YAMAHA FZS1000FAZER
例えば、だ。
あの「究極のレーサーレプリカ」とも言えるGSX-R1000や、
CBR954RRを生粋のストリートバージョン、
つまりネイキッドとしたようなオートバイが発売されたら、
いったいどんな騒ぎになるだろうか?
同じように、では「あのR1のネイキッド」が出たら? 出たらもなにもない。
実はヤマハはすでにそれをやってのけているのだ。コイツが、まさしくそれだ!
正確に言うならば、コイツはR1の外装をひん剥いたものではない。
あらゆる路面に対処するため、
フレームはしなやかさを持つパイプ製のダブルクレードルタイプで組まれており、
そこにコイツ専用にセッティングを施した「R1のエンジン」が搭載されているのである。
街乗りでの 使い易さやパンチ力の増強を求め、
最高出力こそR1の152馬力/10500回転から143 馬力/10000回転へと下げられているが、
最大トルク(数値は同一)の発生回転数は8500回転から7500回転へと、
1000回転引き下げられている。
つまり街中でのパンチなら、 あのR1より強力に仕上げられているというわけだ。
ヤマハ曰くコイツは
「真性のパフォーマンス・ネイキッド」であり
「ワインディングロード最速」を狙ったものだという。
ストリートに最適化されたディメンションを持ち、
街乗りでの使い勝手の良さと週末のブッ飛びツーリングを両立させる、
超高性能スポーツモデルなのだと。
この言葉にうそはない。
実際コイツは街中でもきわめて乗り易く、かつ、ひとたびブン回せば滅法、 速ぇ、速ぇ!
どのくらい速ぇのかって?
まずはそこから書いてしまおう。
コイツのレッドゾーンは11500回転から始まっているが、
その直前までブン回してやると、
1速でアッと言う間にスピードメーターの針は
120km/hを僅かに超えた辺りにまで跳ね上がる。
2速に叩き込み同じことをするとそれは口の中で数を数えるか数えないか、
という短時間のうちに165km/h弱にまで跳ね上がる。
そして全部で6速あるうちのたった半分・・・つまり次の3速に放り込まれた時点で、
200km/hの大台に簡単に乗ってしまうのだ。
ちなみに 10000回転の時点ですでに、180km/hに到達してしまっている!
計測したわけではな いので何秒でとは言えないが、
強烈な加速Gに面食らいながら口の中で二言三言モニョモニョ呟いているうちに
すぐさまそんなレベルまで到達してしまうのだ。
これを「は、速ぇ!」と言わずして何を速ぇと言うのか。
「FZ」という頭文字や「フェーザー」というネーミングから、
みんなついあの「教習車」を連想してしまいがちだが、
それはとんでもない間違いだと思い知ることだろう。
共通しているのは乗り易さという部分だけだ。
実際はR1そのもの、場合によってはこちらのほうがパンチがあると感じるほどの、
凶暴なパワーを持っているのである。
こんなのにゼロヨンでも吹っかけられた日には、
もっと排気量のあるバイク、パワーのあるバイクに乗っていたとしても、
容易なことでは勝つことはできないだろう。
ちなみに、R1とコ イツを乗り比べてみたとしたら、
大部分の人はこっちのほうが安心して開けられる、ということに気が付くハズだ。
なぜなら、R1に比べてコイツのほうが遥かにウイリーしにくくなっているからだ。
それはなぜなのだろうか?
