DUCATI MONSTER 400

 

 中型免許で乗れるLツインのバイクで、しかもそいつを
トラスフレームにぶら下げているスポーツバイク・・・というと、
スズキのSV40やホンダのVT250思い浮かべる奴はいないだろうか?
(オレは思い浮かべた)。

 だが、実際コイツに乗ったとすれば、
それらは対象外とするべきだとすぐに分かることだろう。
それはちょうどハーレーと国産アメリカンとの味付けの相違に似ている。
各部の作り込み方や設計方針、
エンジンの味付けに至るまで、
やはりイタリア・ドカティ社のやり方が、
これでもかというぐらいに全面に押し出されているのである。

 それはどんなところか?
国産車だったらこうはなっていないだろう、
という部分を挙げてみよう。

 例えばタンクだ。
こいつの下にはエアクリーナーとバッテリーが収納されている。
整備するときにはタンクを持ち上げる。
後ろにヒンジが付いていて、
前の縁にあるロックを外すとガバッと持ち上がるのだ。
ところがタンクにはこんな注意書きのシールが張り付けられている。
『半分以上ガスが入っているときは
キャップから漏れますので持ち上げないで下さい』

 あるいは、シートを外す。
ふとテールランプあたりを見ると、
球のケツに直に接点の金具がピロッと接触している。
カバーもなにもなく、剥き出しでだ。
そしてそこは、シートを着けてもかなり隙間のある部分で、
洗車時などは水が掛かるのではないかとも思えるところだ。

 極めつけは、エンジンだ。
キャブレターを装備しているこのバイクには、
他のインジェクション仕様のように、
電子装置による回転リミッターがない。
そして・・・タコメーターも、ない。
 ドカティ独特の強制バルブ開閉機構・デスモドロミックは、
開けていればいつまでも回り続けようとするのが特徴なのに、だ。
 もちろん(機械的に)レッドゾーンがあるのは言うまでもない。

 イタリアではないか、すべてにおいてが!

 回答は、こうだ。
「ガスがこぼれた? だからちゃんと書いてあるだろうそこに。
抜かないお前が悪いんだよ」
「水が掛かる? なんでそんなところにホースで水を掛けるんだ?
掛けなきゃいいだろうに、えっ?」
「そこまで回すか。いつまでもいつまでも、阿呆のように!
加速が鈍ったらチェンジアップする。
そうすればなにも問題はないはずではないか?」

 良いの悪いの言っているのではない。
これこそがお国柄のちがいというもので、
そして、それこそが「味」というものに結び付くものなのだ。
「俺たちには、俺たちのやり方がある」
 このバイクを見ているとそんな声が聞こえて来るような気がする。

 では実際に乗ったインプレに取り掛かろう。
これもやはり『イタリアの味』の固まりである。
さぁ、ちょっくらスッ飛ばして来るかとスタートしようとした瞬間、
かなりの大きさで目ン玉をひん剥いた。
ハンドルの切れ角が、えっと思うほどに少ないのだ。
しかもエンジンが暖まるまではツキがすこぶる悪い
(暖まれば問題はない)ので、
これは立ちゴケでもしたら敵わないと、
かなりバウバウとアオりながらオレは街へと飛び出した。

 乗ってすぐに分かったのは、
コイツは取り敢えず400ccの排気量はあるのに、
250ccのようにブン回して乗らないと本領は発揮されない
バイクなのだなということだった。
下の方ではあまりトルク感が感じられない。
開けてもボーボーいうだけで、思うようには加速してくれない。
タコメーターがないので何回転がどうのとは言えないのだが、
とにかくブン回さないとおもしろくない味付けに仕上げられている。
 スタートするときにはちょっと吹かし気味にしてクラッチを繋ぐ。
減速したら、ギアーもすかさず落とす。
これが気持ち良く走らせるコツだ。
 逆に、ブン回していけばコイツはバオーッ! という
L型特有の音(に加え、タンク下の前寄りにエアクリーナーがあるため、
そこからもかなり大きな吸気音を発する)を起てながら、
スピードメーターの針をどんどん追いやって行く。

 ミッションは6速ではなく5速だから、
各ギアーでの受け持ち範囲が広い。
しかも上まで良くブン回る(最高回転数は1万1千回転)ので、
かなり引っ張れる。
 テストコースでは開けっ放しにしていると
メーターの針は160km/hのラインを越え、
170km/hに近いあたりをウロついて落ち着く。
(ちなみにメーカー発表値の最高速は160km/hだ)
そんな高回転からアクセルを一気に戻してやると、
デスモドロミック機構のギアーが発する唸り音が
「ヒュ〜ン・・・!」と聞こえて来る。
 もしあなたが乗り手なら
(おお、400でもドカはドカだ!)と思うのはこのときだ。

 ブレーキはシングルでも十分に効くし、
コーナーもスパスパ決まる。
予定しているほど寝かさずとも、
そのままスッと曲がって行ってしまう。
総重量(とドカでは表記している)174kgと
そう大して軽いわけではないのだが、
これぞ低重心化に寄与するL型の恩恵かとそこでまた思う。

 ドカティではこれを『入門用』として位置付けているのだという。
価格は69万9千円だ。
それはSV400のちょうど10万円高である。
あくまでもちなみに、の話だが。

  大都会の夜。唸るエンジン。
バオバオ吹かして、ヒュ〜ヒュ〜唸らせて、オレはコイツを飛ばした。
首都高を飛ばし、大通りを飛ばした。
そして路地を流し、商店街を流した。
「あれっ? ドカ・・・ティ?」
「ほんとだ、ドカの400だ!」
 ゆっくり走っていると、何度かそう言って振り返られた。
(おおよ、ドカの400よ。イタリア製のな)
 やはりみんな、気になるらしい。
 以前、ハーレーに乗っているとよく
「あっ、ハーレーだ」と言われたのをオレは思い出していた。

 オレはまたアクセルをガバッと開けた。
グルルルッ、ガボーッ! ドガガガガッ!
そして閉じた。 
ヒュ〜ゥ〜〜ン・・・400ゆえに、
コイツは完全にブチ回して走ることができる。

 さてこのまま首都高にでも入り込むか。
 それとも、山へと向かうか。
 どっちにしても、注目を浴びるのは間違いなさそうだ。

 


キャプション
マフラー&ブレーキ
マフラーは2本出しなので容量があるため、思ったよりも音は静かだった。
フレキシブルカップリング付きの17インチ軽合金ホイールに
装着されるディスクは245mm径。

エンジン
ドカティの最大の特徴はこの90度L型ツインに組み合わされる、
ギアーによる強制バルブ開閉機構『デスモドロミック』だ。
ここが唸って「俺はドカだ!」と主張する。
エンジン後ろのステップ回りがすべて取り付けられている大きなステーは、
実はフレームの重要な一部ともなっている。

ハンドル
ハンドルの切れ角はこのボルトで若干の変更ができるのであるが、
目一杯切れるようにしておいても「えっ?」と思うほどすぐにつっかえる。

フォーク
前輪も17インチ、それを倒立させた極太のフォークで支えている。
ストロークは120mm。ディスクローターは320mm径のシングル。

リアサス
リアサスはアジャスタブル式のモノショックでリンクを介する
プログレッシブタイプ。
ホイールトラベル(ストロークと同義語)は144mm。

メーター
完全なるスポーツバイクだがタコメーターは無し。耳ダコでチェンジする。
リザーブランプを含め警告灯類はすべて右のパネルの中に収納。

 

             MB 2000.7月号