HONDA CB1300 SUPER FOUR
「おお、ぶっ太いバイクだなこりゃ!」。
これがコイツに乗ったときの、オレの第一印象だ。
幅の問題ではない。トルクがやたらと 太いのだ。
コイツのライバルと目されているのは、XJR1300と、GSX1400であろう。
まずは車体寸法を見てみよう。
コイツはXJRよりも45ミリ長く、1mm広く、5ミリ高い。
そしてGSXよりも60mm長く、20mm狭く、20mm低い。 外面は、だ。
では車体の基本サイズとなるホイールベースではどうだろうか?
XJRより15ミリ長く、GSXより5mm短いものとなっている。
まあ言ってみれば、両車の中間に位置している、と言えるであろう。
エンジンにしても同じことが言えるようだ。
排気量はXJRが1250cc、コイツが1284cc、そしてGSX1401cc。
パワーは規制の関係でどれも横並びの100馬力だが、
最大トルクはXJRが10.0kg−m、コイツが11.9kg-m、GSXが12.8kg-m。
やはり中間に位置している。
では乗った感じは両車を足して2で割ったようなものを思い浮かべればいいのか?
そいつは大いに間違っている。
コイツの乗り味は、XJRではなく、GSXにかなり近いものなのである。
冒頭で「ぶっ太い」と表現したのは、まさにこの部分なのだった。
アクセル(本来は『スロットルグリップ』と言うべきなのだろうが、
慣用語としてこの言葉が定着してしまっているのでオレは敢えてこちらを
使わせてもらう)をガバッと捻ったときに、
XJRのようにシャー! という感じでブッ飛んで行くのではなく、
GSXのようにズゥォッ! といったあんばいで突進して行くのだ。
この感覚は低速であればあるほど、
(駆動力の必要な)ギアーが高ければ高いほど感じられるものだ。
その理由は同じ1300と言ってもXJRより正味34cc大きい排気量云々、よりも、
インジェクション化された吸気システムと、
XJRの6500回転という最大トルク発生回転数に対し、
それよりも1000回転も低い5500回転という部分でそれを発生させている、
という味付けの部分が大きい。
ちなみにGSXはさすがに排気量が頭ひとつでかい分だけあって、
同5000回転と更に低くなっているが、
いずれにせよ、とにかくブン回さずともコイツはグイグイと車体を押し出してくれる。
実際の押し出し感はGSXとさほど変わるものではないと表現してもいいだろう。
ただし、GSXがそうであるように、コイツもやはり、
ブン回しても特に面白いと感じるタイプではない。
ガーッ! と開け続けて行っても、
上で特に感動するような、興奮するような変化は何も起こらないのだ。
つまりコイツはGSX同様「街中での常用域でのドン! という蹴飛ばし感を楽しむ」
あるいは「超ズ太い低速トルクを利して回さずに、かつ滑らかに走る」
バイクなのである。
ちなみに、「横並びの100馬力」はGSXが6500回転、コイツが7000回転で
発生させているのに対しXJRは8000 回転と最もブン回るため、
いかにもスポーツユニットという印象を受けるのであるが、
このあたりは正に「メーカーによる味付けの相違」あるいは「その車両の狙い」
というものがあるので、何とも言えない部分であるが、乗れば乗るほど、
どうやらコイツのライバルは同排気量のXJRではなく、
GSXのほうだとホンダでは踏んでいるのではないだろうかと、
オレには思えて来てしまった。
実は、先月号ではZ1000をやったが、
あの車両を返却した数時間後からオレはコイツに乗り続けていた。
乗り換えた直後にはある種の驚きを隠せなかった。
「ああ、排気量の違いというものは
こんなにもエンジンの低回転時に影響を与えるものなのか・・・!」
「うぉ〜、ブン回さない、 中低速域で勝負だ、というセッティングは
こんなにも滑らかさに違いをもたらすものなのか・・・!」
そんなことを今さらながら、何度も何度も感じさせられてしまったのだ。
Zだって1000ccもあるのだから、低速域は十分に強力だ。
だが、コイツはその比ではないのである。
アイドリングから、ちょっと回した時点でシフトアップして行っても
何の問題も無く無造作に動き続けるから、シフトのショックというものを
まったくと言っていいほど伴わずに走ることができる。
1速でズッ・・・と出て、
チャッチャッチャッといきなり4速あたりに放り込んで横着を決め込んでも、
やはりアイドリング+αのあたりで、
ものの無造作に、かつ滑らかに車体を押し進めて行く。
そもそも、そのアイドリングにまで落としても
例えトップギアーに入っていようと30km/hほどの車速を保ったまま、
静かにズーズーと走り続けてしまう・・・。
こう書けば、いかに乗り易いこと極まりないか少しは分かって貰えることだろう。
ちなみに。
先に「ブン回してもどうという感動はない」と書いたが、
それは感動がない、というだけの話だ。
レッドは8500回転からとなっているが、
テストコースでそこまでブン回してやると、
1速ではメーター読み約(以下同)85km/h、
2速では 130km/h弱、
3速で170km/h弱、
そして4速で190km/hぐらいまでも車速は達しリミッターが作動してしまう。
ましてや3速にでも入っていれば、
「シフトダウンするよりそのまま開けていたほうが儲かる」ぐらいの勢いで、
その速度まで一気に達してしまうのだ!
