Kawasaki BALIUS-&HONDA HORNET

 

 欧米のカーマニアたちが日本へとやって来ると、
みな一様に目を剥いてたまげるクルマがある。
セルシオやGT-Rではない。実は軽自動車だ。
空港でレンタカーを借りようとしたときなどに、
「なんだ、あの異様にコンパクトなクルマは!」と、
取り敢えずそのサイズにみな驚く。
そして、その小さな車体の中に収められているエンジンが、
僅か660ccの4気筒+インタークーラー付きターボであり、
フルタイムで4輪駆動されていることを知り、驚きは驚愕に変わる。
「まま、マジで?」

 その連中がまた、ちょっとバイク好きの人間でもあったりすると、
なお、おもしろいことになる。
「あそこに止まっているバイク、アレなんか、250ccだぜ」
「ほう! あのデザインで、単コロか。やるなあ、日本人も」
「いや・・・・4発なんだよ」
「ななな、なんだとう、250ccで4シリンダーだとう!?
俺をかついでいるんじゃないだろうな」
「いや、本当のことだよ。
オレの国じゃあ珍しくも何ともないバイクだよ。
箸を使う手でな、繊細かつ器用に工場の連中組み立ててな、
15000〜16000なんて簡単にブン回るんだぜ」
「レース用のエンジンじゃないんだろう?
市販車のものが、そんなに回るのか!
そんな回して壊れないのか!?」

 回るも壊れないも、
現にジェット機のような高音を発してぶっ飛んで行く
それらのバイクを目の当たりにして、開いた口が塞がらなくなる。
そして頭の中はこんなことでいっぱいになる。
(・・・そんじゃあよう、これふたつくっ付けたら、
例えば500ccのV8DOHC32バルブ、80馬力/14000回転、
レブリミットは18000回転・・・なんて、そんなのできるってか!)
そう考えたら外人でなくともこれは驚きの話だが、
さらに逆に考えたら、
それを半分にぶった切ったようなエンジンが
すでにもう10数年前から現実に存在し、
オートバイに搭載されて街中を走り回っている・・・!
これ自体にたっぷりと驚かねばならない。

 ではその超小型高性能エンジンを搭載したオートバイは、
どんな走りを見せるのであろうか?
以前はスズキにGSFやバンディット、
ヤマハにFZRフェーザーやジール、カワサキにZXRと、
その他にもたくさんあったのだが
時代の流れか残念ながら現在では今回取り上げた
この2機種しか生き残っていない。
が、いずれにせよどちらも超高回転までブン回る、
極めてレーシーな乗り物であることには間違いない。

 オートバイを乗り回すときの楽しみのひとつとして、
「ギアーをやっつける」というものがある。
各ギアーで思いきり引っ張りそのギアーを完全に使い切り、
次のギアーへとチェンジする。
また完全に引っ張り切り・・・とやったときに、
「ああ、自分はエンジンに負けてないぞ、
性能完全に出し切っているぞ・・・!」
という満足感というか達成感というか、
とにかくそんなものを感じている人も少なくないことだろう。

 直線のみ、ただ開け続けていればいいという高速道路ならいざ知らず、
市街地は無論のこと通常ツーリングで走るような一般道では、
これは400ですら、すでにかなり難しく、またリスクを伴う事となって来る。
それ以上の排気量になったらなにを言わんかや、
引っ張り切るなどというのはせいぜい2速か3速まで、それも一瞬が関の山だ。
ところが・・・
コイツらの場合は常にそうやって楽しみながら走ることができるのである!
これぞ250cc4気筒の最大の面白みといって良いだろう。

 では具体的にどんな乗り味なのか? 
両車に共通して言える部分から書いていこう。
まず低速トルクは、からっきりない。
ハッキリ言って下はスカスカである。
250ccで4気筒といえば、
1発当たり僅か62ccチョイにしか過ぎないのだから
これは当然と言えば当然だ。

 ちなみに両車のボア/ストロークは
バリオス49.0mm×33.1mm、
ホーネット48.5mm×33.8mm。
(指でおよその大きさを作ってみるといい。
いかに小さなものか分かることだろう。特にストロークのほうだ。
直径5cmにも満たないピストンが、
僅か33mm台という微小レベルの距離を、
1分間に16000回とか17000回も上下している、
することができるのである!
参考までに書いておくと、
これはモンキーやカブの50ccエンジンのストロークは、
41.4mm、あのブン回る代表各の50cc、
ドリーム50の39.6mmを遥かに上回る微小さだ!)

