五葉光鐵和尚のバトル説法 生きて見んかい! 1

 数年続いたバトル説法も、いよいよ今回でおしまいじ
ゃけれども、この何年間には、お前にもいろいろ忘れら
れないような出来事があったかと思う。
 バイクで転んで死ぬほど痛かった事。
 彼女とタンデムして
 おっぱいの感触がたまらんかった事。
 ベンツに乗ったヤーさんに「コラッ、殺すぞ!」と
怒鳴られビビッた事。
 たくさんのバイク仲間ができた事……等々、良きにつ
け悪しきにつけいろんな事があったと思う。
 お釈迦様は「人生はグーチョキパーじゃ」と仰った。
 すなわち、
「グーはチョキに勝つけれどもパーには負ける。でもそ
のパーもチョキには負けるというように、人生いつまで
もいいことばかり続くわけじゃないし、反対に辛い事も
いつまでも続くわけじゃない。だからどんなに辛くても
あまり深刻に悩まないで気楽にね♪」
 と言っている。
 じゃが、いくらお釈迦様が「気楽にね」と言ってくれ
ても、心はコロコロ変わるから、やっぱり何かある度に
揺れ動き、なかなか気楽に行けんのがワシらの心じゃ。
 ワシらの心を返り見ると、正直驚かされる。
 一人ぼっちになると寂しくなって人恋しくなる。
 そのくせみんなと一緒だと、うさん臭くなってすぐに
また一人になりたがる……自分の好きな事には夢中にな
り、気分がハイになる。すぐにブツブツ文句を言ったり
腐ったりする……。
 このようにワシらの心を見つめると、心の中にはいろ
んな自分が住んでいて、それがコロコロと入れ替わる。
 これでは一体、どれが自分の本当の心なのかサッパリ
分からん。
 仏教では同行二人(どうぎょうににん)と言って、感情
に走ろうとする自分を、「おい、ちょっと待てよ」と心
の奥底から冷静に見つめるもう一人の自分がいるのだと
説いている。
 例えばお前も、苦しい時や辛い時に、心のどこかで
「もうちょっと頑張れよ」と言う、ささやきが聞こえ
たことがあるじゃろう。
 実はこの声こそが、普段は会えないが、お前の心の中
にいる「もう一人の自分」の声なんじゃ。
 しかし、これが「おい、かったるいからもう止めにし
ようぜ」と、すぐに負けたり妥協したりと、自分をだめ
にする悪魔のささやきでは、本当の自分とは言えん。
やはり、多少「辛いっけなあ」と思えても、「それぐら
い辛抱できにゃー恥ずかしいぞ」「そんなつまらん事で
カッカするなよ」と、自分を励ましたり、反省させて向
上させてくれるものが、もう一人の、本当の自分でなけ
ればいかんとワシは思うんじゃ。
 そんなもう一人の自分にワシが初めて出会えたのは、
小学校三年生でまだ可愛かった頃である。
 ある日曜日、一人で汽車に乗って隣町の友達の家に遊
びに行った時の事じゃ。
 夕方になって帰ろうかと思ったら、汽車賃をどっかに
落っことしてしまった。
「こりゃー大変だなあ」と思って、あちこい探したがど
こにもない。
 それで結局、「寺まで歩いて帰ろう」と思った。
 ワシの寺まで、隣町から十キロ、その時のワシにして
みれば一大決心だ。
 歩き始めた時は、まだ家の明かりがポツポツと見えて
よかったが、とぼとぼと歩いているうちに山道にさしか
かって、いよいよ家が一軒もなくなってしまった。
 ワシはお寺で育ったから、全然怖いとは思わなかった
けど、「情けないのう」とか、「みじめだのう」と思う
と、涙が出てきた。
 で、しゃくり上げながらトボトボ夜道を歩いて行くと
いつのまにかワシは、誰かと話をしながら歩いていたん
じゃ。
 その声に励まされてワシは、三時間もかかってやっと
寺に帰ることができたんじゃ。
 その時、ワシのに声をかけて励まし続けてくれた声こ
そ、「もう一人の自分」だったのじゃ。
 その当時、子供だったワシを一緒に歩きながらずっと
励ましてくれたもう一人の友達は、当然お前らの中にも
いるのだが、普段生活してる時だはなかなか会う事がで
きん。
 では、どんな時に会えるのかと言えば、それはやっぱ
りお前らがくじけそうになったり、ピンチに立たされた
り、あるいは彼女にふられた時なんかにきっと心の中で
お前らに会いに来てくれるんじゃ。
 これが生身の友人だと、引っ越したり死に別れたりす
ると会えなくなるし、ケンカなんかすると口も聞なくな
ったりもするが、この心の友達だけは一生にたった一人
のだけだが、死ぬまでつきあってくれる本当の友人なん
じゃ。
 これをワシは、勝手に「心友」とよんでいる。
 心の中にいて、本当に信じる事ができる友人を言うわ
けじゃ。
 お前らは、一休さんのテレビを見た事があると思うけ
ど、何か問題が起きると、静かに考えて答えを出す。
 一休さんもやっぱり同じように、心の中の心友に相談
していたんじゃ。
 その一休さんのように、お前らも何か困った事ができ
たりつらくなった時は、おへその下にぐっと力を入れ、
ゆっくり二、三回深呼吸をしてみろ。
 すると、すーっと気持ちが落ち着いてくる。
 それから自分の心の中の心友に相談してみるがいい、
きっといい答えを出してくれるはずだ。
 この心友との対話がスムーズにいけば、人生気らーく
にいける。

           喝!