HONDA Ape100
ライディング・スクール等で使われるバイクに、
XR100というやつがある。
本来は主にオフロードの初心者を対象として作られた
競技用のバイクであるが、
小っせえ車体に、4ストではあるが
100ccの良くブン回るエンジンを搭載したコイツは、
見た目の小っこさとは裏腹にめっぽう良く走る。
100ccだからパワー的には大したものはないが、
その分逆に「いつも開けっ放し」でいられるので、
結果としておもしろいように
速く走らせることができるのである。
ジムカーナOK。パイロンスラロームOK。
もちろんダートコースの走行は言うに及ばずだ。
だからコイツはスクール等では非常に評判が良く、
人気が高い車種となっている。
知る人ぞ知ると言って もいい機種であろう。
そのXR100に保安部品を付けたら、
これはめちゃくちゃ面白い街乗りバイクができるのではないか?
と、どこかのカスタム・ショップが改造を企んだとしたら、
こんな話が出るのではなかろうか。
「なあ。街乗りオンリーなんだから、
こんなでかいタイヤなんかいらないんじゃないか?」
「そうだよなあ。ちっこいのにしよう、ちっこいのに。
すれば車高も俄然低くなるし」
「てことは、サスだってこの半分のでいいよなあ。
すれば車高もっと低くなるぞ」
「どうせなら外装も、モンキーのでかい版みたいなほうが、
おもしろいんじゃないか?」
「そんならよう、名前、類人猿なんてどうだ?」
「おもしろい! それでいこう、それで!」
で。作っちまった本当に。
それもそこらのショップではなく、
世界最大のオートバイメーカー、本田技研が!
・・・言っておくが、これはオレの想像話である。
だが・・・先だってエイプ50を発売したときに、
実はホンダの人達というのは
最初こんなことを企んでいたのではないのだろうか?
とオレには思えて仕方がないのである。
50ccであるならば、エイプは単に
「今ふうのデザインをした、
所詮50ccなりの走りをする原付きバイク」である。
ところが、この50のエンジンは、
XR100のものと、高さが僅か数mmしか違わないのだ!
だから、オレには最初からコイツに
「おい、50でけっこう売れたらさ、
コイツにXRのエンジン、100ccのやつ積んでしまわねぇか?」
と企んでいたとしか思えないのだ。
つまり主役は最初からこの100のほうなのではあるまいかと。
もしかしたら、こんな笑い話に近いようなことも、
企画の段階ではあったのかも知れない。
「なあ。相変わらずモンキーとかの改造は流行っているけどよ、
モンキーの前後のタイヤ12インチにして、
それに伴ってスイングアーム延長したり、
フロントフォークをちゃんとしたセリアーニタイプの
やつに変えたりして、
それでエンジンのボアもストロークもアップして
100ccぐらいまででっかくして・・・とやったらだな
・・・それってエイプの50にXR100のエンジン
搭載したやつと限りなく同じものになるんじゃないか?」
「思う思う! まあエンジンの水平・直立という
見た目の違いはあるかも知れないけど、それ言えてるよな」
「マニアの連中、それで車両本体の他に、
20〜30万円とか、ザラに掛けているんだぜ?
・・・ だったら『最初からホンダ純正・保証付・
信頼性バッチリバージョン』出したら、
これイケると思わない?」
実際コイツは、ほとんどそれなのではないだろうか。
シリンダーが寝ているか立っているかを除けば、
モンキーやゴリラの外観イメージの象徴である
あのガソリンタンクをコイツに取り付けてしまったら
「まんまそれやんけ!」
の世界ではなかろうかとオレは思う。
では走りはどうなんだ?
なんの変哲もない、そこらのファミリーバイクかと思って
なめてかかったらいけない。
これが・・・・笑ってしまうほど良く走る走る!
コイツに乗ってオレが真っ先にすっ飛ばして行ったのは、
横浜新道だった。第三京浜から直結しているこの道は、
昔から東京・川崎方面と湘南とを結ぶ、
絶好のツーリングルートだ。
近年拡張整備され、
本来は国道1号線のバイパス路としての役割を担う道なのだが、
まるで第三京浜の続きのようなこの道は
60km/hという制限速度など事実上あってないかのごとく、
みな飛ばす飛ばす。
だからここを原付きで走るのはかなり怖い
(30km/hという原付きの法定速度を守っているならば
他車とのめちゃくちゃな速度差が恐ろしくて
路肩を走らざるを得ない。
仮に全開で走っていたところで
一般車にアオられて怖い思いをするし、
加えて常に覆面に30km/hオーバーで捕まるかも知れない
という恐怖感と戦いながら走ることになる!)
