五葉光鐵和尚のバトル説法 生きて見んかい! 2

 今回は、不動心と言う禅の教えについて話そう。
 江戸時代、たくあん漬けを発明した沢庵と言う坊主が
いた。
 この人が、剣の極意を説いた不動智神妙録と言う本に
こういう言葉がある。
「不動心とは動かない心と書く。しかし、動かないと言
っても石や木のようにただじっとしてるのではない。向
こうへも左へも右へも四方八方へ心は動きながら、瞬時
も止まらない心、これを不動心と言う」と。
 つまり不動心とは「瞬時も止まる事なく、スムーズに
流れ動く心」と言うわけじゃ。
 また、これに似た武道の極意に、「間髪を容れず」と
言うのもある。
 これは「髪一本の間でも心を停止させてはいけない。
動いとけ!」と言う意味だ。

 ところでこの間、ある会社員が寺に来てこう言った。
 同じ会社にイヤな後輩がいるそうだ。
 そいつが先輩の自分を立ててくれない。
 会議で議論になると、少しは遠慮して「先輩の仰る事
はよくわかりますが、私はこう思います」と言うのであ
ればいいけれども、「先輩それはまずいっすよ」とハッ
キリ言う。
 それで、腹が立って寝られない。
 で、議論で負けたりして帰って来ると、その日は悔し
くてたまらない。
 反対に勝ったら勝ったで「今度も負けてなるものか」
と考えてると、近頃はだんだん会社に行くのがイヤにな
ってきたと……。
 つまり、部下の存在に心が執着し滞っているのだ。
 そこで、ワシは言ってやった。
「いいじゃないか負けても」と。
 すると「とてもそんな……」
 ブルブルと顔を振っているので、ワシは続けてこう言
ったんじゃ。
「つまり、お前はいつも勝ち負けにこだわって『こんち
くしょう』と思っているもんだから、心が滞ってお前の
本来の実力が発揮できないのだ。だから勝ち負けなんか
忘れろ。すると心がスムーズに動き出すから」
「そういえば和尚の言う通りだけど、なかなかそうはい
かんのです」
「そのいかん所を何とかするのが修行なんじゃ」
 それだは一体どう修行すればよいか。
 ここにいいヒントが一つある。
 江戸時代、土佐(高知県)に、名高いお茶の先生がい
た。人格、お手前ともに立派だと言う事で、殿様の大の
お気に入り。
 ある時、殿様はこの茶人を参勤交代で江戸に連れて行
き、「土佐にもこんな素晴らしい茶人がいるのだ」と言
うのを、他の殿様達に自慢してやろうと思った。
 殿様から、「参勤交代について来い」と言われた茶人
は、何だか悪い予感がしたが、殿様の命令だから仕方が
ない。
慣れない刀を腰に差し江戸にのぼった。
 ところが案の定ある日、上野を散歩しておると、向こ
うから目つきの悪い浪人が近づいてきてこう言った。
「貴公は土佐の藩士とお見受けしたが、一つお手合わせ
を願いたい」
(しまった、困ったなあ……)
 茶人はすっかり青い顔になってしまったが、ふと散歩
の途中で目にとめていた剣術の道場の事を思い出した。
「そうだ、あそこに行って、曲がりなりにも剣の持ち方
を教えてもらおう」
 そこで浪人に、「私は今、殿様の用事で来ているので
それがすむまでお待ち頂きたい」と、その場をうまく逃
れ、さきほどの道場にやって来た。
 道場主に一部始終を話し、「剣の使い方を教えて下さ
い」と申しいれると、道場主は、
「今さら刀の持ち方を教えても間に合いません。それよ
りあなたは土佐の藩士として、いかに恥ずかしくない死
に方をすればいいかを考えた方が良いでしょう」
 と、言ったのだった。
 茶人も、それなりの人物だから観念して
「分かりました、私の覚悟がつきました。それでは、お
教え頂いたお礼に、私のたてる最後の一服をお飲み下さ
い」
 と、こういって、静かにお茶をたて始めた。
 いつもたててるお茶だから、茶人の心はすっかり元の
落ち着きを取り戻していた。
 すると、その姿をじっと見ていた道場主が、パシッと
膝をたたいてこう言った。
「それですよ! そのどっしりとした気持ちで敵に立ち
向かわれればいいのです。お茶をおたてになる今の気持
ちを忘れないで下さい」
 茶人は、「なるほど、そんなものか」と思い、この道
場主に礼を述べて、また先ほどの場所に向かった。
 そこにはまだ先ほどの浪人者が立っていた。
 茶人はその道場主に教えられた通り、いつも自分がお
茶をたてる時するように、静かにまず羽織を脱いでそこ
にたたむ。
 居住まいを正して、まるで茶杓を差し出す時のように
自分の刀を敵の前に構えたわけである。
 これを見た相手の浪人は、びっくりした。「こいつは
ただ者ではないぞ」と、たじたじになり「待て待て、俺
はそんなつもりじゃなかったんだ。参った参った」と言
いながら、すたこらと逃げて行った。
 浪人にしてみれば、「この田舎者、ひとつ脅かして金
でも巻き上げてやろう」と言う魂胆だったわけだ。

           喝!