エイジュウプロ改Vmax

 

 試乗しようとコイツを借り受けに行ったときは、
まだなにやら作業を続けていた。
「あら。まだ途中なんですか?」
「いや、今ね、フロントのフェンダーのステーをね、
ちょっと加工中なんだけど・・・
これ付けちゃえば、もう終わりなんだ」
 塗装が終わったばかりのそれを手にし、
ネジをキコキコやりながら栄重さんは言った。

 栄重さんとは、初対面だった。
 オレはまずコイツのコンセプトを聞いてみた。
「うん、頼まれたのはね、
どこにもないカスタムで、シンプルで、
そして、一番速いVmaxを作ってくれということでね・・・」 

 栄重さんは、元はヤマハでレース活動に携わっていた人なので、
何をやっていいのか、悪いのかという事を、
ある種専門家として分別つけている人だった。
その点、オレとは話が合っていた。

 オレは最初に言っていた。
「栄重さん、はっきり物を言わせてもらいますが、
オレ、チューニングされたバイクって、
まるっきり信用してないんです」
「ほう」
「30年前のオートバイならいざ知らず、
現代のものは、最初から公道用にフルチューンされた状態で
売られているのも同然なんです」
「うむ」
「何10億円分もの最新加工機と測定器を備えた場所で、
プロの中のプロ、超一流の専門家が何10人と束になって、
その上で、何億も捨て銭するのを覚悟で、
1台のオートバイをこしらえる」
「うーんうん」
栄重さんは大きく首を振った。 
 オレは続けた。
「それをいじって、いったい何がどうなるのか、
というのが、オレの偽らざる気持ちなんですよ。
特に、エンジンに関してはね」
 腕を組み、にんまりとしながら黙って話を聞いていた
栄重さんは言った。
「その通り。まったく、その通りなんだ。
だからエンジンに関しては、基本構造には、
ぼくはまったく手を付けていない。ノーマルのまま。
変えてあるのはキャブ、FCRね、それだけなんだ。
でも、Vブーストは取っちゃった。
ぼくは、アレによる加速感が、あまり好きじゃないからね。
そこに、オリジナルのフルタイム・Vブースト機構を
追加してあるんだ」

 聞けば栄重さんは、
四輪のジムカーナにも手を染めていて、
Vmaxのエンジンを搭載した特別な車両も、
製作しているのだという。
取材された記事や写真を見ると、
超が付くほどの大改造車だ。
「これは1.3リッターにしてあるのだけど、
まあ確かに馬力はねえ、出そうと思えば
160馬力でも180馬力でも出せるんだけど、
そうすると、特性的にすごく乗りにくくなっちゃって、
とてもオートバイには積めるような代物じゃ
なくなっちゃうからねえ。
肝心なのはバランスだからねえ」

 そのとき奥から声が聞こえた。
「全部、完了しました」
 栄重さんは、ニヤッと笑った。
 ファゴッ! ファゴッ!
音が、すでにVmaxのものではない。
スペシャルマフラーから吐き出される音にFCRの吸気音が混ざり、
V型でも並列でもない、一種独特の音を店内に轟かせている。
「いいですよ、もう乗ってって」

 どんなものなのだろう、と期待しながらバイクを押し出すと、
オレのVmaxよりも随分と軽く感じる。
前後17インチと小径化、
シートもワイズギアの薄型のものに交換されているので、
足付き性も抜群に良い。
クラッチも、ノーマルより全然軽くなっている。

 歩道を横切ろうとソロソロとスタートさせると、
ガコッと止まった。
アイドリング+α付近のトルクはあまりないらしい。
 ちょっと吹かし気味にして、店の前の246へと躍り出た。
どんなものなのだろう、
どんなパワー感なのだろうと、
ずっとその加速力が気になっていたオレは我慢しきれなくて、
車体が直立するなり、いきなり全開にした。
 バッチン!
そのとたん、後ろから蹴っ飛ばされたように、
栄重改は突進し始めた。
速い! こりゃ、速いぞ!
 車体の軽量化、特にホイールの軽量化が
(ノーマルのホイールはアルミとはいえ塊に近く、しこたま重い)
大きく効いているのだと思うが、
ホイールスピンせずに、駆動力のすべてが、
車体を前へ押し出す力に変換されているような感じだ。
(こりゃあ、街中のゼロヨンごっこ、
少なくとも信号間の競争だったら、ハヤブサとタメ張れるのではないか?)

