BMW GS650
ファンデューロ。
聞き馴れない言葉である。
ファンバイクとエンデューロバイクの中間的なオートバイ、
という意味でBMWがF65のためにこしらえた言葉だ。
そのF65の最新モデルがコイツである。
Fは「どんなときにも楽しい走り」という意味の、
Fun in any situationであり、
GSは「どこにでも行けるストリートバイク」の
Go anywhere Street bikeを意味している。
つまりコイツは日本で言うところの
マルチパーパス、あるいはデュアルパーパス
(こちらもまたオンでもオフでもどちらにでも使える、
という意味合いの言葉だ)
と呼ばれているものと同様のモデルであり、
決してオフロード専用のものではない
(具体例として同種のものを挙げるならば、
ホンダのXL65Vトランザルプやアフリカツイン、
スズキのXF65フリーウインド等となる だろう)
ということを最初に語っておこう。
BMWの商品ラインナップの中では
オフロードバイクとされているものの、
実際は「道を まったく選ばないオンロードバイク」
というのが正しい解釈なのである。
・・・でもコイツは99年のグラナダ−ダカールラリーで
勝利を収めたF65RRがベースとなっているのではないか?
それならば、立派なオフロードモデルなのではないか?
そう疑問に思う 人もいるだろう。
確かに
「このときのマシンに使われたコンポーネントの多くは、
実はこの新しいF65GSのために開発されたもの」 (BMW談)
という事実もある。
しかし、グラナダ−ダカールラリーのような類いのものは、
その99・99%までもが全開に次ぐ全開 、
超高速で砂漠道(あるいはそれに準ずるような道)を
駆け抜けるという、特異な状態を強いられる事実もまた、
忘れてはならない。
そんな状況では、
せいぜいがとこ100km/h+αぐらいまでの使用しか
想定されていない、
通常の排気量を持つオフロードバイクでは
とても勝つことはおろか、耐えることすらできないのだ。
そのため多少の柄の大きさ・重さになることにも目を瞑り、
まるでオンロードバイ クを改造したかのような
大排気量・大パワーのオートバイのオンパレードとなる。
車体が大きく重たいということは、裏を返せば
細かな技は通用しなくなってしまうということに直結する。
実際撮影時のリクエストに答え、
オフロードバイクのイメージよろしく
かなりの薮の中をオレは走ってみたのだが、
正直言ってこれはかなりの冷や汗ものだった。
しかし、だ。
では、この排気量を持つオンロードバイクで
こんなことができるか? 絶対に不可能だ。
このバイクの評価を考えるとき、
このことは極めて大きなポイントとなってくる。
オンロードモデル並の排気量があり、
ガタイもでかくてそれなりに重い。
にも拘わらず、走ろうと思えば薮の中も走れてしまう・・ ・。
もちろん、これは乗る人間にある程度の腕があるという
大前提の話しではあるが、いずれにせよ、
これはえらいことには間違いないとオレは思う。
なにがえらいことか?