エンジンを専用フレーム
(R1とはコンセプトが異なるので、敢えて重量増となり剛性面でも不利とはなるが、
その代わりずっと安上がりに済むスチール製だ)
に搭載した際、コイツはその位置を14mmも下げられたということ、
更にホイールベースもR1に対して55mmも大きく取られている、
ということが大きく影響している。
R1はローギアでの全開加速時には、
やろうと思わなくてもスゥ〜と前輪が浮き上がって来るという、
好き者に取ってはたまらない? 特性を持っているが、
これは逆に言えば普通のライダーに取っては、
もっと「たまらない」特性であり、
初めて全開にしたときに肝を潰した奴も多いことだろう。
その心配がなく無造作に開けられるというのは、
大いに安心できる=自分のテクニックを躊躇なく叩きつけられる、
ということになるのだ。
ちなみに、GPマシンなどのレースシーンの強烈なイメージからか、
ウイリーするというのは桁外れのパワーの証し、
と解釈している人も多いようだが、
あれはコーナーリング性能を優先させるために
極度にコンパクトらまとめられた車体に、
技術的に出せるところまで出したバケモノのようなパワーを持ったエンジンを
搭載してるゆえに起こってしまう、結果としての現象なのである。
サーキットという特殊な場所、
そして「職人技」を持ったライダーであるならばそれもさして問題にはならないが、
一般市販車、特にロードモデルに取ってはこれはかなり厄介なものとなってしまう。
なにしろ舵が効かなくなってしまう! というのはさておくとしても、
現実レベルでもウイリーし易いマシンというのは
操縦性そのものが大きく悪化してしまうのだ。
具体的な例を出すならば、例えばコーナーの立ち上がりだ。
軽いウイリー状態になりフロントフォークが伸び切ってしまうとする。
それだけだったらまだバネ下のすべての重量は路面が受け持ってくれているが、
例え僅かであろうが離れてしまったら
−−つまりウイリー状態に入ってしまったら−−
それらの部分はすべてフロントフォークにぶら下がる事となり、
その結果一気に増加したステアリング回りの重量が、
ハンドルを妙にコジるような力となり影響を与えるのである。
コイツの場合はR1と違い「走る場所を特に限定しない」というコンセプトのため、
このあたりの現象を極力排除する、
つまり誰でもが、どこででも平気で開け易いようにとの配慮なのだ。
と言っても・・・とてもではないがそれは一般のライダーにはまず無理な話、
ストリートのワインディングにおいては、
例えそれがプロレベルの腕を持つライダーであったとしても
「本当の全開」になどできるものではないとオレは断言しておこう。
かようにコイツはサラリと超高性能、なのであるが、
その性格はR1譲り、ブン回すことによ って発揮される。
1000ccもあるのに11500回転から始まるレッドまでフルに使って、
という前提でギア比が設定されているので、
しかるに400ccクラスに乗っているのか? と錯覚をしてしまうほど、
意外なほどにコイツはクルージング時の回転が上がっている。
なにしろ80km/h時ですでに3400回転回っており、
100km/hになると4200回転の辺りをメーターの針は指している。
レッドまでまだ3分の1ちょっと(!)しか回っていないとはいうものの、
それでも4200回転は4200回転
(参考までに書いておくとあの最新レプリカCBR954でも4000回転を僅かに下回る)
なので、かなりの高回転音を発する。
なので実際はまだまだ余裕の塊なのに、
ついついギアをもう1段掻き上げようとしてしまうのだ。
ちなみに高速道路で事実上黙認されている? 120km/hでは5000回転も回っている。
1000ccもあるのに高速のクルージングでこんなに回っているのであれば・・・
ではこの高性能バイクはどれくらいガスを食うのだろうか?
ちょっと不安になる人もいることだろう。
そこで今回は2回その計測を試みた。
最初は意識的に「回さない」で走るようにしたもの。
高速道路もしくはそれに準じたスピードで巡航できる
バイパスなどの部分が 丁度107km、
一般路が73.1kmの都合180.1km走って、食ったガスが9.32P。
つまりP当たり19.32km走っていた。
ではちょっと熱い走りをしたらどうだろうか? とやった2回目は、
198.9km(内、高速道路またはそれに類似する部分が60%、
更にその内かなり飛ばした−−まあ普通の人が普段行うツーリングであるならば、
これが上限であろうなという感じの飛ばし方だ−−という部分が少なくとも
50kmほどは含まれている)走ったのであるが、それでも食ったのは11.46P。
つまり17.35km/Pで、約2km/Pしか悪化することはなかった。
まあ飛ばした=回したといっても、
加速が 強烈なので即座に前車に追い付いてしまうし、
トップギアのままでも
通常の追い越しなら何ら不満のない加速ぶりをみせてくれるので、
結果的に当初の意気込みほど回していなかった?
という部分もかなり大きいとは思うが、
いずれにせよ、少なくともこの性能を知ってしまったら、味わってしまったら、
この燃費数値がどれほど悪化しようと
不平不満を言う人間はそうは居ないことだろう。
ちなみに、一般路でトップギアのまま流れの遅いところに追いついてしまい、
そのままスローペースで擦り抜けを始めることになっても、
35〜40km/h辺り(およそ1500回転付近を針はうろついている)までなら、
コイツはそのままズーズーと問題なく走り続けることができる。
ただし、前方のクルマが左に寄る気配を見せたなどでブレーキングしてしまい、
それ以下のスピ ードに落ちてしまうとさすがにノッキングを起こし始めるので、
そんな場合には4速にホールドしたまま走ることをお勧めする。
そんな速度域では僅か数100回転しかトップギアとの相違はないので、
どのみち「まったく静かに」走れることに変わりはないからだ。
更に追記しておくならば、
3速に入れておけば1000回転を僅かに越えただけという、
ほぼアイドリングに近い状態で20〜30km/hというノロノロ走りにも耐えることが可能、
しかも駆動力がくそほどもある状態なので、条件さえ整えば
「ノッキングに見舞われる心配もない+そこから開ければ200km/hを突破するまで」
という、まるでオートマチックのような走りを堪能することも可能である。
ではブレーキ性能は?