 まるでナベの蓋が振動しているようなものである。
単気筒ならクランクアームが1本で長く取れるため、
トルクの源となるクランクシャフトの回転力も必然的にアップするが、
それが4分割されているゆえに、
どうしてもこの面では不利になってくるのである。

 しかし。ここでひとつ、今書いた話と一見矛盾する、
驚くべき話を書いておこう。
それはなんと、その気になればどちらの車両も
クラッチを急激に放しさえしなければ、
ほぼアイドリングのまま発進することも可能だということだ。
そして同じくトップギアーに入れたまま1000回転ちょっと、
若干でもガスを供給してやっている状態であるならば、
30km/hかそこらでズーズーと走れてしまう・・・
ということなのである!

 低速トルクが無いと書いたばかりなのに、これはどういうことなのか?
まるでリッターバイクのインプレのときに書いている事と一緒ではないか、
と疑問に思うことだろう。
答えは「4発」であるという部分に帰結する。
つまり、僅か250ccしかないのにそれを4分割にしてしまっている、
だから低速トルク自体はどうやっても出ない、確かにそうなのだが、
しかしトルクは無くともその代わり常にどこかのシリンダーが
爆発工程にあり、微力ではあるが
クランクシャフトをねじ回そうとしているために、
常に回転力が途切れることがないからなのだ。
「ガッとは来ないが、モーターのように
ムラなく常に回り続けていてくれる連続性が、
粘り強さとして現れている」とでも言おうか。

 だが、と、ここで敢えてもう一度言わせてもらう。
「でも実際には、スタートの際ふつうにクラッチを繋いだだけで
予想外のエンストこく人が大半だろう」と。

 この「滑らかさ」と
「アイドリング付近でもガコガコ来ない」ということが、
実は大いにくせ者なのだ。
なまじ動く、粘る。
なのでこれをそのうち勘違いし始めて、ついついスタートの時にも
無造作にクラッチを繋いでしまうようになってしまうのである。
すると今度は根本的なトルクの無さが顔を現し、
まるでキルスイッチに触ったかのごとくフッ・・・と
エンジンが止まってしまうのだ。
ガコガコなどしない。ほんとうにフッ・・・・とだ。
なのでどうしてもついつい高回転で繋ぐようなクセが付いて
しまうのだが、ここが慣れ/腕の見せどころとなる部分だろう。
この部分さえ除くならば、
一般車の流れに則って法定速度の範疇で走っているならば、
例え急坂として知られる天下の険・箱根の旧道を走ろうとも、
どちらも5速、最悪でも4速ホールドのままで
問題なくズーズーと上って行ってしまう
(実際にテスト済み・ただし大きな加速は望まない状態)という、
単気筒ではとても考えられないような能力を見せるつける。

 では、ブン回したらどうなんだ?
これぞまさに本領発揮だ。
ピストンが小さくて軽いから、 ヒャンヒャンとブン回る。
あまりにも呆気なく10000数千回転までブン回ってしまうので、
タコメーターの目盛りを半分の表示にしてもいいのでは?
と思ってしまうほどだ。
つまり12000回転ならふつうのバイクの6000回転に、
16000回転なら同じく8000回転・・・と
思っていればいいのではないかと。

 ただし、どちらも実際はそれぞれ
レッドまでの4分の3〜5分の4あたりまでしか使わないことが多い。
そこを過ぎると音だけがバイオリンのようにカン高くなるだけで、
加速はグッと鈍くなって来るからだ。
そもそも12000〜13000回転も回っていれば
もう十分にエキサイティングな音はするので、
それ以上の「超高回転域」というのは、
まあ乗り手のギアやっつけ感覚のお楽しみ部分、
と捉えておいてもいいだろう。

 いずれにせよ、そんなに四六時中ブン回していたら
いかに250と言えどもガス食ってしょうがないのでは?
それでは250に経済性を求めている人には向かないのでは?
そう心配する人もいることだろう。
 そこで今回はオレが1台ずつ単独で飛ばし気味にして走ったのと、
2台でいかにもツーリングペースで走ったものと都合980km!
にも及ぶ徹底した燃費テストをやってみた。
(計測は車両の傾きを統一させるために
同一スタンドの同一給油機で向きも同じ、さらに自分チャージ)

バリオス
単独飛ばし気味、214.7km走って9.85P使用・P当たり21.79km。
ツーリングペース、224.0km走って9.76P使用・P当たり22.95km。

ホーネット
単独飛ばし気味、317.6km走って12.05P使用・P当たり26.35km。
ツーリングペース、223.7km走って9.00P使用・P当たり24.85km。

