五葉光バトル説法生きてみんかい! 3
般若心経というお経がある。
これは最も有名なお経だから、日本人であればだれでも
名前くらいは知っていると思う。
その中に『波羅蜜多』(はらみた)という一節がある。
これは「はらへった」ではないぞ、「完成」するという
意味だ。
すなわち、七変化する自分の心をコントロールし、人生
を完成するための大切な指針として、6つの実践徳目
「六波羅蜜」(ろくはらみつ)があると言うのだ。
その六波羅蜜の内容は、与える布施、守る持戒、負けな
い忍辱(にんにく)、続ける精進、心静かな禅定(ぜん
じょう)、そして、この5つ全てに通じる知識や感情に
とらわれない知恵。この6つの行いを、日常生活に反映
して行く事なのだ。
一に布施、「坊さんのお布施の事か?」と思われがち
だが、本当はそれだけが布施ではない。数年前の事。
小林と言う先輩の坊さんが、檀家の葬式に出るために
GSXで走っておったところが、途中、カーブの砂で滑っ
て転倒してしまった。すぐに立ち上がろうとしたが、
お腹を打って痛くて動けん。「いかん、このままでは葬
式に遅れる」と焦るが、どうにもならん。そこへ、たま
たま中年のオバさんが運転する軽トラックガ通りかかっ
た。そのオバさんは車を止め、
「お坊さん、大丈夫かい?」と優しい声をかけてくれ、
壊れたバイクを軽トラの荷台に積んで葬式の会場まで連
れて行ってくれたそうである。このように、身をもって
なす施し、お金に代えられないもの、これも立派な布施
である。
二番目に持戒。道路交通法にはいろいろと決まりがあ
って窮屈である。かと言って、「そんなものうっとうし
いから、全部やめちゃえ」と、みんなが好き放題に走り
始めたら、事故がすごく増え、危なっかしくて走れたも
んじゃない。決まりを守る事も大事だ。こう言った決ま
りを守る事を持戒と申す。
しかしこれは、いちいち「こりゃ、酒飲んでバイクに乗
ってはいかん」「ノーヘルで走るな」と、こう他から言
われよっては持戒とは言えん。耳の痛い奴も大勢いるか
と思うが、自らそなわるということである。人に言われ
なくとも自分から進んで決まりを守るという事だ。
三番目の忍辱。(臭いニンニクの事ではない)ライダー
はいつも野ざらしである。しかし、「今日は、寒いから
電車で行こう」なんて気持ちは、もってのほかだ。
そんな姿にバイク乗りの渋みなんてにじみ出るはずもな
い。そこを負けるなと言う事じゃ。それも、歯を食いし
ばってと言う事ではなく、その場、その場に柔軟な心を
持って対応する、その問題と一つになって立ち向かうと
言うが、これ忍辱でござる。
一日二日の辛抱であれば誰でもする。三日でやめるを、
三日坊主と言う。コツコツと辛抱する事がコレ大切じゃ。
自信を持って、確信を持って進むというのを、四番目の
精進と言う。逆に、暴走族みたいにわけもわからずに走
る奴の事を、乱進と言う。
次に第五番目の禅定。禅定とは、「心静かに想う」と
いう意味である。
歩道を歩いてるミニスカートの女性に目を取られて思
わず追突しそうになったり、前を行く女性ライダーの見
事なお尻に見とれて、うっかり目的地を通り過ぎてしま
ったと言う事はないじゃろうか?(ワシはしょっちゅう
じゃ)その時、その時の心に振り回されぬよう、いつも
正しい判断をしていかねばならない。これが心静かな禅
定だ。
次に最後、六つ目の知恵。学校で勉強したり、人に教
わったものは知識と申す。知恵と知識は根本的に違う。
知恵とは、とらわれのなくなった心の状態を言う。
しかし、ワシらには、とらわれる事が実に多い。
バイクで道を走ると、車にあおられたり幅寄せされたり、
トラックに排気ガスを浴びせられて真っ黒すっぺになっ
たり、「邪魔になるから、あっち行け!」と、まるでノ
ラ犬を追い払うごとくクラクションを鳴らされたりと、
邪険にされる事がしょっちゅうある。で、そういう事に、
いつまでも遺恨を引きずり、ぐずぐず愚痴をこぼす。
腹が立つと夜も眠れん。そのうち体の具合も悪くなる
・・・・・ワシらは、怒りの心にとらわれて、かえって
自分自身を不自由にしておるのだ。
その点、子供は叱られても、叩かれても、恨みに思う
事はない。泣いても喧嘩しても、翌日にはたいがい忘れ
て、ケロッとしている。このように子供が生まれながら
に備えている、とらわれのない心が知恵じゃ。
前に説明した、布施、持戒、忍辱、精進、禅定、こう言
う事を一生懸命に実践して行く事によって、とらわれの
ない知恵の心が、自然に培われて行くのだ。
どうじゃ、このバイクライフ一つを振り返ってみても、
そこには六波羅蜜の教えが隠されておる。
そしてもちろん、これは生活の中にも必ず当てはまるは
ずだ。この実践によって、心にゆとりができ、許せない
トラックのあんちゃんや気に入らない警官も、余裕でか
わせるようになる。そして、世知辛く苦しみに満ちあふ
れたこの世の中もずっと楽しくなり、たった一度しかな
い人生をこの上なく充実させる事ができるようになる。
お前も、この六波羅蜜の精神で生きてみんかい!
喝!!