名車について
名車ってか。例えばもしもだよ、
『あなたが思うこれぞ名履物!』とは何ですか?
と聞かれたら、それなんと答える。
「・・・あんたさあ、それって登山靴とかビーサンとか
ブーツとかハイヒールってすべて一緒くたにして
『どれが最高か』って答えを
無理強いしてるようなものなのとちゃう?」
ふつうはこう思わないか?
それとまったく同じ事。
バイクだって靴と同じくらいに
使用目的も設計意図も用途も、
あれもこれもすべて違うのだからさ。
だから名車なんてこれはもう、
その本人の主観と、思い込みの入りまくった、
決めつけの極致のようなものとなってしまうと思うのだが、
それでもオレはまだ返答に詰まる。
なぜなら、その名車の次に出たモデルは、決まって
「名車と呼ばれたそのモデルをあらゆる面で上回っている、さらなる名車」
であることに通常はなっているからだ。
次回作というのは前作の不評な部分、弱点欠点、足りない部分を
補う方向でメーカーの人たち一生懸命作って来るのだから、
これは当然のことだろう。
するとそこに残るものは何か?
「そのモデルのみが表現している固有のスタイルや色・・・
振動その他やパワーフィール」
これしかなくなって来るのだ。
例えば、キックしかない古いハーレーだ。
まるで儀式のようにして、苦労してやっと掛ける。
でもそれが「いかにもハーレーらしくて自分は好きなんだ」と。
この味、雰囲気。これぞ名車ではないかと。
例えば、あのマッハ。だ。
とにかくパワーを加速力をと狙ったがために、
500ccもあるのに低速はスカスカだと。
「でも、あの途中から豹変する感覚がたまらないんだよ」と。
「それに2サイクルの直列三気筒、
このデザインなんて空前絶後だからね」。
だから名車なんだと。
これは車種そのものに対しても当てはめて考えることができる。
例えばボスホスだ。
あれは巨大だからこそ名車と呼べるべき可能性が残されている。
巨大でなければならないのだ。
そのためにどん なにデメリットを食らおうとも。
例えばモンキーだ。
あれは極小サイズだからこそ、名車とされる可能性が秘められているのだ。
極小サイズが災いして、
そのためにどんなにデメリットを食らおうとも、ね。
したがって名車とは
「すべての意味において、決して他車とは比較の対象にはならないもの」
であるか、または
「何らかの事情によりその時代でしか生きられなかったもの」
であるものだ、とオレは 思っている。
スーパーカブ。
モンキー。
CB450。
CB750k1・K0。
マッハ。、及びマッハ750。
DT-1
ハスラー400。
ガンマ250。
RZV500。
CBX1000。
KZ1300。
GSX1100カタナ。
Vmax。
・・・随分すっ飛ばしたものもあるが、
これらのものが『名車』と呼ばれるのにまったく異存はないが、
ではこれらの中から特に・・・と言われると、
実はすでに答えは決まっている。
オレの中ではずっと昔から変わらずにね。
スーパーカブと、CB750と、そしてDT-1だ。
この3台はそれぞれ乗り易さ、扱い易さの極致である
「実用車や ファミリーバイク」の礎を、
「スーパースポーツバイク」の礎を、
そして、「オフロードバイク」の礎を築いた
とてつもなく意味の大きな存在なのである。
オレはよくビートルズを引き合いに出す。
ある日突然現れて、全世界の人々の度肝を抜かす・・・。
なな、なんだこりゃあ! と目ン玉をひん剥かせ戦慄を走らせ、
たちまちその世界へと引き込んで行く・・・。
それまでにも、な〜んとなく似たようなものも
あったかも知れない。
しかしビートルズがそうであったように、
極めてオリジナル性の高いスタイル、
驚愕すべき性能を持ったこの3台のオートバイは、
以後全世界のメーカーにとてつもないほどの
インパクトを与えただけではなく、
「〜のようなもの」という例えに用いられるほどの
存在となったのである。
(このような意味で言うならば、ハーレーなどは
50年前からすべてそうだ、となってしまうがな)
「私の思い出に残るオートバイ」というものと、
「名車」というのは、
このように根本的に違うのだとオレは思っている。
この3台は、どれも
「初めて乗ったとき」に大仰天させられたので、
例外的に「思い出」「名車」の両方に重なっているのだが、
それ以後はみんな少しずつ進化して行ったものに絶え間無く
乗り続けて来たために、つまり最初の
「前例が全くないゆえのインパクト」
から遠のいてしまっていたゆえに、
オレはもう仰天したり、度肝を抜かされたりということは
すっかり無くなってしまっていたのだが・・・
それがまたあった、1度だけ。
Vmaxである。
1985年の2月。Vmaxの発表会が行われ、
オレはバトルスーツのモデル、原型となったやつを着て出掛けて行った。
どんなオートバイなのか全然知らなかった。
なにやらアメリカンのようなものだと思い込んでいたオレは、
コイツを見て横っ面をひっぱたかれたような衝撃を覚えた。
145馬力と聞いて一瞬我が耳を疑った。
当時「ズ抜けて凄い」と言われていた
あのカタナ1100だって111馬力でしかなかったのだ。
袋井のコースから得意のストリートへ出て、東名高速へ乗った。
前を行くトランポがいつものようにリヤゲートを開けた。
カメラマンがガッと勢いよく近づいて来るようにとゼスチャーした。
そこで初めてオレはガバッと伏せると同時に全開にし、
145馬力を解放した。
Vブーストとやらが炸裂した瞬間・・・
なんとオレはもう少しでトランポに激突しそうになり、
リヤタイヤをロックさせていた。
それまでにも速いバイクはたくさん乗って来ていた。
しかし、コイツはそんなオレの予想を遥かに超えるほどの、
まさに想像を絶する驚くべき加速力で突進し、
車間距離をアッと言う間に使い果たしてしまったのである・・・!
まさに目ン玉をひん剥いた。
まさに度肝を抜かれた。
先に書いた「3台の礎」以来、
現在に至るまでこんなに驚かされたのはこれが最初で最後だ。
12R、ハヤブサ、確かにものすごい加速をする。
しかしそれはやはり、Vmaxの延長線上のものでしかないのだ。
だから最初で最後、だと思う。
一気に200馬力オーバー、トルクも20kg-mオーバーとかいう
バケモノが突然現れるまではの話だが。
そう、オレは、このときもやはり
「それまでに前例のないもの」にやられたのだ。
しかるに近年ではやはりコイツを
『オレの思う名車』の代表格としてここに挙げておこうかな。
MB 2002.11月号