五葉光バトル説法生きてみんかい! 5

 さて、禅ボウズのワシから見ると、バイクは実に見事な
生活態度と申すか、ワシらが見習うべきものをたくさん
持っておるように思う。

 まず“走るために”という1つの目的を追求した結果と
して生み出された、シンプルで無駄のない美しいフォルム。
 タイヤは丸くて、角張った所がなく、滑らかで柔らかで
弾力がある。時には道にデコボコがあり、ガタガタガタと
なるんじゃけど、サスペンションの動きで本体はピクリと
もしない。
 そして、右や左に様々に曲がる道、それにそってステア
リングは的確に動く。クラッチには遊びがほどほどにあっ
て、スムーズに走行する事ができる。
 最近のバイクは性能が非常に良くなって、アクセルを
ちょいとひねれば、たちまちメーターを軽く振り切る事が
できる。これは余裕、ゆとりがある証拠。
 それと、すごいスピードを出していても、いつでもピタリ
と止まれる、素晴らしい性能のブレーキが付いている。

 どうじゃろうか。平生、何気なしに跨っているが、改めて
考えてみると、バイクはなかなか奥が深いものじゃのう。
さて、ここでバイクを自分自身、そして道を人生と置きかえ
て考えて見てくれんか。
 まず、お前の人相は、バイクのようにりりしくて美しいだ
ろうか? リンカーンも、「自分の顔に責任を持て」と言っ
ておる。
 お前の性格は、タイヤみたいに角がなく、弾力があるか。
サスペンションみたいに、柔軟に物事に対応できるだろうか。
そして、ステアリングのように、その場その場に応じる事は
できるか。

 張りつめた糸は切れやすい。クラッチの遊びのように、
お前の心にも遊びはあるか。せっかく生まれてきたのじゃ、
人生は楽しく旅せにゃならん。

 すごいスピードが出せるバイクが出来てきたと言う事は、
一方には素晴らしい性能のブレーキが開発されてきたからで
ある。お前のブレーキは大丈夫か? 人生の道中に自分のブ
レーキと言うものを、日に日に確認をして行く、反省をし、
落ち着いて行くという事、これも大事。

 曲がりくねった道、山道、デコボコ道と、道にもいろいろ
あるように、人生には失恋、挫折、病気、別れ、そして死と
いろいろな事が起こる。面倒な事も一杯あるじゃろう。
それに対応しつつも、決して時流に流されない、
そういう自己を確立しているじゃろうか。

 このように、バイク的な理想の生き方をする主体を、
禅では主人公と呼ぶ。
 よくドラマや映画の中心人物をこういう風に言うが、
これは元来、禅の言葉で、つまり、まわりにとらわれない
主体性を持つという事だ。 

 ところで、主人公の反対は何か知っとるか? 
それは家来、奴隷だ。しかし、ここでの主人と言うのは、
決して、いばるとか、エラそうにするという意味ではないぞ。
主人公で生きていくか、家来で生きて行くか、どっちか
と言う事なんじゃ。
もっと簡単に言うと、引きまわして生きていくか、
引きまわされて生きて行くか? 
運転手になって生きていくか、運転されて生きて行くか? 
即ち、いつでも、どこでも自分が主人公になって生きて
行けという意味だ。これが、禅が目指す理想の人間像と言える。

 例えば、下町の小さなバイク屋のオヤジを想像してみろ・・・・
 バイクのオイル交換をしながら、カブのパンク修理。
それが終わったら、お次は車検の準備。
お客さんが来れば「いらっしゃい」と答え、電話がかかれば
パッと出る。常連がきたらバイクの話に花を咲かせと、
まさに七変化の大活躍、これを当然のようにこなし、
客を思い、笑顔を絶やさず、自らの立場をハッキリ自覚して、
しかもその存在は欠かせない。これが、禅の言う主人公である。
その場その時の状況に即して、良く整えられた主人公である事を、
禅は要求するのである。

 言うまでもなく、バイクの主体は、ハンドルを握るワシら自身
である。お前は、先程申した本来の主体、主人公となってバイク
を操作しているじゃろうか? 
ついカッとなって、無理、無謀、危険な運転をして、
気がついたら病院のベッドの上だった、と言う経験はないじゃろうか?

 中国、唐代に師彦という禅ボウズがいた。
 師彦は自らに「主人公!!」と呼びかけては、
また自ら「はーい」と答えた。
そしてまた、自らに
「いつでもどこでも、他に惑わされてはならんぞーっ!」と、
答えられたと言う。
 これには、禅に深い奥義が隠されているが、取りあえず
ワシらは、ここから自らを反省して、戒める態度を学びたい
と思う。
特に昨今は、交通量もかなり増え、ワシらライダーは常に、
危険と隣り合わせなのだから、自分の命を守るためにも、
自己反省をし、戒めて修正する、こういう態度を欠くことが
あってはならない。

 安全で快適なバイクライフを楽しむ主人公は、自分自身で
ある。お前も、時にはバイクを自分自身に置きかえて反省し、
そして、注意一秒、この一秒に主人公たれ!

             

           喝!!