 ガバッとアクセルを開けると
車重が半分ぐらいになったような感じになり浮き上がって突進して行く。
 路地を曲がった。
(うわっなんだ、ハンドル全然切れないぞこりゃ!)
 大通りへの近道を探そうと角を曲がろうとしたときに、
予想外にすぐガコッとつっかえてしまったオレは、
仰天して半クラでしのいだ。
 フォークもシートと同様、ワイズギアのVmax専用品なので、
信頼性はまったく問題はないのであるが、とにかく切れ角はない。
 だがこの部分は、良く見てみると
フォーク側のストッパー部分の肉厚が過剰に取ってあり、
そこを削ってしまえばこの問題は解決されるので、
まあいいだろうと解釈した。

 環八を流し、第三京浜へと入り込んだ。
だが、これは場違いなところであることがすぐに分かった。
キャブのセッティングが、
高速道路を飛ばし続けるにはまったく適してないのである。
開けても全然付いて来ない。
こりゃやっぱ街中だと、再び市街地を走り始めた。
すると、俄然本領を発揮し始める。
どんな人が乗るのだか知らないが、
これ・・・ふつうの人が乗ったら、ちょっと危ないんじゃないか、
と思うほどに。

 加速は、オンかオフかのどちらかだけしかない。
まるでスイッチのようなものである。
アクセルを開ける。
すると今まで20〜30馬力しか出ていなかったものが、
突然100馬力に切り替わってしまう、そんな感じだ。

 試乗を終えたオレは店へと戻った。
ドアを開けるオレをこっそり横目で見ていた栄重さんは、
視線を真っすぐに戻した。
「速いですねえ・・・。160馬力ぐらい出てるんですか?」
「いや、たぶん145馬力ぐらいじゃないかなあ。
シャーシダイナモにまだ掛けてないから、まだ分からないけど。
もちろん後輪でだけどね。
ノーマルは、125馬力ちょっとだけどね」
 聞けば、このオーナーというのは現在海外出張中で、
戻るまで預けておくから、その間に仕上げておいてくれと
頼まれているのだという。
 なんでも、格闘技をやっている人間で、
暴走族などが行く手を塞いでいても、
コイツで平気で蹴散らしてしまうらしい。

 改造の趣旨も、オーナー・作り手共にハッキリとしている。
「高速道路の事は考えない。
とにかく、街中でガッと開けたとき、
そのときにバカッ速ければ、それでいい」

 単純明快。
それを目指し、そのように、作る。
そして、得た代償に伴う不具合には、一切意を唱えない。
それがカスタムの鉄則だ。
現時点で、改造費用は約300万円だという。
 正直言って、乗り易いバイクではないとオレは思うが、
いずれにせよ、街中に限るならば、
横に並ばれたくはないバイクの筆頭となることは、間違いないだろう。

 

 

キャプション
フロント全体
ぶっといフォークはワイズギアから
Vmaxキットとして発売されている純正品。
ホイールはダイマグのカーボン製17インチ。
ついでにフェンダーもカーボン製だ。
この組み合わせにより、ハンドルの操作感覚は驚くほど軽くなっている。
低速時に見られる、ノーマルでの切れ込む感じがまったくないのだ。
完璧に街中向けの味付けだ。

ダミータンクを外したところ
吸気抵抗を低減させるため、
エアクリーナーはノーマルのものから
ラムエアに換装。スロットルバルブが開くとガボッ!と、
かなりでかい吸気音が聞こえて来る。

フロントブレーキ
ディスク&キャリパーブレーキは、ローターとキャリパーは
ノーマルのままシリンダーをブレンボ製のラジアルマスター19、
ホースをアールズに変更。
これだけでも効きは十分向上する。

マフラー&オーリンズのサス
排気系統は、エキゾーストパイプからマフラーまで、
すべてエイジュウプロのオリジナル。
特にマフラーはこのために作ったワンオフ物。
試作品のため価格も未定だ。

左ハンドル・マスターシリンダー
クラッチもブレーキ同様、ブレンボのラジアルマスター19 と
アールズ製のホースに変換。
ノーマルよりも明らかに軽くなっているのがすぐに分かった。

マルケジーニのホイール
リアも17インチ・ダイマグ製カーボンホイールを装着。
支えているのはオーバーレーシングのオールアルミ製強化スイングアーム。
これで相当軽くなっているはずだ。

リアシートのガソリン給油口
シートはコルビンに変更。
ノーマルよりも薄いので足着き性は良くなるのだが、
その代わり給油口は、フタ代わりの皮を捲った穴の、遥か奥底となる。

左ステップ回り
ステップもオーバーレーシングの物を使用しているが、
このバイク専用にロッドの長さやレバー比を変更するなど改造し、
オリジナルのセッティングがなされている。

 

             MB 200.3月号