ものがあったのだが、
それが100cc、原付き二種となるコイツならば
その恐怖が取り除かれる。
ここはかなりアップダウンのある路線なのだが、
上り坂でも80km/hはきっちりと、
平坦なところならば90km/h近くまで出る、
さらに下り坂ならば伏せれば目盛りを完全に振り切った、
推定100km/hの辺りまでもコイツなら出てしまうので、
回りに迷惑も掛けず、
また自分も恐怖を感ずることなく流すことができるのだ!
エピソードをひとつ。
川崎にあるオレの家から、
下道を走って新道に乗り江ノ島までバイクを飛ばすと、
Vmaxでもなんでも、およそ50分ほど掛かるのであるが、
なんと・・・
コイツでもそれは、ほとんど変わらないのである!
どういうこと? これ。
自分で答えてしまおう。
加速も最高速も100ccの範疇のものではある。
あるが、ところがそれは
「一般路では実は十分なもの」なのであり、
5速ミッションを駆使して
常にフルパワーを引き出して走らせてやると
結果として驚くべき平均速度をコイツは持続し続けてしまう、
というわけなのだ。
とにかく、ほんとうに良く走る走る。
さっきも書いたが、
足回りを大改造して車体を膨らませ、
エンジンも最大級に膨らませた、
かねの掛かりまくったモンキー等でも、
おそらくその99%の車両はコイツに適わないとオレは思う。
まるっきりのノーマルのコイツに、だ。
よしんば仮に一部の極端な改造車に
加速や最高速でほんの少し負けたとしても、
乗り手はそれをどうとも思わないことだろう。
例えば音だ。
抜け優先の爆音マフラーでその性能を
発揮するそれらの車両と違って、
コイツはノーマルのカブのような音で唸るだけで、
この性能を手に入れているのだ。
さらに、ハイチューンされた改造エンジンは
低速域では使い物にならない、ということを
忘れてはいけない。
ところがコイツの場合はさすがメーカー純正エンジン、
しかも初心者にも扱い易いように設計された
エンジンだけあって、歩くような低速でも、
新聞配達のカブのようにタップリと粘ってくれるのだ。
だから住宅街の急坂を、
パワーバンドに入れるためにブン回して、
爆音轟かせて駆け上がるようなことも、しなくていい。
つまり総合的な面で見れば、
こちらのほうが遥かに高性能なエンジンであり、
また他の部分の特性として儲けているところが多い、
と自分で納得できると思うからだ。
ここまで走ってくれると、
それゆえに欲が出てきてしまう部分もある。
その最たるものはブレーキだ。
XR100のエンジンを搭載
(正しく言えば、そのままのものではない。
街中で乗り易いように、また耐久性を考慮して
若干のディチューンが施されているのであるが、
これは実際乗ってみても体感では分からない程度のものだ)
したのであれば、
ブレーキも同じくXR100のディスクを、
オプションでもいいから付けられるように
してもらいたいとオレは思った。
この性能に、ファミリーバイク的な
ドラムブレーキはねぇだろうよ、というわけだ。
けっして効かないわけではないのだが、
エンジン性能と制動力は
常にパックで考えてしかるべきものなのではないだろうか、
とオレは思う。
もちろんコストの問題が立ちはだかってはいるだろうが、
もしアレを流用できたら、
タイヤの外径が極端に小さいので
効きは差し引き3倍にもなると思う。
効き過ぎてもいいぐらいだ。
なにしろコイツは2ケツして走れる乗り物なのだから。
また、コンパクトにまとめられているのは良いのだが、
フェンダーまで超小さいというか、短いのは
どんなものだろうか。
実用性がまったくないのだ。
実は、初めて乗ったときは雨上がりで
路面が一部濡れているところがあったのだが、
その程度のところを走っただけで、
Gパンからジャンパー、シールドまで
泥ハネだらけになってしまった。
特にジャンパーなど、白いものを着ていたせいもあるが
ファミレスに入るときは恥ずかしくて
脱がねばならないほどひどく汚れてしまっていた。
おそらくこれは50ccの全開走行時でも
同じく起こるだろうと思うが、
圧倒的にスピードの出るコイツの場合は、
さらにひどい目に合うこと請け合いだ。
作ったとき・・・
誰も濡れた路面を走らせてみなかったのだろうか?
