五葉光バトル説法生きてみんかい! 6

 南無地獄大菩薩という変な名前の仏さんがいる。
地獄がそのままワシらを苦しみから救う仏さんだという
のである。
 この仏さんを作ったのは、白隠(はくいん)という
江戸時代の禅坊主なのだが、この方は幼い頃、ある坊さん
から地獄の話を聞かされて、大変なショックを受けた。
で、地獄に落ちたくない一心から出家したそうな。

 一般には、地獄という所は罪深い事をして、死んだ人
がおちる所だとされている。そして、一口に地獄と言っ
ても、焦熱(しょうねつ)地獄に叫喚(きょうかん)
地獄など大きく分けて八つの地獄(八代地獄)があり、
それぞれの犯した罪によって行き先が決まるのだが、
下の階段へ行くほど罪が重くて、そこでの責めも重い。
また、地獄での生活態度によって、別の段階の地獄へ
移されたり、地獄から開放される恩赦という事もある
そうな。ただし、最も下にある一番罪深い人が行く
無間(むげん)地獄、ここへ一度入れられると、もう
二度とそこから出ることはできないのだ。
 で、この地獄には鬼が大勢いて、そこへ落とされた
者をくし刺しにしたり、鍋で煮たりノコギリで切り刻
んだりと、およそ考えうる限りの責めを加え殺してし
まうのだ。だけれどもそのまま死ねなくて、ゾンビみ
たくすぐ生き返っては、再び責めが始まるのだ。責め
られてこれで終わりと思ったら、また生き返って責め
られる・・・・「あれっ」と思わんじゃろうか? 

精神的にも、肉体的にもきつい一日がやっと終わって、
眠りについた。アッと言う間にまた朝がきて、同じ辛
い一日が始まる・・・・何か今の地獄の話は、ワシラ
の生活に似てないじゃろうか?

 例えば、会社でイヤな仕事を与えられた。
「毎日いやだなあ」これ、第一段階の地獄ではなかろ
うか。イヤイヤ仕事をすると、当然結果も悪い、上司
に怒られる日々。これ、第二段階の地獄に移った。
そこで、うさを晴らそうと思ってお酒が過ぎて、
飲み屋に借金がたまってきた、第三段階の地獄である。
この辺りから、そろそろ地獄らしい様相を呈してきた。
次の段階では、酒の飲み過ぎで肝臓を責められるか、
あるいは赤い顔をした借金取立鬼に追い回されるかで
あろう。まだ、この辺りの段階の地獄なら、抜け出せ
るような気がする。が、放っておくとどんどん落ちて
きて、さしずめここでの無間地獄とは、肝硬変で入院
→借金→失職→離婚→自殺とこんなところであろうか。
そして、その無間地獄の鬼はこう言っている。
「お前は、愚かな罪を重ねた。その悪行の報いで、今
お前は苦しむのだ。お前の苦しみの元は、お前自身が
作ったのだから、誰もお前を救う事ができない。ここ
へ落ちた時には、もう遅いのだ」

 とかく人間は、辛い事や苦しい事があると、それか
ら一時的な逃避をしようとする。それは酒を飲んだり、
女であったり、趣味の世界に逃げ込んだりするわけだ
が、これで根本的に解決された事にはならんのだ。
ただ、より深い違う段階の地獄へと舞台が変わるに過
ぎんのじゃ。そこで、その解決し得なかった問題を鼻
先に押しつけられ、強制的に解決を迫られるという責
め苦が、ワシらを待っているだけなんだ。
 ところで、お前も案外、初期の段階の地獄あたりに
落ちてウロウロしとるんじゃないか。朝起きた時に
「やれやれ、またいやな一日が始まるなあ」という自
覚がある奴は、もうすでに危ないぞ。勿論これはワシ
が言っているのではない、地獄の鬼の声じゃ。
「お前の苦しみの元は、お前が作ったのだ!」と。

 このように、地獄は決して死後の世界にあるのでは
なく、現前としてこの世に実在するのだ。それでは、
どうすればよいか。

 江戸時代の名僧、良寛和尚の言葉に「災難に遭う時
節には災難に遇うがよく候。死ぬる時節には死ぬがよ
く候。これ災難をのがれる妙法にて候」というものが
ある。即ち、災難から逃げようとするから人は苦しみ
が倍増するのだ。苦しみのなかにあるのなら、そこに
肝をすえる事が大切。肝がすわれば、自分の中に不思
議に力がふつふつと沸いてきて、それを克服できると
言うのだ。

 実は、この肝をすえて生きる姿勢こそが、南無地獄
大菩薩の御利益というものなのである。しかし、これ
何も本当の地獄に落ちるまで、この菩薩さんを保存し
ておく必要はないのだ。当然、浅い地獄ほど脱出しや
すいのだから、なるべく早いうちに菩薩に来てもらえ
ばいいのだ。

 いやな仕事に当たる、南無いやな仕事大菩薩さんの
出番だろう。いやな上司、南無いやな上司大菩薩さん
のお出ましじゃ。病気になったら、南無病気大菩薩さ
んだ。これら変わった名前の菩薩さんは、実は、すべ
て南無地獄大菩薩の化身である。つまり、菩薩はワシ
らが念じた所に、必要に応じた形ですぐに現れてくれ
るのじゃ。そして一言、こう言ってくれる。
「心配するな。ワシがちゃーんと付いとるんだから、
もうごたごた考える必要はない。大丈夫だから逃げず
に、しゃんと肝をすえて苦しみに真正面からぶち当た
れ、そうすれば必ず克服できる!」と。

 お前も苦しいときや悲しいときには、それからすぐ
に逃げようとせずに、南無地獄大菩薩と心の中で念じ
て、菩薩のご加護にあやからんかい。


         喝!!