HONDA CB400F/YAMAHA XJR400
もしこの2台を乗り比べてみる機会があったならば、
巷で言われているような「ホンダは優等生」ということが、
まったくの誤りであるのがよく分かることだろう。
音やパワーフィール、乗り味・乗り心地その他、
CBは予想外の悪童ぶりを見せつけるからだ。
もしあまりオートバイに詳しくない人が
『エンブレムを剥ぎ取った』この両車に試乗したとしたら、
XJRは「これはホンダでしょう」
CBは「カワサキらしいですね」と言うかもしれない。
素直で妙な特徴を持たないXJRは、
確かにスポーティーそのものの味付けがなされているが、
CBと比べてしまうといかにも優等生っぽく感じられてしまうのだ。
対するCBは、かなりの腕白坊主というか、暴れん坊だ。
そしてそれが「実に乗り易い」という前提の元に成り立っているのが恐ろしい。
ではこの両車に初めて乗った人は、どんなことを感じるだろうか?
まずは取り回しの部分からいこう。
2台を並べてみると、このクラスでは標準的大きさとも言えるXJRより、
CBのほうがひと回り近く小さく見える(もっと具体的に言うならグッと低く見える)
のに気が付くハズだ。
この事実は実はかなりの意味を持つことになる。
なぜならXJRは
ゼファーχ、ZRX、イナズマと現行の同コンセプトの他モデルと比べても、
比較的コンパクトに仕上げられているからだ。
特に車体の大きさを決定付けるホイールベースに関しては、
最大サイズであるイナズマよりマイナス2mm、
2番手に位置するZRXよりも5mmではあるが短い。
車重においても176kgと、
それらのものより10kg〜11kgも軽く仕上げられているのだ。
しかしだ。CBはそのXJRよりガラで言うと
更に全長で35mm、全幅で10mm、全高で20mmもコンパクトにまとめ上げられ、
ホイールベースも25mm! も短く、
シート高にしても20mmも低いものとなっているのだ。
さらに車重に関しても、169kgと、7kgも軽く仕上げられているのである!
こうなると平均的なこのクラスのモデルよりも完全にひとまわり小さい、
と表現してもいいだろう。
このため乗ろうと押し出した時点から、
取り回しの良さに優れていることにすぐに気が付くだろうし、
足着き性の良さも圧倒的に良いことが分かるハズだ。
次に、エンジンを掛ける。
この時期ならばどちらもチョークなしで、即座にアイドリングを始めるだろうが、
XJRは暖まるまでは下でまったくツイて来ないので、
すぐに走り始めるような場合には若干チョークを掛けたままにしておく必要があるが、
CBは取り敢えず問題なく走れ出してしまうのが分かることだろう。
乗り心地に関しては、
XJRはシートも柔らかめでサスもそう堅くはないのでかなり快適なのだが、
CBのほうはシート自体が(XJRに比べれば)かなり固めで、
またサスもゴツゴツした印象を受けることだろう。
実際、同じような衝撃を受けた場合、XJRのほうがソフトに吸収してくれる。
さて、ではさっそくブン回してみよう。
まずはXJRからだ。
コイツのレッドゾーンは12000回転から刻まれている。
テストコースでその直前まで引っ張った場合、
1速で(メーター読み約・以下同)65km/h、
2速90km/h、
3速115km/h、
4速で140〜145km/h、
5速では165〜170km/hほどにまでも到達するが、
トップギアである6速目では走行抵抗に負けてしまって、
下り坂ででもない限り、なかなかそれ以上には伸びないのが分かる。
だがこれでも十分なのではないだろうか?
実際この性能を使い切る場所などサーキットやそれに類似する場所以外
ほとんどないのだから。
ではCBのほうはどうなのだろうか?
