五葉光バトル説法生きてみんかい! 12
ワシの寺は、貧乏の割には結構広くて掃除が大変なのだ。
だから、何もない時にはたいてい作業着に地下タビ、麦わら帽子
といういでたちで庭掃除に励んでおる。
そんな格好だからか、たまにしか来ない檀家さんに寺男と間違えられる事もあって、
この間なんか、
「ご苦労さん。赤チョウチンでも行って、一杯やりなよ」
と言って、三千円もらった事があった。
実際、掃除には骨が折れる。
玄関の前から草引きの掃除を始めて、本堂の前、裏庭、それから畑の方と、
草引きを一回りした頃には、もう最初の所には草がぼうぼう生えておる。
そこでいつもガックリくるんじゃ。
そういう状態に、少しなまけ心が出てきたワシは考えた。
「そうか、境内は土がむき出しだから草がよく生えるのだ。
そしたら草が生えにくいように砂利を敷き詰めたらよかろう」
と浅知恵を起こし、
早速、ダンプ三台分の砂利を境内全体に入れてみたもんじゃ。
しかし、それがとんでもない間違いだと気付いたのは、
しばらくしてからの事である。
実は、ワシの寺には立派なヒノキの大木がある。
ヒノキは常緑樹だから、その細かい葉っぱが一年中、
砂利の上にたくさん落ちるのじゃが、
葉っぱが石の間にはさまって掃除がしにくい事この上ない。
「ワレながら、何ともまぬけな事をしたんだろう」
と思ったが、それも後の祭り、今さらその膨大な砂利を片付ける事もできん。
そして、苦労してやっと集めた葉っぱをちりとりに入れようとすると、
今度は砂利まで一緒に入ってしまう。
それで、仕方なしに葉っぱをいちいち手で拾ってちりとりに入れるようにしたのだが、
不幸はそれだけではなかった。
「葉っぱはしょうがないなあ、だが草はもう生えんだろう」
と思っていたところが、雑草というものは実に逞しいもんで、
そのぶ厚く敷き詰めた砂利の中からにょきにょき生えてくる。
そこで今度は、背中にタンクを背負って除草剤をまいたんじゃ。
すると嫁さんが、大切に育てていた花にまで除草剤がかかってしまい、
花が全部枯れてしもうて、さんざん嫁さんに怒られた。
ついでに苔も全部きれいにサッパリ枯れてしもうたんじゃ。
そんな大失敗をやらかして、ワシは、
「やっぱり掃除は、毎日こまめにやらにゃいかんもんだなあ」
という結果に至ったのである。
さて、ここに掃除をしながら悟りを開いた坊さんの話がある。
それは二千五百年前、お釈迦様の弟子にシュリハンドクという坊さんがいた。
この人は、大変にまじめだったが、頭がとても悪かった。
どのくらい悪かったかというと、自分の名前も覚えられないほどで、
背中に自分の名前を書いてもらって、人に名前を聞かれると、
自分の背中を見せて自分の名前を教える、とそう言う人じゃった。
彼はそう言う自分が情けなくなって、お釈迦様の所へ行き、
「私はもう坊さんをやめたいのです」
と相談したんじゃ。するとお釈迦様は、
「なーんも心配はいらんよ」
と言って、彼に一本のほうきを持たせて
「きれいにしよう」
と言う言葉だけ教えたんじゃ。
シュリハンドクはそれから、何年もその言葉だけを繰り返し掃除をし続けた。
ある日、いつものように庭を掃いていると、お釈迦さんが
「ずいぶんきれいになったね。だけど、まだ一ヶ所汚い所があるよ」
と声をかけた。
シュリハンドクは不思議に思い、
「どこが汚いんですか」
と聞いたが、お釈迦様は教えてくれん。
「どこだろうなあ?」
と思いながら、それからもずっと
「きれいにしよう」
と言いながら掃除を続け、数年たったある日、ハタと気がついた。
「そうか、汚れていたのは自分の心だったのか」
と、やっと悟ったと言うんじゃ。
その時、お釈迦様が後ろの立っていて
「やっと全部きれいになってよかったね」
と言ったそうである。
最初は掃き方も下手で、わけも分からずに一生懸命に掃くわけだ。
しかし、そのうちに掃除にも慣れてきて
「あっ、あの隅っこが汚れてるぞ」
と気がついたり、掃いてもしばらくするとすぐ汚れてくる事や、
あるいは、きれいに掃いたなあと思っても、
光が流れてくると空気中にいっぱいほこりが浮かんで見える、
そういう事がわかる。
で、そう言う中で
「しかしなんとまあ、いくら掃いても掃いてもきれいにならんものだなあ・・・・・
あっ、自分の心もそうじゃないのかなあ」
って、気づいたわけなんじゃ。
先ほどのワシの話に戻るが、妄想煩悩を起こさずに
「きれいにしよう」
と、始めから一生懸命に掃除をしていればよかったものの
「面倒くさい、しんどい、楽したい」
そう思って掃除をしたから、取り返しのつかない失敗をしてしまったわけじゃ。
つまり心の掃除ができておらんかったというわけだ。
仏教には精進と言う言葉があるが、
お前もよそ見や油断しないで、今なすべき事を一生懸命に続ける。
「心に草はないけれど、迷いの草は生い茂る」
という言葉もあるが、心に草が生えんよう
「きれいにしよう」
と心の掃除をしてみんかい。
喝!!