心で失神したと言ったけども、
坐禅をしていてフラフラしたり寝ていると
警策という棒でぶっ叩かれるんじゃが、
何せ睡眠不足で叩かれてもすぐに眠たくなるものだから
またぶっ叩かれる、
それで一週間で約二千発叩かれる。
で、そのうち背中はミミズ腫れになり、
夜仰向けで寝られんようになるんじゃ。
しかも足は一日約二十時間坐禅を組みっぱなしで
慢性の捻挫を起こし足首がぱんぱんに腫れてものすごく痛む。
その足の痛みと、「叩かれないように、叩かれないように」
とそういう思いで緊張し、貧血を起こして失神したと言うわけじゃ。
で、坐禅を組んだままの姿勢で、後ろにひっくり返ったんじゃが、
悪いことにちょうど後ろに棚があってのう。
その角に後頭部を打ち付けてしまい大きいたんこぶまでできたんじゃ。
これじゃー空にはほど遠いわ・・・・・。

　その時に、口からアワを吹いて気絶しているワシを
介護してくれた先輩からこういうアドダイスを受けたんじゃ。
「居眠り半分、妄想半分でいいから、もっとカラッポになって楽に坐れ！　
そして、一番頭の上のてっぺんから段々と凍っていくようなつもりで、
これをイメージして坐れ。そうするとうんと楽に坐れるぞ」
　それを少なからず実践したから、
ワシみたいなへなちょこでも厳しい道場で
修行が続けられたんじゃないかなあと思っておる。

　このイメージする事、これは非常に大切な事なんじゃ。
　ワシの高校時代の友人に陸上選手がおった。
こいつは走るのだけは凄く速いのじゃが、
頭の中は空、つまりパアプリンじゃった。
しかし、どうしても大学に入りたいと言う。
そこで彼に残された道はただ一つ。それは推薦入学。
つまり陸上の実施試験だけで大学に入る事だった。
それで、彼がやった勉強の仕方は、
その実施試験をイメージするという練習だった。
　願書を出して、「この時間にこの実施試験があるよ」
という知らせを受けてから、その試験の時間に合わせて、
自分の体をだんだんと作り上げていったというわけじゃ。

　とにかく夜は早く寝て朝早く起きて体を覚まして、
その実施試験がある朝の十時に体が全開で動くように
自分を作り上げて、一ヶ月間それをした。　
そして試験に臨んだのだ。
彼は、高校総体なんかにも出ていたんじゃが、
その時に出していた記録よりも、この受験のために
一ヶ月かけて作り上げた自分のイメージで走った時の方の記録が
一番良かったと言っていた。
その努力の甲斐あって無事に名古屋のＴ大学に合格した。
　イメージするというのはこんなにも大きな力があるのだとワシは思う。

　そこで、みんなに提案じゃ。
人間、一日のうちでボーッとしている時間は案外多いもの。
電車の中、渋滞に巻き込まれた車の中、ウンチしている時等々・・・、
どうせそう言う時はロクな事は考えておらんもんじゃ、
「あら今日はパンツはき替えるの忘れたわ」
「今日も阪神まけるんやろうか」とか、
せいぜいこんなとこじゃろう。
しかし、そんな野球の事やパンツの事なんか
ボケーっと考えていても仕方ないと思わんか。

　世界的に有名なＧＰライダーの多くは、
走る前にあらかじめ自分が走るコースをずーっとイメージするそうであるが、
例えばレースをする奴だったら、
自分がバイクに乗ってコースを走っているその一つ一つの過程を
ちくいち頭の中でイメージしてみる。
　この直線はこの辺でフルブレーキングして、
次のコーナーではギアを何速まで落としてこう回って、
次のシケインはこう入って、
「おっと、ここは逆バンク。滑りやすいぜ、注意注意！」・・・
と言った具合にコースを頭の中で全部イメージしてみる。
もう細かすぎるくらいイメージをしてみる。
　そうすれば、今度レースに出たとき予想以上の成績が残せるかも知れん。

　先ほど、空はカラッポだと言ったが、
カラッポだからこそいろんなものを詰め込む事ができるんじゃ。
コップでもそうじゃ、カラのコップだからこそ、
ビールでもジュースでも何でも自由に入れて何杯も飲むことができる。

　お前も充実したゼロ、充実したカラッポの心に何を詰め込むかをよく考えて、
そしてそれを静かにイメージしてみんかい。


　　　　　　　　　　　　　　喝！！