GASGAS PAMPERA 250
3カ月ほど前のことだった。
時刻は真夜中の2時。
目黒通りから一本外れた裏道を通りかかったオレは、
見慣れないオフ車が路駐しているのを見つけた。
一見して国産車ではないと分かるそのデザイン。
そして、やけに小さい。
イタ車か何かの50ccだろうか?
仮に50ではないにせよ、
せいぜいがとこ80か100かそこらだろう。
そう思ったのも無理はない。
オートバイの基本的な大きさを決定付けるものとして、
前輪の車軸から後輪の車軸までの長さ、
いわゆるホイールベースと呼ばれているものがある。
その目安で言うならば、実際コイツは1335mmと、
あのコンパクトで有名なセローよりもまだ15mmも短く、
なんと大柄な50ccとして存在感をPRしていた
ハスラー50の1315mmよりも、
僅か20mm大きいにしか過ぎないのだから!
ちなみに全長で比較しないのは、
デザイン上の観点からリヤフェンダー関係が
大きく突き出ていてその分が計上されたり、
あるいはKLXとDトラッカーのように、
基本骨格はまったくいっしょなのに
前後のホイール径の差が全長の違いとなっている、
というようなことがあるからで、
あまり意味を持たなくなってしまう。
それほどコイツは小さい。
歩み寄ってみると、タンクには
『GAS GAS』と書かれていた。
おお、これがあのガスガスか!
名前だけは知っていたが
実際に現車をまじまじと見たのは初めてだった。
機種名を確かめようとして、また驚いた。
なんとそこには『200』 と表示されていたのである!
(これで200ってか!)
実際はこの200と称するエンジンのキャパは162cc。
ところがコイツにはさらに正味237ccのキャパを持つ、
250なるモデルも用意されていた。
これはおもしろそうじゃねぇかと、
オレは翌日さっそく編集部へオーダーを入れていた。
想像していたのは
『前後のホイールを大径化したDT50に
ランツァのエンジンを搭載したような、
とんでもないカッ飛びバイク』である。
ところが、だ。
これはとんでもない大ハズレだった。
それはエンジンを掛けクラッチを繋いだ瞬間に分かった。
コイツは 実はカッ飛びとは正反対の極にいる、
完全なるトライアル車だったのである!
トライアル車?
なんだ、あのトロトロ走り回って
アクロバットみたいなことするやつか。
開けてもガオガオ唸るだけで、
ちっともスピードが出ないバイク。
そんなバイク、おもしろくな いに決まってらあ・・・。
こんなことを思った奴もいるのではないか?
では、おもしろいバイクとは
どんなものを指して言うのだろうか。
人によって意見はいろいろとあろうが、
少なくともこの手のバイクにおいては
「手足のように自由自在に扱える」ということは、
筆頭に来るぐらい大きな事柄だとオレは思っている。
その意味で言うならば、これは他のすべての
オフロードバイクをなぎ払うほどの、ダントツの
おもしろさを持ったバイクだと断言してもいいだろう。
その理由を以下に書き連ねて行こう。
1、とにかく異常なほどに低速が強いので、エンストしない。
(にわかには信じられないかもしれないが、
コイツは4速から発進しても、まったくふつうのバイクの
1速からのごとく、苦もなく動き出す。
それも多少の坂道でも関係なくだ。
したがって本来のローギアに入れた場合は、
歩くようなスピードでUターンをしようが何をしようが、
まず絶対にエンストなぞ起こさない。
つまり初心者でもまずは立ちゴケなど起こさないだろう、
ということだ)
2、とにかくコンパクトで、軽い。
(大きさについてはすでに触れたが、コイツは車重も
僅か100kg弱と排気量から考えると異様に軽いため、
振り回すのに特にこれといって腕力体力が要らない)
3、足着き性が抜群に良い。
(不必要なほどにサスを長く延ばしてないし、
また細身なので、セローはおろか、感覚的には
ほとんど50ccクラスのオフ車並のシート高。
そのため足を着かなければならないような
荒れ地に入っても恐怖感がない)
4、ハンドルが恐ろしいほど切れる。