 ・・・ほとんど変わらないという結果となっていた。
思うにこれは、50ccのミッション付というのは
本人の意志に拘わらず結局いつもブン回している状態となってる、
それをなんとも思わない・・・という
アレと同じようなことなのではないかと考えている。
 なにしろどちらも申し合わせたように
50km/hで走っていても 4000回転チョイ、
60km/hならばすでに5000回転チョイ、
100km/hなどという日には
なんと8000回転も半ばの辺りを
タコメーターの針が指しているのだから!
もちろんトップギアー6速での話である。
 このため初めて乗る人などは
絶対に今5速、いや4速に入りっ放しになっている!
と錯覚して何度も、もうないギアーを掻き上げようとするだろう。
ちなみに、テストコースでレッド付近まで引っ張った場合の、
およそであるが到達速度を書いておこう。

バリオス
1速60km/h・2速80km/h・3速120km/h ・4速150km/h弱。
5速6速は距離不足で不明。
ただし6速は115km/h〜10000回転を超えるのを確認。

ホーネット
1速〜4速まではバリオスと似たり寄ったり、
5速165km/h、6速13000回転で150km/hぐらい、
その後160km/hの辺りで若干の上り勾配の走行抵抗に負けて頭打ち。

 

 最後に両車の主な特徴と相違を書いてみよう。
エンジンはバリオスのほうがよりレーサー的で、音も迫力があるが、
10000回転前後にトルクの谷があり、微震動も出る。
 ハンドリングはホーネットのほうが軽やか。
比べてしまうとバリオスはかなり重く感じる。

 ホーネットのレッドは16000回転から、
バリオスはさらに1000回転多い17000回転からとなっているが、
実際はここまでまず回すことはないので、
この1000回転は特に優位な部分とはならない。
むしろホーネットのほうが
低回転域ではバリオスより力強いので
乗り易さでは絶対に勝っていると言えるだろう。

 車検無しで、維持費が安く、手足のように扱える、
世界に誇れる超高回転小型スポーツバイク。
  実はこれ、すごい車両なのだとみんな再認識すべし。

 

キャプション
ホーネット
バリオスとのリア回りの決定的な相違は
「2本サス方式」を採用していないという部分だ。
スカスカな感覚がよりタイヤの太さを印象付けている。

バリオス
リアサスはショーワ製のゴールドアルマイト処理された
リザーバータンク付き・イニシャル5段のものを採用。
吐き出される排気音はこっちのほうが凶暴だ。

ホーネット
フロントタイヤは130の16インチでキャリパーはニッシン製。
レバーの根元でダイヤル式で7段階に遠近の調整が可能となっているが、
クラッチ側にはこの調整機構は無し。残念な部分だ。

バリオス
F/R共に17インチサイズ、キャリパーはトキコの2ポットを採用。
レバーの調整は4段階のダイヤル調整式。
ちなみにこっちはクラッチも5段階の調整が可能となっている。
ありがたや。

ホーネット
レッドゾーンは16000から。
そのタコメーター内には燃料計が装備されているのだが、
150km/h近くになるまで
「フルの側にぺったり張り付いたまま」なので、
悪い意味で驚かされる。

バリオス
レッドゾーンはホーネット+1000回転の17000から。
20000回転というギネス級のウルトラ高回転を売り物にしていた
ベースエンジン・ZXRの血統がここに引き継がれている。

ホーネット
シート下スペースの少なさはリンクサスの構造が
邪魔をしているため無理ないが、しかし、
なんでこんなところにメインのヘルメットホルダーがあるんだ?
と考え込んでしまう。使いにくいぞこれは!

バリオス
カワサキ定番の、実にありがたい荷物フック付き。
2本サスゆえに確保できた中央の大きなエグレ部分は
カッパが楽勝に入るサイズで、
全体の収納容積を見てもホーネットの倍はありそうだ。

ホーネット
マフラーはバリオスとは比較にならないぐらい
車体側に寄せられているので、
スリ抜け等の時にはこっちのほうが遥かに気を使わなくとも済む。
180という超極太タイヤはリッタークラス物だ!

バリオス
140と、これでもパワー/車重比で言えば過剰なくらいの
十分なサイズを持っているのだが・・・。
マフラーの無造作な張り出しも、
オーソドックスな2本サススタイルゆえの痛い代償だ。

ホーネット
目ぇ三角にして走らない人であれば、絶対にこっちがお薦め。
トンガラざるを得ないコンセプトの中でも、
乗り易さ優先のセッティングがされているのはやっぱりホンダだね。
ことエンジンに関しては日常的に使うことを主眼に置いて
あれもこれも作られている。

バリオス
音も含めエンジンのフィーリングはコイツのほうがぜんぜん熱い。
いっちょやったろか、の走り屋を自認するなら
こっち買わないでどうすると言い切ってしまおう。
ただし細けぇ事ガタガタ言うな、それ条件。
ネイキッドを装った実体は公道レーサーだな、コイツは!

                   

                 MB 2002.11月号