例え腕にあまり自信がなかろうと初心者であろうと、
「げえっ! やべえ、舗装が途切れているぞ!」という、
知る人ぞ知るあの大恐怖から解放してくれるからである。
オフ車はオフを走れて当たり前。
しかし、優れた高速性能と快適性を持つ「オンロードバイク」が
そのままオフも走れてしまうという・・・。
これをえらいことと言わずしてなにをそう言おうか。
さて、ではもしコイツにみんなが乗ったとしたら、
いったいどんな印象を受けるか? ということを書いてみよう。
まず、そのドッシリとしたハンドリングに
驚かされるというか面食らうだろう。
ステアリングダンパー(装着されてはいないのだが)が
目一杯締め込まれているのではないかと思うほどに、
ハンドリングはドッシリと重い。
ラリー時のように超高速でダートを駆け巡っても
フラれることなく安定しているようにとの配慮からなのだろうが、
実際これは相当に荒れたFRを飛ばしていても
平気で片手を離せるほどのもので、
他には類を見ない味付けである。
具体的に言うならば、
ギャップや突き出た 石等で不意にパンッ! と
タイヤが蹴られたとしても、
ハンドルがそれに見合うほどにはガコッと曲がらないのだ。
ドイツ語ではなんというのか知らないが、
日本語で言うならば「盤石の重み」と例えられよう。
そして次に、シートの出来の良さに感心するハズだ。
とにっかく柔らかくて、座り心地が良いのである。
いや、良いなんてものではない、これは特上だ。
座り心地としてはフカフカのアメリカンモデルと
完全に同等であり、
クッション性能に関しては他に比較できるものがない、
というほどだ。
ふつうシートというものは座り心地だけに
目が行きがちなものだが、
コイツはシート自体がちゃんとクッションの役目を
果たすのである。
第二のサスペンションといってもいいだろう。
それほど中身のアブソーバ効果が効く。
具体的に表現するならば、東急ハンズとかで売っている
高価な『衝撃吸 収シート』とかが中に入っているような
座り心地だ。
ラリーマシンがベースなのだと改めて感じさせる部分だ。
エンジンにも、さすがと思うチューニングが施されている。
50馬力という、この手の650ccシングルの中では
頭ひとつ稼いでいるパワーもさることながら、
6kgを超えるトルクを5000回転という低い回転数で
発生させていることは特筆に値する部分だ。
それも、3000回転も回っていればすでにおよそ
5kgほどのトルクは発生しているので、
不必要にブン回して走る必要がないのである。
上り坂、高いギアー、荒れ地と、
どこでも取り敢えず右手を捻れば問題は解決するという
この味付けは、
乗っていてとにかく楽なものである。
難点は、やはり車重がかなりあるということだろう。
薮を走って目をひん剥いた最大の理由はここにある。
193kgと、シングルにも拘わらずVツインのトランザルプ
なみにある(正確に言えばまだ2kg重い)のだ。
しかしBMWもうまく考えたもので、ガソリンタンクを
Vmaxのようにシート下に持って来ることにより
大幅な低重心化を図っているのと、
シート高を780mmとかなり低く設定してあるため、
これは額面通りに受け取らなくとも済む
(結果的に薮を走れた理由も、またここにあるというわけだ!)
だろう。
「俺は絶対に舗装路しか走らない」あるいは、
「ダートが現れたら何のためらいもなく即座にUターンする」
という明確なポリシーを持っている人には告げる言葉がないが、
「道は道、俺ァ後戻りは嫌いだぜ」
といなせに突き進むタイプの人間には、
コイツはお薦めの1台だ。
キャプション
エンジン
F650のエンジンをベースに、
ロータックスの協力を得て再開発したというGFのエンジンは、
シリンダーヘッドにあのBMWの怪物小型車・M3のテクノロジーが
流用されている。潤滑はドライサンプ方式。
オルタネーターも400Wと超大型のものが搭載されている。
フォーク
170mmのストロークを確保するフォークはショーワ製。
剛性確保のためのスタピライザー付き。300mmという大径を持つブレーキは、
オプションでABSも選択できる。
マフラー
マフラー(熱酸素センサー・3ウェイ触媒コンバーター内蔵)を
リアシート下に通すことにより、従来モデルより12mmも
車体のスリム化に成功している。
ガソリンタンク
低重心化を図るためVmaxのようにシート下にガソリンタンク
(容量17.3P)を装備。
そのため給油口はサイドカバー部分となっている。
キャリア
大型のアルミダイキャスト製キャリアは極めて頑強な作り。
側面まで一体で延ばされているアシストグリップも
実用性が非常に高いものだ。
ステップ
いかにM3の技術を流用しようがどうしようが、
650ccの単気筒であるという現実からは逃れられない。
回せばやはり振動は出るため、ステップは厚手のラバーマウント。
ガード
泥ハネ防止と共に、万一の際にタンデムライダーの足の巻き込みを防ぐ役目も
してくれるガード。バネ下に取り付けるため軽量なプラスチック製であるが
強度は充分だ。
MB 2000.10月号