HONDA CB1300 SUPER FOUR
まず、従来のものから変更された部分で、
大きなものから触れていこう。
1、フロントブレーキのキャリパーを、
ホンダ生粋のスーパ ースポーツモデルである
VTR1000SP-1用の異型4ポットに変更し、
ストッピングパワーを高めた。
2、フロントのブレーキ・ ハブを
従来のスチール製からアルミに変更し、
バネ下重量を低減させた。
3、フロントフォークのダンパーロッドを、
従来のスチール製 からアルミへと変更するとともに、
減衰力の特性も若干変更させた。
4、リアホイールのリム部分の肉厚を薄くし、
バネ下をここでも軽くした。
5、エキゾーストパイプのアウターパイプ
(ぶった切ったことのない人には意外だろうが、
純正品というのは騒音・断熱・色焼け等の様々な対策のために
実は二重になっており、外身はカバーで、中に本パイプが通っているのだ)
の肉厚を薄くし、若干だが軽くした。
大物は以上のようなところだが、
これに加え、バッテリーを小型化する、
リアサスのリンクプレートをアルミ化する、
チェンジ ペダとブレーキぺダルもアルミ化する、
などの処置により、
トータルで5kgの軽量化を果たしている。
細かな部分を付け加えるならば 、
フロントのアクスルシャフトの肉厚を増し、
また右側のカラーをフランジタイプに変更することにより
車軸回りの締結剛性を4%アップさせた、
同様にリヤシャフトも細かな部品を見直し、
3%締結剛性をアップさせた、
フロントサスの減衰力を伸び側・圧縮側で
それぞれ20%と13%ダウンさせた、
ハンドルのグリップポイントを
手前へ28mm引き、上へ2mm上げ、下側に2°曲げた、
二次空気導入装置を採用し、
国内の排出ガス規制に適合させた
・・・というようなものも追加される。
と、まあ雑多に及ぶが、
要するにマイナーチェンジに於いて
「なにをやったのか」という最大の目玉部分は、
「バネ下重量を軽減させ、フロントのブレーキを強化した」
ということなのだ。
ホンダによれば、従来モデルに対し、
フロントで約5%、
リアで約2.5%のバネ下重量が軽減されているという。
そして強力なブレーキへの換装
・・・ン? 何かに似てないか?
そう、これは、
コイツにとってはあの目の上のタンコブのような、
XJR1300がやったことと、まったく同じことなのだ。
1300対1300。
ネイキッド対ネイキッド。
そして同趣旨のマイチェン。
これで両車ガップリ四つに組み・・・
と行きたいところなのだが、
これがそうは行かない。
確かに車格・狙い目・コンセプトはかなり似ている。
しかしこれが、
味付けがホンダとヤマハとでは全然違うのだ。
乗り比べてみるとXJRが
『限りなくロードレーサー的な走 り』を見せるのに対し、
CBはあくまでも
『ツーリングモデルのものすごいバージョン』
という印象を受ける。
そのポイントは、主としてエンジンの特性によるものだ。
XJRは本当に良くできたビックバイクである。
グッと絞り込まれているシートは足着き性が良く
(シート高自体もCBの790mmに対し775mmと低い)、
車重も軽い
(乾燥で222kgとCBより24kgも軽い!)
ので取り回しも楽、
軽やかなハンドリングは車体をヒラリヒラリと切り換えさせる、
そしてレプリカのようにシャンシャン吹け上がるエンジンは
開けるたびに気持ちがよくて仕方がない。
が、だ。オレは満点は与えることができない。
アイドリング付近で不意にクラッチを繋ごうとする と、
たまに「パスン」と止まってしまうからだ。
不意に繋ごうが、静かにゆっくり出たかったであろうが、
1300ccものキャパを持つエンジン、
しかも常にどこかのピストンが蹴飛ばしている
マルチシリンダーのエンジンが
このようにエンストを起こすというのは、どうしても許せない。
同様のことは、
実はあの世界最速を誇るZX-12Rでも起こる。
確かにすさまじいパワーを持ち、
下から上までズ ゥオッ! と回る。
しかし
「1200ccもあって、世界一パワーのあるエンジンなのだから」
との思い込みからアイドリング付近で繋ぐと、
思いのほか呆気なくエンストをかますのだ。
どちらの場合も曲がりかけているような場合であれば、
それは立ちゴケという最悪の結果へと直結してしまう。
さあ、ここからがいよいよコイツの出番だ。
ところがだ。このCB1300はまったくそんなことは起こらない。
先月号で書いたスーパーシェルパのごとく、
これぞ街乗りエンジンの鏡! と言いたくなるほど、
とてつもなく低速域のトルクが強いのである。
ひとつすごい話を書こう。
まるっきりのアイドリング状態のままクラッチミートさせても
何事もなかったかのようにスタートするのに関心し、
じゃあ2速ならどうだ、3速ならどうだ? と試した。
だがビクともしない。
すげえもんだと4速でやったがまだ平気で動く。
そこでついに
トップギアの5速に放り込みスタートを試みた
(もちろんアイドリングのままだ)のだが、
それでもコイツはスタートしてしまうのだ!