(ふつうのオフロードバイクよりもさらにコブシ
ふたつ分ほどもガバッと切れる。そのため、
常識では考えられないようなところでのターンが可能となる)
大きな点はこんなところだ。
つまり、カッ飛ぶことの正反対のことであるならば、
手足のように扱えるどころではない、自分の腕が
突如として5年間分ぐらい上達してしまったと錯覚するような、
とてつもない走行性能をコイツは備えているのである。
もしコイツに乗ったならば、
今まで自分には縁のない世界、
走ることなど不可能と諦めていた世界が
急に『そこらの舗装路の続き』となってしまい、
(スピードを求めるときにはハヤブサや12Rがそうであるように)
「いやあ、バイクってやっぱすげえ乗り物だ!」
とまたオートバイが好きになるのではないだろうか。
休日の昼下がり。
女と2ケツして、ひと気のまばらな河原に乗り入れる。
3速に入れたまま、
トコトコ走りで玉砂利をかき分け薮を抜け、
小川を突っ切る。
自然を味わいながらトレール・ランを楽しむ。
まったく飛ばさず、
アイドリング+αのような低回転で急坂を乗り越える。
そして言う。
「いまのところさ、あれでもまだ、2速だったんだぜ!」
飛ばす、という余計なことさえ考えなければ、
これは誰にでもできることなのだ。
なにしろ、
ふつうにオートバイを転がすことさえできるのであれば、
後はすべてコイツがやってくれるのだから・・・!
では最後にこの驚くべき低速時の駆動力と粘り強さ
(恐らく市販車としては現在世界一だろう)に
対する代償を書いておくとしよう。
それは
「120km/hぐらいまでは出ることは出るが、
そういうスピードで飛ばし続けられてしまうと、
10分か15分ぐらいで焼き付く(総輪入元ARROW談)」
ということだ。
つまり高速道路を使うような乗り方走り方は
想定外とすべき、ということなのである。
見た目はまるで今ふうのオフロードバイクであるが、
中身は特殊車両であるトライアラーそのもの。
(実際エンジンはガスガスのトライアルマシンである
JTXの97モデルから派生している)
のこのバイクは、もちろん山奥に続くケモノ道のような
ところを走る、
いわゆるアタック・ツーリングに使うには
絶好のマシンであることに間違いはないが、
そこまでの移動のことを考えると、
都会、もしくは都会のごく近郊を散策するために使うのが
本来の使い方だ、と割り切ってしまったほうがいいだろう。
「アーバン・サンサク」
ジャンルなど、なければ自分で作っちまえばいいことよ。
そして自分自身の新たな世界も、な・・・。
食わず嫌いはもったいないぜ。
キャプション
エンジン
乗ったら10人が10人とも「なんだこりゃあ!」と
たまげるに違いないほどの、驚くべき低速トルクを発揮するエンジン。
エンストなん てさせるほうが難しいぐらいだし、
クラッチも油圧式でメチャ軽いので、
もしかしたらこれ乗って一番喜ぶのは、初心者の女の子だったりして。
フォーク
重量物に影響されない軽快なステアリング特性を実現させるために、
フォークはステアリングシャフトに極力近づけられている。
下部に見える丸穴は、ゲーセンの機械にあるような形状の
別体キー式のステアリングロック。
ブレーキ
数値が公表されてないのでサスのストローク量は不明だが、
これだけあれば必要充分。不要長はシート高の低減に回されている。
バネ下重量を軽くするためブレーキはかなりの小径となっているが、
しこたま良く効くので驚いた。
サイドスタンド
スイングアームの下に沿っているのはトルクロッドではなく、
サイドスタンドだ。オレは止まる度にシートに腹を当て、
おじぎしながら手で出していた。
マフラー
2サイクルゆえ基本的に音はちょっと大きめ。
吸気共鳴音もかなり大きいので、小刻みに吹かしていたりすると
モアモア、ブイブイ、ガボゴァ! とけっこう賑やかだ。
ミラー
極めて簡素化されたメーターまわりと、
転倒時のことを考えて独特の位置に取り付けられているミラー。
奇抜な位置だが、肩にケラれないのでこれが意外と良く見える。
MB 2000.9月号