さっそくこっちもブン回してみよう。
コイツはXJRよりも1000回転多く回る。
つまりレッドは13000回転からだ。同様にそこまで引っ張ってやると、
1速およそ70km/h、
2速でほぼ100km/h近く、
3速で130km/h近く、
4速で160km/h、
そして5速では185km/hと、
XJRを圧倒する勢いで伸び上がっていくのにたまげることだろう。
だが驚くのはまだ早い。
最終ギアである6速目に入ってもコイツはまだ加速を続けようとするのだ!
当然メーターはすでに振り切ってしまっているので
いったい何km/h出ているのかは不明だが・・・。
恐るべきハイパーVTECの威力である。
もしXJRから乗り換えた直後であるならば、
この性能差には些か愕然とすることだろう。
ここで少しこのハイパーVTECについて触れておこう。
コイツは元々は、4バルブであるシステムを
ガス圧や吸排気の流速が低い低回転時においては、
都合の良い2バルブに(残りの2つのバルブは休止している)、
高回転時においては効率上都合の良い4バルブに切り換える
(というか、そもそもの形態で作動する)という、
ホンダ独自の革新的機構だ。
このモデルに採用されたのは99年のことだが、
今回コイツに搭載されたのは
それを更に進化させた「ハイパーVTEC・スペック」なるものだ。
前述のようにこの機構の威力は絶大だ。
妙なチューニングのように、
ある部分のみが突出して増大するのではなく全体に力強くなり、
その中でも特に実用面において重要な中速域が増強されるという・・・。
このため発進直後からレッド付近まで、
低回転でも高回転でもワンクラス上と思えるほどの力強さを発揮する。
それは体感的には「実はこれ450ccなんだよ」と言われても
納得してしまうほどのものだと付け加えておこう。
また、2バルブから4バルブへの切り換えは
従来の6750回転から6300回転へと引き下げられている。
ちなみにトップギア100km/hで巡航しているときの両車の回転数は
XJRおよそ6200 回転強、CBは6500回転弱といったところである。
従って高速道路を走っている場合などは
常に4バルブ状態、ハイパーVTECの威力圏内に居られるというわけだ。
そしてまた、音が良い。
そもそもコイツの方がちょっと吹かしただけでも
XJRより勇ましい音を発するのだが、
それがこのハイパーVTECが作動した瞬間から一段と獰猛なものに変化するのだ。
一気に引っ 張ってしまうといつ切り替わったのだか分からない場合がほとんどだが、
ゆっくり加速して行ったり、追い越しのためにシフトダウンし、
たまたま6000回転あたりだったとすると
「コーッ !」とも「ガォーッ!」とも何とも表現できぬ音質の変化を聞くことができる。
先に「カワサキ のような・・・」と書いたのは、
パワー感もさることながら
−−例えばホーネットに対するバ リオスのジェットエンジンのような−−
この「いかにも」の音にやられたのが大きい部分だ。
いずれにせよ、もし「全開ごっこ」をやらかした場合には
まずXJRではCBに勝つのは不可能、
ましてやそれが高速道路などであれば・・・というのは、
乗り比べてみた瞬間に誰にでも感じ 取れるものであろう。
ではブン回さないで使った場合はどうなのであろうか?
つまり夜中に帰宅する際の住宅街でのトロトロ走りや、
渋滞路の擦り抜け時のような場合だ。
ここでもやはりCBは優位に立つ。
立つと言っても・・・
XJRとて例えトップギアのままスピードを落として行ったとしても、
1000回転ちょっとも回っていれば
20km/h強のスピードで別に問題なく動いてくれるのである 。
もちろん平坦地であり、大きな負荷を掛けさえしなければの話ではあるが、
従ってそれが4速 だの3速だのであれば、
更に回転が下がろうが多少の上り坂であろうが、
実用上はまったく困らないほどの実力を備えているのだ。
だが、CBは更にそれを上回るほどのフレキシブルさを持っているのである。
いちだんと粘るというか、エンストしにくいというか、
とにかく更に力強くズ ーズーと動き続けてくれるのだ。
しかもXJRよりコンパクトで足着き性も良いと来ているから、
狭いところをコチョコチョと通ることが多い人や、
すぐに裏路地へと入り込む癖を持っている人(オレがそうだ)などにとっては、
乗り比べた場合には「俺はこっちのほうがいいや!」と
CBを放さないということになるのではないかと思う。
ではこんなにすごいエンジンを搭載しているならば、
燃費のほうで代償を払わなければならなくなるのではないか?