そうそう、気になった点はもうひとつある。
せっかくのスリムな車体なのに、
それを台なしにするようにタンデムステップが
ガバッと外側に取り付けられているのだ。
小っこい+低速でも粘り強いので、
2ケツした場合でも
みんなきっとガンガンとスリ抜けをすると思うのだが、
そのときに自分の足よりも
完全に靴1つ分ほども飛び出ることになるこの部分は
すごく気になるハズだ。
だが、この問題は解決する方法がある。
右側はマフラーステーと共用されているので
これ以上内側に入れることはできないが、
左側はただの鉄棒だけなので、
足やレンチを使って内側にひん曲げてしまえばいいのだ。
いろいろ書いたが、トータルとして見た場合、
コイツは実におもしろいバイクだと思う。
いろいろな意味でだ。
4ストの単コロの100。
これは現在では投入されている商品が
他にないジャンルだが、的を得た排気量とも考えられる。
なにしろまだ原付き二種の上限までは
「25cc」も余裕があるのだ。
そしてこの数字は、
アフターパーツメーカーがボアアップキット等を開発するに、
絶好の余裕を残しているとも言えるではないか。
ところで、50の倍もあるのだから、
逆に余裕を持ってのんびり走れるのではないか、
と思ったりしている人はいないだろうか?
オレの場合はまったくその逆になってしまっていたと書いておこう。
5速をフルに使って常にチェンジチェンジで、全開に次ぐ全開。
100ccならそれがまだ可能だからゆえに、である。
「自分自身の努力によって、エンジンの能力を100%引き出してやる」
これがどんなに楽しいことか、バイク乗りなら分かることだろう。
「その結果でも、阿呆のような速度域には足を突っ込まない」
これが現実問題として、
どれほどありがたいことか分かる奴もまた
多いのではないだろうか。
今回はおよそ335kmほども常に全開全開で
乗り回して遊んでしまったのだが、
こんな走り方をしていりゃあさぞガスも食うだろうと思ったら、
それでもコイツはなんとリッター約42kmも走っていやがった。
まるでテレビゲームのような走り方をしていてだ。
その代金・僅か770円。
ほんとうにマジな話、
これからもし、モンキーやゴリラを買って
「ファッション」としてカスタムするのではなく、
「速くしようとして」
あれこれいじろうと考えている人がいるとしたら、
これ絶対に一度どこかで試乗させてもらったほうがいいぞ。
そしたら一発で
「・・・・俺これにモンキーのタンク乗せ替えよう」
なんて思ったりして。
うはは!
キャプション
エンジン
「日常的に使用される」という耐久性の問題と、
その「使用される状況」を考慮し、
XRの9.8PS/9000rpm・0.81kg-m/7000rpmという
高回転・高出力の特性から
7.0PS/8000rpm・0.71kg-m/6500rpmに
若干ディチューンして搭載されているが、
「常に頭打ちするほどブン回して」という走らせ方をして
乗り比べてみない限り、
その差はまず感じ取れないだろうとオレは断言する。
またバッテリーレスなので、
それに関するメンテナンス&トラブルも皆無だ。
メーター
オドメーター・ニュートラルランプ・ハイビームの
インジケーターのみという、低価格に寄与している
超シンプルなメーター回り。
しかしだ。ウインカーのインジケーターがないということは、
点けたか、消し忘れたかは、それを生で見るか
スイッチそのもので確認するしかなということで
・・・オレは何度も消し忘れて恥かいた。
ブレーキ
XR100のパワーで押し出すのだし、
まして、や二人乗りして荷重が50に比べて
倍増する可能性があるのだから、
ブレーキはやはりディスクにしてほしかった。
ちなみに50のホイールは前後共穴空きタイプだが、
100はフロントのみが穴空きでリアは未加工のまま。
50と100を見分ける一発ポイントはここだ。
ステップ
左右均等の幅にしようとした結果だろうが、
こうして見ると左側が、ある意味無意味に
出っ張っているように見えるだろ。
こっち側だけでももう少し内側に寄っていてくれると、
擦り抜け時の縁石ギリギリ走行のときなどには
すごく気が楽になるのだが・・・。
ちなみにここは、
自分で簡単にひん曲げられそうな作りだよ。
MB 2002.5月号