Buell Lightning XB9S
以前やったX1ライトニングのストアタのときに、
オレはこんなことを書いている。
「写真ではシート高がかなりあるように見えるかもしれないが、
実は数値としてはこのクラスで は平均的な、800mmである。
ホイールベースが1400mmと異様に短いのに加え、
前後共17インチときているものだから、
全長に対して比率的に高く見えてしまうのだ。
Vツインで、フレームの下にエンジンをぶら下げていて、
前後17インチで、各部の寸法が近いものは・・・ズバリある。
なんとVTR250。コイツはシート高こそVTRより20mm高いものの、
ホイールベースは逆に10mm短いのである。250とほぼいっしょ!
それほどコイツはコンパクトにまとめ上げられているのだ」
そして、しかるに「コーナーリングはおもしろいように決まる」と。
ところがだ。この新型はこれよりまた更に小さくなったのだ。
なんとホイールベースは更に50mmも縮まり、
1350mmにまで詰められている!
これがどのくらいのものなのか?
「CB125Tと同じ」と言われれば、もはや絶句するしかないだろう。
いやいや、
「マグナの50(うぉっ、と言わずしてなんと言う!)」
よりも小指の半分ほど、たったの30mmしか長くない
(ちなみに全長では逆に36mm短い! )のだ、
と聞けば、白目を剥くしかないだろう。
そこに1000ccもの、しかも凶暴なエンジンがぶら下がっているのだ。
これはもう、まるで原寸大のチョロQのような世界ではないか!
なぜここまで異様にコンパクトにまとめられているのだろうか。
ビューエル曰く
「更に一段と徹底したコーナーリング性能の追求」なのであると。
そりゃあんた、125だの(大柄ではある が)50だのといった寸法なら、
これは曲がらないわけがないわ。
実際、驚くほどクイックにコイツはその進路を変更することができる。
例えばだ。
丘陵地帯にあるような曲がりくねった裏道を走るとする。
で、穴ぼこやマンホールを避けようとしたとする。
すると、そのためになにかアクションを起こす前に、
ハンドルをこじったかこじらないかのうちに・・・
肩が入ったか入らないかといううちに、
コイツはすでに思う方向に進路を変えてしまっているのである!
乗用車に対するカートのハンドリングとでも言えばいいだろうか、
とにかく恐ろしいほどの即答性を見せる。
したがって、峠道などでは
「今からコーナーリングに入るぞ」と決めた瞬間に、
そのアクションを起こした瞬間に、ペッと寝て曲がって行く。
ペタッではない。カトちゃんではないが、「 ペッ!」だ。
当然切り返しも早い。
左に寝ていたものがアッと言う間に右に傾いてしまう。
いやその早いこと早いこと!
これは面白くてたまらない。実に面白くてたまらない。
だが、だ。しかし、だ。
ならなんで国産のスポーツバイクも
このようにホイールベースを詰めてしまわないのか?
その答えは実に簡単だ。
「その代償として、直進安定性が損なわれてしまう」からである。
そりゃ当然である。
50ccや125ccであるならばその最高速など高が知れているから
実害など発生しないが、1000ccものエンジンを、
しかも93.7馬力ものハイパワーエンジンを搭載したオートバイ
であるならば、そうはいかなくなるのは明白なことなのだ。
例えば。
コイツはレッドの始まりである7500回転手前までブン回してやると、
1速80km/h、
2速120km/h、
3速で140km/h、
4速では160km/hと上等に車速は増加して行き、
トップギアーである5速目に叩き込まれたときには180km/hを越え、
そのまま開け続けていれば 200km/h近くまでは行くのではないか?