これはコイツのキャラクターを考えたら
もう必要十分をとうに通り越した性能なのではないだろうか。
これらのことから容易に想像できる通り、
コイツはスーパースポーツモデルでありながら、
立派なツーリングモデルでもあるのだ。
なにしろ横着して走れるので疲れない。
チョコチョコとシフトチェンジしたり、
そのためにクラッチを握ったりしなくともいいので、
ガタイがある程度あるにも拘わらず、渋滞路で疲れない。
だいたいからしてポジションがしごく真っ当、
レプリカのようにごめんなさいしたような状態で走らなくて済むので、
この面でも疲れない。
そしてまた、シートが良い。
面積が大きくソフトなので、
長時間乗ってもケツが痛くならないのだ。
揚げ句に、
そのシート下には12Pという収納スペースがあるので、
U字ロックからカッパ、地図など
かなりのものが入ってしまうときている。
どうだ! とほくそ笑む
ホンダの開発陣の顔が見えて来るようではないか?
実際、その開発陣は、コイツの進化にかけては、
並々ならぬ力を注いでいる。
先日ビッグマイナーを受けたのは周知の通りだが、
それに際して(ここでは)XJRに負けてなるかと
20kgもの大幅な軽量化を図った。
その内なんと8kgもが、エンジン単体での軽量化だ。
そもそもが軽量なアルミ合金でできているエンジンそのものから、
8kgも殺ぎ落とすというのは、これは大変な苦労と努力を伴う作業だ。
具体的にはシリンダーのフィンの排除、
シリンダーブロックそのものの肉厚を薄くする、
カム駆動部分をロッカーアーム方式から
直押し式に変更しコンパクト化・軽量化を図るなどし
てそれは達成されている。
残りはフレームの変更で
ホイールベースを20mm詰め稼ぎ出されたものだ。
殺ぎ落とした部分と重心との位置関係もあるので、
直ちにイコールとはならないが、20kgと言えば、
およそ満タン状態か空っケツかの違いに等しいのだから、
この効果はでかいなんてものではない。
(もっともヤマハにしたら、
俺たちは足回で同様の事をやらかしたんだぜ、
とこれまたほくそ笑むだろうが・・・!)
さらにもうひとつ大きな目玉は、
先にも触れている通りインジェクションの採用だ。
実はZのときにも感じた
(そしてGSXのときにも−−どちらもインジェクションだ−−)
のだが、どうも極低速域でのレスポンスが、
いまいちオレの性には合わない部分があったのだ。
どちらも、発進直後のあまりのパンチに恐れをなす初心者、
あるいは不慣れなライダーが、
雨の日などに不用意にホイールスピンに見舞われないようにと、
敢えてそのあたりのツキを控えめにしてあるらしいのだが、
コイツにはそれがないのだ。
これを小さな親切・大きなお世話、
大きな防御・余計な愛情、どう捉えるかは個々の判断次第だが、
とにもかくにも(オレはキャブ でも何でもやるのだが、
「どれほど無理に耐えるのか」という名目で、
極低速域つまりアイドリング付近で突如急激に、
必要以上にガバッとアオッたりしてわざと息つきを起こさせる、
というような意地の悪いテストを、必ず行うのだ)
コイツにはそのような緩慢な部分が無かったというのが
「滑らかだ」「乗り易い」と、ことさら感じさせるのに
一役買っていたのは間違いない部分だ。
たまに、こんな強烈なセリフを吐くときがある。
「3分なんて要らねぇよ。30秒でいい。
それだけありゃあ、そのバイクがどんなものなのか90%は分からぁ」
これは本当のことだ。
クラッチを繋いで最初に加速Gを食らった瞬間。
ブレーキを掛けた瞬間。
そして一発目に曲がり、切り返した瞬間に、
そのオートバイの持つほとんどの部分は分かってしまう。
それがプロフェッショナルの世界というものなのだ。
しかし、とそこには但し書きが付く。
分かるのはあくまでも「語るには足りる、90%の部分」なのである。
それだけあれば、あくまでも「能書き」を語るには十分なのだ。
だが、
そのオートバイの真実の姿は、実は残りの10%に隠されているのだ。
こればっかりは、オーナーになったつもりで長時間に渡り、
何度も何度も小分けして乗ってみないことには、
決して分かるものではないのだ。
少なくともオレは、自分の体験上から、そして信念の上から、
そのようにして最終的な判断を下すことにしている。
比べるのであれば、 それはいつ、何カ月前、何年前に乗ったときの記憶
−−という甚だ不明確であり、また頼りのないもの−−
を引き合いに出してのことなのか、ということも含めての話だ。
しかるにオレは、
そのバイクの良いところを見つけだしてやろうとすればするほど、
必ず「オーナーになったつもりで、自分でかね を出して買ったつもりで」
そいつを乗り回すことにしている。
「仕事」と認識しているものが終わった後に、だ。
コイツの場合も例外 ではない。その上で言おう。
「ヤマハが好きならXJRを、そしてスズキが好きならGSXを。
だがホンダが好きなら、
ためらわずコイツを選択しても決して後悔することはないだろう」とね!
キャプション
ライト
大径ライトの明るさは言わずもがな。
それよりもここで言いたいのは、前面に位置する大型Wホーン。
瞬間移動可能、かつ渋滞路も気 楽に走れるコイツにとって
これは実にありがたい装備だ!
ブレーキ
ブレーキは前モデルより特に変更を受けていないが、
もともと十二分の過剰性能を持っていたものなので、
まったく不満は感じられなかった。
てか、すでに握り切れねぇよ、ここまで効くと!
シート下収納
この手のバイクとしては上等も上等、
12Pものスペースを稼ぎ出してくれたので、取り敢えずカッパ等の
「必需品」はすべて収納できるというシート下ボックス。
T字型の底深形状だ。
エンジン
このエンジンの生み出す駆動力は、とにもかくにもぶっ太い。
加えて車重も乾燥で226kg、装備状態でも254kgにまで
シェイプアップされているので、あのVmaxキラーとして名を馳せた
「駆動力のX4」の立場はいまやいかに・・・といったところだ。
マフラーエンドには新開発の可変排気バルブも装備されているぞ。
MB 2003.10月号