これは当然の疑問だろう。
オレもそう思ったので、今回は都内を約75km 走り回ったあと、
海沿いに箱根〜富士山を一周してから高速で戻る、というコースでテストしてみた。
条件は都内が渋滞3割、残りは比較的空いていて流れている状態、
遠出のほうは平日の午前10時頃に出発したもので、
日曜の早朝レベルに相当するような交通量だと思ってもらえば良いだろうか。
計測は車体を直立させた状態で「蓋をしたら溢れる寸前」までという超満タン状態で出発し、
帰って来てから同じ状態まで入れる(そのためその後しばらく走り回らないと
サイドス タンドを立てて止められないというオマケが付く)という、
原始的ではあるがかなり正確な量を計測できる方法だ。
結果は都合約365km(両車平均値)走り回って
XJRが15.86P、CBが 15.71P。
つまりそれぞれ23.01km/P、23.23km/Pと、笑ってしまうほど近い数値を見せた。
365kmも走り回ってたったの150ccしか違わない!
途中で20回ぐらい乗り換えているという乗り手による開け方の相違の平均化、
メーターの誤差等を考慮すると、
これはもう完全に 「誤差の範囲の相違」と言ってもいいだろう。
エコランをやったわけではない。
主目的は燃費のテストではあるが、
両車の違いを探るためのテストも当然兼ねているわけだから、
みんなが通常 走るように、オレたちだって走る。
なのでこれは実用燃費と思ってもらっていいだろう。
その結果がこれだ。
どうやらハイパーVTECスペックは、
この性能を手に入れながらも燃費にはまったく影響を及ぼさないようだ。
このテストの際には高速・ワインディング共にブレーキのテストも
相当行ったのであるが、これは甲乙付け難い面があった。
効き自体に関して言うならば、
やはりCBのほうが一枚上手を行っていると感じる人のほうが多いだろうと思った反面、
タッチの面ではソフトな感覚のXJRの ほうを好む人も、また多いと思われるからだ。
どっちにせよ、握り切れば簡単にロックまで締め上げる能力を
両車ともに備えているので、性能的には何の問題も生じない部分だ。
この2台に乗っていて、思ったことを正直に書いてみよう。
「何も考えずに純粋にツーリングを楽しみたいと思ったら、
でかいバイクよりもコイツら400のほうがずっとおもしろい」
そのバイクを買う、乗る、というのには人それぞれいろいろな理由がある。
でかいバイクで見栄を張りたいから始まり、
排気量による超絶的な加速力・最高速を手に入れたい、味わいたい。
そのスタイルから入った人。
乗りやすそうだから買った人。
安いから買った人。
みんなが乗っていない車種だから。
その車種・機種でないと実用上困るからという人・・・いろいろとあるだろう。
だが、そんな中でも例えばスクーターの世界に
自然と流れて行ってしまう人がいるように、
「 ほんとは今の俺には、
こういうのが一番ライフスタイルに合っているんだよな・・・」
と考え 込んでしまう人もきっと多いハズだ。
ただ通常は「1台しか持つことができない」という状況がふつうだから、
それができないというだけの話で。
そんな人達でも、日常の使用であるならば過剰なほどのパワーがあり、
しかもでかいバイクに 比べれば圧倒的に扱い易く
−−コーナーリング性能の優位性については議論の余地はない。
また 渋滞路の擦り抜けや、取り回しに関しても同じく議論の余地はない!−−
しかも価格が手頃で燃 費も良いと来れば、
オレが書いたような本音に行き着くのは
ある意味しごく真っ当な話となるのではないのだろうか。
その上で考えると、CBが現在ダントツで売れている理由も
実に理に適ったものであり、乗れば乗るほど良く分かるというものだ。
まずは乗った人の大半が「これはいいぞ!」と
人に言い触らすだけのものを決定的に備えているということもあろうが、
ここにひとつ、更にオレなりのおもしろい解釈を付け加えておこう。
それは「ここまでコンパクトにまとめ上げたというのが、
実はかなり大きな比重を占めているのではないだろうか」ということだ。
なぜならガラの小さなオートバイ、シート高の低いオートバイ、
そして軽量なオートバイはいまだに
「未熟な初心者」や「女の子」にふさわしいものだという考えが、風潮が、
まだまだこの世界には蔓延しているからだ。
そして、そのようなオートバイは結果的に性能のあまり良くないもの・・・
というと語弊があるが、そう高性能なもので はないというイメージが
それを後押ししていた部分がある。
だが。しかし!