というほどのポテンシャルを見せるのだが・・・
実際にそれをテストしたオレは、
5速目に入った時点で非常な恐怖感に襲われたと伝えておこう 。
付け加えるならば、
これは轍のわの字もない、5mmの狂いもない舗装されたばかりの
「完全に 真っ平ら」な路面のコースでテストしたときの話である。
そんな極めて良好な場所であれ、もし突然横風を食らったり、
何か落ちていて進路を変更しなければならなくなったりして
ハンドルに少しでも力が加わった場合には、
一度発生した横振れが自動回復する見込みはゼロ、
つまりそのまま増大してブッ飛ぶ、と感じたのである。
なので、5速に入れて少し引っ張った時点でオレはやめてしまった。
仮にその半分ぐらいのスピードで走っていたとしても、
路面のうねり、轍を乗り越えたりしたような場合には、
やはり車体はかなり不安定になるという事実も伝えておかねばならない。
かようにコイツは外乱には弱い面も持っているのであるが、
これは例えばレーシングカートにリッターバイクのエンジンを搭載して
「いやあ、120〜130km/hになるともう真っすぐ走らないよ!」と
文句 を言うのと同じようなことなのだ。
「ならホイールベース延ばせ」
「いやだよ、そしたらカートの醍醐味であるクイックさが
無くなってしまうじゃんか!」
ならそんなものに乗るなということになる。
これで分かるように、コイツは高速を飛ばしてどうのこうのという
オートバイでは決してない。
街中を、そしてワインディングを、
一瞬のマジックのように曲がり込んで楽しむべきオートバイなのだ。
ではそんなときにコイツのエンジンはどんな役目を果たすのか?
国産のハイパワーバイクに乗り慣れている人にとっては
決して驚くような蹴飛ばされかたはしない。
だが 、誰もが「これで十分だ」と納得するほどには蹴飛ばしてくれるハズだ。
言い換えるなら、普通の人が開け切れる、回し切れる上限に
限りなく近いパワー感であるとでも表現しようか。
以前のライトニングは1200のエンジンを独自にチューンしたものだったが、
コイツは今度はクランクを変えてストロークを詰め、
排気量を1000ccに落とすという大変更を施した。
フライホイールも含め、回転部分の質量を低減させ、
よくブン回るよう企んだのである。
これは大成功を収めていると言えよう。
せっかくのコーナーリングマシンなのに
その後の立ち上がりで全然回らないというのは興ざめもいいところだが、
コイツの場合はそのおかげで不満を感じることは全くない。
なにしろ7500回転という、
ベースエンジンからは想像もつかないような高回転まで
きれいにすんなりと回ってしまうのだから!
これはこれで大いに驚くべき部分ではあるまいか?
最大トルクは9.4kg-mと、1200ほどではないが883よりはずっと強力だ。
そのトルクに蹴飛ばされ、7200回転時に92.5馬力も発生しているのであるからして、
しこたま豪快な走りが堪能できるハズだ。
なに? 以前のライトニングは12.4kg-mのトルクに101馬力だって?
確かにその面では負けている。
しかしコイツはアレよりなんと25kgも軽量化され、たったの175kgしかないのだよ!
この車重低減分は排気量で200ccマイナスしている分を大きく上回り、
結果的により鋭い、小気味良い走りをモノにする源ともなっている。
ここでもう一度言おう。
CB125Tだの「マグナの50」だのと大して変わらない大きさの車体
(エンジンが20倍!−−だはは! 笑うしかねぇわな−−も大きいので、
現実的にはそうは見えないだろうがね!)に
この排気量、このパワー、この車重は、
そりゃああんた、掟破り以外の何物でもないのじゃないか? と!
それを達成するものとして、
コイツは他のメーカーであるならば
まるで「モーターショー用のコンセプトモデル」のような作りを
現実のものとして取り入れている。
例えばそれは、
フレームの剛性を飛躍的に高めるために取り入られたぶっ太いアルミフレームに、
14Pの容量を持つガソリンタンクの役目を併用させてしまう
(タンクはダミー。以 前のライトニングは側面にインジェクションがあったが、
コイツはこの位置、
つまりVバンクの真上にダウンドラフトタイプとして取り付けられている)
というような・・・
あるいは、
同じく高い剛性を確保するためにアルミ鋳造で一体化されたスイングアームの
基本構造部分を、なんとオイルタンクとしてしまう、というような・・・!
