五葉光バトル説法生きてみんかい! 11
天上天下唯我独尊(てんじょうてんがゆいがどくそん)
という有名な言葉がある。
これは、二千六百年前にインドでお釈迦様が生まれた時に言った言葉で、
「天の上にも天の下にも、ただ我ひとり尊い」と読む。
さて、お釈迦様は国王とそのお后様の間にお生まれになった。
つまり王子様だったと言うわけだ。
お母さんが、臨月を迎え出産のため一行を引き連れ、
実家を目指して旅に出た。
その途中、花がいっぱい咲いておるところで休憩をしたんじゃが、
お母さんは、その花がとてもきれいだったので
一本折ろうとして右手を伸ばした。
するとその瞬間、お母さんの右脇からお釈迦様が生まれ、
そのあとすぐにお釈迦様はすくっと立ち上がって七歩あるき、
右手を天、左手で地を指して
「天上天下唯我独尊」と言われたと伝えられておる。
ワシは、お釈迦様が右脇から生まれたと言う事を
子供の頃から知っていたが、
「へえー、やっぱりお釈迦様ほどの偉い人は、
普通の人間と生まれる所も違うもんだなあ」
と、長いこと真剣に思っていたんじゃが。
やっぱりどう考えても何か変じゃ。
実はワシは、次男が生まれる時に今流行の立ち会い出産を体験した。
分娩室に付き添っていたわけじゃ。
それで、この目で見て自分の息子が家内のどっから生まれたかは、
よーく知っておるわけだが。
やっぱり右脇からという事ではなかった。ワッハッハ。
実はこれ種をあかせば、
インドではお釈迦様が生まれるずっと前から
カースト制度と言う厳しい身分差別があったのだ。
大まかに言うと四つのカーストに分かれていて、
一番上のバラモン僧、それと貴族武士階級、
一般平民、あと奴隷階級。
このカースト制度によると、バラモン僧の者は頭の上から生まれ、
貴族武士階級の者は脇から生まれる。
一般平民は太股から、奴隷階級は足首から生まれるとされとったわけだ。
したがってお釈迦様は王族の出身だから、脇から生まれたと言う事なんじゃが。
ここで大切なのは、お釈迦様が王子様だったという事ではない。
それは仏教がそう言った差別のど真ん中から生まれてきたと言う事だ。
その厳しい差別社会の中でお釈迦様は、
「人間すべての者に皆かけがえのない平等な命があるのだ」
と言う風に説いてまわったわけだが、これは本当に大変なことで、
今の民主主義社会に住んでいるワシらには
想像が付かないような厳しさじゃなかったかなあと思う。
お釈迦様は、そういった非常な困難の中で五十年近くも
くじけることなく、ずーっとインド中に仏教の教えを広め、
それが中国を経て日本に伝わったと言うわけだ。
話は戻るが、時々
「お釈迦様って生まれた時、天上天下唯我独尊。
つまり、『この世の中で自分だけが最高に偉い』だなんて言ったんだろう。
仏教はそこんところがどうも好きになれんのだ」
と言う奴がおる。
確かにこう考えている人は案外多いかも知れん。
松原泰道という坊さんは
「天上天下唯我独尊と言うのは、『お山の大将俺一人』と言う意味ではなくて、
この広い広い宇宙にあって、
かけがえのないたった一人しかいない自分である事実に気づきなさい」
という意味だと言っている。
しかし、実はこのワシも正直な話、
この意味が本当にはよく分かっていなかったんじゃ。
どうやら「俺は偉い! お山の大将俺ひとり」という意味ではない
と言うことくらいは分かっていたけど、
唯我独尊「ただ我ひとり尊い」いうのが、
なぜそんな意味になるのかなあと最近まで思っていた。
ところで、先ほど言うたように、ワシは次男の立ち会い出産を体験した。
立ち会い出産では赤ん坊が生まれるとすぐに父親の手に渡してくれるんじゃが、
まだ生まれたてでグニャグニャしとる息子は、
ワシの両手の中で「オギャー」と大きなうぶ声をあげたのよ。
で、その泣き声はますます大きくなるばかりで誰にも遠慮がない・・・・・
それを聞いている時にワシは、
「ああそうか、これが天上天下唯我独尊なんだ!」
と歓声をあげた。
長い間、心の中でつかえていたものが一気に取れたような感じで
「そうじゃ、お釈迦様だって生まれた時は、
オギャーと言って生まれたに違いない」と。
ワシはそのうぶ声の事を全然考えていなかったんじゃな。
要するに天上天下唯我独尊と言う八文字、
この文字づらばかりにとらわれすぎて、
お釈迦様の「オギャー」と言ううぶ声をすっかり忘れていたのだ。
すなわち「オギャー」と言ううぶ声を聞いて、
「この世の中で新しい命が生まれ落ちた時ほど尊いものはないなあ」
と体で感じられる・・・・・
その心境をあえて言葉で表現したら、
天上天下唯我独尊となったわけじゃ。
じゃから、この天上天下唯我独尊とは、
別にお釈迦様だけの専売特許ではなく、
今も世界のあちらこちらで、「オギャー」と言ううぶ声とともに
天上天下唯我独尊がまた一人増えているわけだし、
勿論これを読んでくれてるお前も、
やっぱりお釈迦様と同じように天上天下唯我独尊と、
かけがえのない命を持ってこの世に生まれてきている
と言う事を忘れてはイカンと思うんじゃ。
そして「お釈迦様も偉いがオレも偉い」
「あんたも偉いがオレも偉い」と、
思える自分自身になって生きてみんかい。
喝!!