その「小さくて低くて軽いオートバイ」が、
ダントツの性能を持ってしまっていたらどうなるだろうか?
そうなれば免許を取り立ての初心者であろうが
女の子であろうがベテランの走り屋であろうが・・・
いや、初心者も女の子もベテランの走り屋も、
みんなコイツにこぞって飛び付くのは明白なことではないか。
CBに関して言えば、この性能自体もさることながら、
オレはこの「路線」というか「狙い」を具現化し、実際に商品化し、
時代に左右されずにコンセプトを貫き通したホンダの担当者は、
実にすごい人間だと思う。
こう文章にしてしまえば、読んだ後ならば、
ごく当たり前のような話で終わってしまうことだろう。
だが、それにはとてつもない苦労とエネルギーがあったハズなのだ。
本来ならベタ褒めできるハズのXJRが
すっかり霞んでしまうようなインプレに結果的になってしまったが、
相手の魅力はあまりにも強大だ。
どのメーカーでもいい、どこかこの状況を止めてくれ!
キャプション
CBフロント
296mm径のフローティングWローターに大兄貴900RRと
同タイプのキャリパー、加えて新たにアルミ製ピストンと結晶パッドを採用。
またマスターシリンダーもプッシュロッド式から直押し式に変更し
ダイレクト感を高めている。効き、特に初期感覚においてはXJRよりも上をいく。
CBリア
サス、ブレーキは基本的に前モデルと同じだが、サスの減衰力特性は
新たに変更を受けている。マフラーからというより、エンジンそのものから
エキサイティングな音を発するのがVTECサウンドだ。
切り替わった瞬間は、なんだかヘルメットを脱いだ感じに近いものがある。
CB右サイド
あまりにもコンパクト化を追求したせいか、右側のケースカバーとステップとの
距離がほとんどなく、体のでかい、というより「膝下の長い」人は
スネのあたりが当たることがあるだろう。
XJRフロント
フロントはR1やXJR1300でお馴染みの軽量・高剛性のワンピース構造の対向4ポットキャリパー。
タッチが柔らかいぶん微調整が効くので、あまりシビアなことを言わない人にとっては
こちらのほうが評価が高いかも。フォークは41mm径だ。
XJRリア
リム厚の最適化を施した大径20mmの中空タイプのアクスルシャフト、バネ下重量の低減と剛性確保。
リアは同じワンピースの対抗2ポット。制動力や耐摩耗性に優れた結晶パッドを採用。
リアサスはオーリンズ。伸側・圧側それぞれ独立したオイル通路を備え微妙な減衰力を発揮。
XJRサイド
CBに対してこちらは何の問題も無し。ちなみにこの反対側、
サイドスタンドもコイツはごくふつうの位置にあるのだが、
CBはメチャ引っ込んでいるので出すときに苦労すること請け合いだ。
MB 2003.6月号