五葉光バトル説法生きてみんかい! 14

 7月号のLetter From R に、
「セローで走っていたら、四輪に幅寄せされたり、あおられたりして怖かった」
と言う話が載っていたが、バイクに乗っていると、
アホなドライバーからちょっかいをかけられる事がたまにある。
実はワシも昔、ロクハン刀で中国自動車道を走行中、
トラックにしつこく追いかけられて
「もしかしたら殺されるかも知れん」
と思った事があるが、おそらく誰にでもこういった経験が
一度や二度はあるのではなかろうか。
そしてなかなか表には出てこないが、それがもとで事故を起こし、
命を落とすライダーも結構いるんじゃないかなあと思う。

 たまの休みのツーリング。
朝、家を出る時には
「よし、今日は楽しく行こう!」
と最高の気分で出発し、景気よく走っていたら、
前の車の窓から火の付いたタバコをぶつけられたり、
かと思えば後続の車にあおられたり、
また渋滞で車の横をすり抜けようとしたらいきなり幅寄せされたり・・・・・。
出かける時には「ええ気分じゃ」と思っても、
観光地につく頃にはだんだんあやしくなってきて、
帰る時にはヘルメットの中で「バカ野郎!」と怒鳴っている自分。
これでは、何のためにツーリングに行ったのか分からん。
 勿論、四輪からいろんないやがらせを受ける原因は
ドライバーの人格に問題がある場合が多いのかも知れん。
しかしその一方で、我々バイク乗りの心の持ち方にも
反省すべき点があるんじゃないかと思う。
その一つには、すぐにカッとなる短気な性格が考えられる。
 とかくバイクは目立つから、四輪にちょっかいをかけられる事が多い。
それにすぐ腹を立てて仕返ししようとする。
その結果、ますますドライバーを挑発してしまう・・・・・
しかし奴らを怒らす前に、冷静に考えて欲しいんじゃ。
バイクは四輪と比較するとどうしても交通弱者なのだ、
たとえ相手が軽四でも、まともにぶつかりゃーGLでも勝てっこない。
ケガをして痛い思いをしたり、下手すりゃ命を落とすのはたいがいこちらよ。
そんなつまらん意地の張り合いや、一時の怒りに振り回されて、
楽しかったはずのツーリングが台無しになったり、
大切なものを失ったのではバカみたいである。短気は損気じゃ。

 お前らの中には
「俺は生まれつき短気で、すぐカッとなって困る」
という奴もいるかも知れんが、聞く所によると心理学的に見ても
生まれつき短気なんてありえないそうで、
人間の本性は『怒りたくないもの』だそうな。
その証拠に、子供は腹を立てても、たいがい翌日にはきれいサッパリ忘れている。
「あの時の恨みは忘れんぞ」
とか言う子供はおらんじゃろう。
しかし、いろんな世間の波をかぶっているうちに、水アカがついてきて
人間本来の姿が見えなくなってしまうのだろうな。

 さて、ここに「堪忍の六助」という堪忍が大好きな若者の話がある。
六助は、怒る事もなく忍耐強く人当たりも良く、いつもニコニコしている。
そんな男だから、村の若い娘さんにも大もて、
「ちょいとロクさん、遊んで行きなよ」
と、そんな風に呼ばれていたのだろうか、非常に人気がある。
それを見た他の若者は面白くない。それで、
「あの野郎カッコつけてやがんなあ、ちょっと痛めつけてやろうぜ」
と言う事で、ある日
「おい、この頃お前生意気だぞ!」
と言いがかりをつけて殴りつけた。
しかし、六助は怒りもせず、いつもの通りニコニコしている。
こうなると殴る方は、ますます逆上して
「これでもか、これでもか」と、何百回も殴りつけた。
さすがの六助も体の方が痛くなり、顔をしかめていたが、
相変わらず怒った様子はない。
一方、殴る方もいい加減殴り疲れて、六助の忍耐強さにあきれ返り、
これには何か秘伝でもあるのだろうと思って尋ねてみた。
「おい六助。なんでお前はそこまで耐えられるんだ」
すると六助は笑いながら
「いやワシは、一回しかこらえていない」
「ウソを言うな、オレはお前を何百回も殴ったぞ」
「そりゃ、始めから何百回も叩かれると思えば、ワシだって耐えられん。
 だけど、一回一回、その時その時だけを耐えてきた」
こう言ったわけなんじゃ。すると、若者は
「なるほど、一つ一つを耐えたわけか」
と感心したと言う事だ。
つまり、この話を要約すると、腹が立っても一回一回耐えていく、
そしてそれを積み重ねていければ、百回でも千回でも耐えていける秘術だと言うんじゃ。
 そういう六助のような気持ちになれれば、
四輪とのトラブルもずいぶん減るんじゃなかろうかと思う。
長い人生には、幾度となく腹の立つ事もある、
いやむしろ腹の立つ事の方が多いのが人生かも知れんが、
その時のただ今、この時だけを我慢する。
怒らなければ自分も幸せ、向こうも幸せというもんじゃ。

 例えば、バイクで長距離を走る時に、「○○まで何百キロ」と言う看板を見たり、
先の方ばっかり考えて走るとかったるくなるが、
自分の目の前を見ながら一歩一歩進めば案外楽に走れるものだ。

 人生の中には渋滞もあるし、雪や雨の日もある。
しかし、腹を立てる事なく、ずーっとラクな気分で過ごして行ければ楽しい人生じゃ。

 力を抜いてハンドルを握ってゆったりとした気分で、人生を走ってみんかい。


        喝!!