コイツのフロントに装着されている
298mmのフローティングWディスク+モノブロック4ピストンキャリパーは
そんな速度域からでもたちどころに車速を殺す能力を有している。
通常の握力を持っている人間なら
「中指1本」でタイヤから悲鳴を上げさせるまで効かせることができるほど
強力に作動すると書いておこう。
リアも267mmという大径のローターにモノブロック2ピストンキャリパーという
過剰なほどの組み合わせを備えているが、
これは2ケツして後部に大荷重が掛かったような状態では
大いにその効力を発揮してくれることだろう。
最後の〆として、その他の部分に触れて行こう。
コイツはR1に比べて乗っていて疲れないし 、とにかく取り回しが楽だ。
まずなによりポジションだ。
レプリカのようにごめんなさいした姿 勢を強要されるものではなく
限りなく一般ポジションに近いものなので、体の自由が効くのだ。
またシートも大型で、平たい形状をしているので最初はちょっと固めの
印象を受けるのだが、中にスプリングでも入っているような感じで、
衝撃を受けた際にケツ骨の当たる部分がウレタンの中にスコスコと
ストロークしてくれるので、乗り心地はかなりの高得点を付けられる。
そして嬉しいのが、ハンドルがまともに切れてくれるという点だ。
従ってUターンをするときに構えることがない。
ちなみに最小回転半径でいうと、R1の3.9mに対し、
コイツは2.9mと、なんと1mも違うのだ。
シート高は820mmと同一、
車重はこっちのほうが 34kgも重いというハンデがありながら、
実際に立ちゴケする人間は、こっちのほうが遥かに少ないことだろう。
またコイツにはセンタースタンドが装備されているのだが、
これは洗車や整備のときなど本当にありがたいと思うものだ。
これはフレームを専用設計したからこそ可能となった部分であり、
R1をひん剥いただけではまず不可能。さすがメーカー製ネイキッドだ。
最後に、デザイン上の大きな特徴となっているミラーのことに触れておこう。
ハッキリ言ってこれはかなり見にくいものがある。
スピードが出るオートバイなので空力上の問題が大きかったのだろうが、
スリムゆえにガラス面積が小さく、
しかも平面鏡であるそれが手の届かないほど遠いところに位置しているので、
見える範囲が狭いのである。
伏せてカウルのほうに顔を寄せたときに普通のオートバイのミラー距離になる=
その状態で普通のオートバイレベルの視認性を持つ、と言っていいだろう。
またアームが長いため、トップギアで80km/h〜100km/hのあたりで
発生するエンジンからの微震動が末端のミラーに伝わり、
ブレて見えにくくなるというのも難点だ。
しこたま速ぇのだから・・・・
後ろはやはり常にバッチリと見えていてもらいたいものだ。
どこかでコイツに出会い、
(なんだ? FZってか。1000?ふーん・・・教習車の親玉ってか)
そんな軽い気持ちで勝負を吹っかけたら、
アッと言う間に千切られた、という目に遭うかもよ ?
キャプション
エンジン
基本的には、まんまあのR1の物。
それを更にストリートで最強の性能を発揮するよう特性を変更。
低中速域を常用する街中でのパンチ力はこちらのほうが一枚上手だ。
ネイキッドとしては現 在最強のエンジンだろう。
マフラー
排気音はこの手の車両としては比較的静かな部類に入るもの。
夜中でなければ家の前でのアイドル放置に耐えられるレベルだろう。
ブレーキ
タイヤのグリップ力を完全に上回る制動力を発揮するFブレーキは絶品物だ!
メーター回り
この程度のカウルでも効果は十分。3速の範疇からお世話になる。
メーター類は起き過ぎていて 写り込みがちょっとウザイ面あり。
収納スペース
シート下の収納スペースはほとんどない。
車体と一体デザインのグラブバーは2ケツしたときに大いに役立つ部分だろう。
ミラー
カタツムリのツノのように突き出ているミラーはすごく遠い位置にあるので
実は見にくいし、丁度軽トラックとかのミラーと同じ高さなのでそれらと干渉
してしまうのだけど、このようにペタッと折り畳めるので便利な面も多々ある。
MB 2003.4月号