相変わらず、すげえ発想を平気で具現化させてくれるメーカーである。
それはブレーキについても同じだ。
究極的にというか、最も理にかなっているのが、
最後の「ローターの径をでかくする」という部分だ。
テコの原理からして、これに勝るものは未だない。
いくらチャリンコに強力な油圧式のドラムブレーキを採用しようと、
ディスクブレーキを採用しようと、
そんなものは所詮ホイールという回転部分の中心付近で行っていること、
その面では最大効率を持つ、昔ながらの「リムの部分を締め上げる」
という方式には絶対的に太刀打ちできないのと同じことなのだ。
オートバイの場合は発熱等の問題からこの方式はついぞ用いられていなかったが、
ほぼそれに近いことをコイツはやらかした。
なんと 、ローターは従来の常識であるハブの部分ではなく、
リムのほうから支持されているのだ!
したがってその径は前代未聞の375mmという、すさまじい数値となっている。
ちなみにキャリパーはニッシン製の6ポットキャリパーである。
しかしだ。実際に握ってみると、これが思ったほどにはまったく効かないのだよ!
まあシングルであるというハンデもあるだろうが、
これにはちょっと拍子抜けしたというのが偽らざる本音の話だ。
もっとも、コストの面を解消して、
例えオプションであろうともWディスクにされた日には
取り消さなければならないどころか・・・という話ではあると思うが!
さて最後の〆だ。
極論するならば、コイツは前のライトニング同様、
初心者が手を出してはいけないオートバイだとオレは思う。
これはハーレーでは全くないが、しかしまずはハーレーとは何たるものなのか、
それを極端に改造、あるいはチューニングしたオートバイとは、なんたるものなのか?
ということを良く分かった上で、理解した上で買うべきものだと思う。
それほど、通常の国産車とは異質なものなのだ。
例えば、飛ばしているときに開けたときのレスポンスは良いが、
その直後に信号待ちしたときにはアイドリングが2000回転以上になってしまうとかね 。
あれもこれも、
コイツに関してはないものねだりはよせってことさ。
良いところもあるさね。
悪いところもあるさね。
でも、そんな「強烈な個性」を求めているバイク乗りも多いんじゃないのか?
キャプション
タイヤ
X1の170に対し180と更に接地面積を増大されたタイヤは、
軽量化された車重に伴って抜群の食い付き性能を発揮するぞ。
ドリフト? 無理だ!
ブレーキ
「強烈極まりない」と書きたいところだが、
全然そうではないブレーキシステム。
Wにしろ、Wに! すれば絶対世界一効くのに。コストの問題か。
ベルトドライブ
独自のローラーテンショナーにより遊びをほぼゼロとし、
エンジンの回転=後輪の駆動とダイレ クトに伝える。
もち、メンテナンスフリーさね!
シフトペダル
チェンジペダルとサイドスタンドが思い切り干渉するので、
最初はシフトミスの連続だった。
・・・てなあ、これもビューエルってか。でもマジ参ったぜ。
メーター回り
ベースエンジンがハーレーだと分かっている人間は、
ここに刻まれているレッドゾーンが「7500回転」
と知って目を剥くことだろう。やるぜビューエル!
オイルタンク
なあおい、信じられるか?
スイクグアームの中をオイルタンクにしちまってるんだぜ!?
いや、ここまで縮めれば場所ねぇのは分かるけどさ。うぉっ!
エンジン
ブン回すためにクランクまでやってるっての。
効果絶大、それは保証するぜ。
・・・フロント のエキパイ、
夜中だとアイドリングで赤く発色するぜよ、おい!
MB 2003.5月号