無論これは極めて慎重にクラッチを繋ぐという
ある種の技術が必要なことではあるし、
また クラッチにとっても決して良いことではないが、
いずれにせよ、そこからでも動いてしまうほどに、
コイツの低速域は問答無用に強い 、ということなのである。
(オレがVmaxが大好きなのも、このような特性を持っているからだ)
でかいエンジンのバイクというのは、
本来こうでなければならない。
問答無用のくそ力と粘りを持っていなければならない。
それは街中での乗り易さに露骨なほど直結してくるからだ。
コイツは5速のアイドリング状態、
時速30kmでも平気で街中を流せる。
ちょっとばかりブレーキを掛けて
25km/h ぐらいまで針が下がって
(タコメーターなんか500〜600回転のあたりまで下がる!)
もズーズーと走る。
ノッキングなんか起こしはしない、
そこから開ければズゥ〜〜と野太い音を起てて、
そのまま(さすがに緩慢だが)加速を始める。
この低速の強さと「絶対に止まらない」という安心感とで、
Uターンなんかヒョイと無造作にかませられる。
さっき書いたが、比べればこいつはXJRよりも随分と重い。
重いが、こうなるとそれがどこかへ消えうせてしまい、
大差なく扱えるようになるからおもしろい。
この低速のばか力の最大の要員は、
例えばXJRと比べるならまず正味で34cc排気量が大きいこと、
そしてトルク発生の大きな要因となるピストンストロークが
XJRが63.8@なのに対し、67.2@と大きいことが挙げられる。
つまり、より大量のガスで、より大きくクランクを
こじっているというわけだ。
しかしこれは裏を返せば高回転域の活躍には
不利な設計とも言える。
そして事実、
コイツはXJRのようにシャンシャン回らないし、
7000回転ぐらいから上はそれ以上回しても
回転が上がるだけで興味を引くような加速は示さない。
このあたりの 体感的な加速感は、
Vmaxの国内仕様と似たようなものがある。
(ちなみに3速でほぼ180km/hのあたりまで車速は到達してしまう)
最後になったが、
変更を受けたブレーキは確かに指1本で恐怖クラスに効く。
これはよく分かる。
が、足回りが軽量化されたのどうのは、
ハッキリ言って体感的にはまったく分からなかったと
正直に伝えておこう。
そしてもうひとつ。
「これに乗って最高に恩恵を受けるというか喜ぶのは、
公道のプロ、白バイ隊員たちなのではないだろうか」
そんな気がしてならないぜ!
キャプション
エンジン
とにかく粘りまくる怪力4気筒。
それもそのハズXJRの最大トルク10.0/6500に対し、
コイツは12.2/5000と20%以上も大きく、
しかも発生する回転数も1500回転も低いのだ。
もしかしたら、世界で一番アイドリング付近のトルクが強い
4気筒エンジンかも知れない。
ハンドル回り
ハンドルが3cm弱手前に寄せられたので、
ポジションに少し余裕ができた。
押すと確かに重いが、走り出してしまうと
意外なほど軽快に切り返せるのに驚いた。
フロント回り
VTR1000SP-1から移植された
異型4ポットキャリパーの威力は抜群。
310mmというこの手のバイクには
充分な径のローターを万力のように締め付ける。
効くぞ!
リヤ回り
2本サスのバイクでは唯一と言えるプロリンク機構を持つ。
この方式だと負荷に応じてサスが柔軟に動くので
路面への追従性・乗り心地ともに優れた性能を発揮する。
MB 2001.1月号