HONDA GOLDWING 1800
オレはワルキューレには何度も乗っているが、
コイツにはまだ一度も乗ったことがなかった。
あまりにもでかくて、
乗ってみようという気にならなかったのである。
重くてどん臭ぇだろう。
街中じゃあまともに取り回せないだろう。
どうやって曲がるのだ?・・・。
とにかくオートバイとしては重すぎる、
巨大すぎるというイメージに凝り固まっていたからだ。
だが・・・それはとんでもない思い込みであり、
ホンダという会社には「驚くべき魔法使い」が
いるのだということを今回知らされた。
コイツの白バイに追いかけられたら、
まず100人が100人とも捕まるだろう。
そりゃあ高速道路ではだろうって?
混雑した街中やワインディングならチギれるだろうって?
いやいや、もしオレが白バイをやっていたら、
100人のうち99人は確実にとっ捕まえてしまうだろう。
例え相手が何に乗っていようとも、だ。
こんな話を書こう。
Worksの東京ショールームがオープンするというので、
コイツのテスト途中で顔を出した。
するとそこにライター仲間のカズ中西がいた。
これから伊豆まで戻るのだという。
じゃあオレもこれから山のほうに行くから、
いっしょに行くかとなった。
カズは思ったという。
(こいつは面白いことになって来たぞ!)と。
乗って来ていたのはオーバーサイズのピストンをブチ込み
750フルサイズまで排気量拡大した峠マシン・GPZ750。
バイク歴20年、
しかもジムカーナの県大会で入賞経験を持つ腕前・・・。
用賀から東名に乗り、厚木まで飛ばした。
「やっぱ、速ぇっスねえ! 750じゃ全然追いつきませんよ!」
だが、ここからはワインディングが続く。
いかにパワーがあろうがなんだろうが、
こんなにくそでかくて、
くそ重いバイクにコーナーリングマシンのGPZが負けるわけがない。
おまけにジムカーナやってたんだぞ俺は・・・。
シンヤさんの鼻をあかしてやれと、彼は密かに思っていたらしい。
そこから一気に100数十km飛ばして、
休憩したときのカズの絶叫がコイツのすべてを物語る。
「ほかの本に書いてあるの、うそばっかだ!
擦り抜けできねぇ?
俺のと変わらずに、平気で行けれるじゃねぇか!
なにコーナーが遅ぇって?
俺、着いて行くのがやっっっと、じゃねぇか!
100回ぐらいきんたま縮み上がって心臓飛び出しそうになってよう!
なんっで、GLのほうが速いんスか!
こんなのってありなんスかあ!
お、俺の見て下さいよ、
エンジンなんかこの1時間、
7000〜11000回転の間使いっぱなしで、
何かもう変な音出始めているし、
ブレーキのローターなんかもう焼けまくって、
紫色になっちゃってるしって・・・
こんな飛ばしたの俺ぇ初めてですよ・・・
でも、追いつけねぇって・・・これ、なんなんスか!」
そして続けた。
「俺もう軽量化がどうたら、足回りがどうたら、
空力がどうたら言うの、今日からやめた、もう、やめたぁ!」
「これ、話してもぜってー誰も信じねぇって。
俺、50ccに乗ってるときみたいに7000から下落としてねぇってのに。
・・・ああ参った、
みんなどれだけ飛ばしたか見てねぇから、
カズさんヘタクソになったんだよって言われておしまいっスよ!」
驚くべき性能、とはまさにこのGLのためにある言葉だ。
ほんとうにオレもそう思う。
繰り返すが、
誰でも見れば一目瞭然、沈黙するほどにコイツはくそでかい。
そして乾燥で385kg・・・
ガス等満タンの装備重量ではなんと415kgにもなるいう、
くそ重いバイクなのだ。
ところ が、ところがひとたび走り出すと、
それがどうした? というあんばいに消えうせてしまうのである。
まるでスポーツバイクのようにシャッ! と加速し、
ペターッと寝て、ヒラリヒラリと切り返せる・・・!
1800ccというとんでもないキャパシティーから
生み出される絶大なる駆動力
−−それも例えようもないほど滑らかに沸き上がって来る−−
はタンデムしている奴がムチウチになるほど
(実際なった人間がいる)の凄まじい加速力を発生させ、
超低重心設計の車体は、その大きさからは、車重からは
考えられない驚愕すべき
コーナーリング性能の高さを与えている。
ほんとうにこれは、カズではないが
目の当たりにしなければ理解することが難しい話だろう。
だがこれが『マンモスの皮を被ったサブレッド』、
GL1800の偽らざる正体なのだ。
まずそのでかさについて。
見た目の大きさとは正反対にコイツの足着き性は極めて良い。
シート高はわずか740mmと、250のスクーター並なのである。
よってとてつもなく重い車重も、
特に危害を加える要因には直結して来ない。
また、幅もあるが、
これも慣れてしまえば実際にはふつうの大型バイクより
「拳ひとつ分ぐらい左右を気を付ければいいだけ」
だということに気が付く。
次に加速だ。
1830cc・6発タコ殴りのトルクは
まさに前代未聞の強烈さで、Vmaxでも勝てるか?
というほどの大突進を可能にする。
なにしろ、出だしでドン! とクラッチを繋ぐと
フロントが若干だが浮き上がるほどなのだ。
400kgからあるのに、だ。
ということはその重さがすべて後輪の圧着力として伝わるわけで、
ホイールスピンなど起こさず全力が押し出す力に変換される。
そのときはまるで四輪車のバケットシートさながらの
形状をしたシートにケツが圧着されるので、
乗り手の腕にはまったく負担が掛からないため、
その際のコントロールも容易なものとなる。
で、中間加速がまたすごい。
すごいなんてものではない。
先にもちょろっと触れたが、
なにしろ、2ケツインプレだと称してウチの事務所の中川マユミを乗せて、
驚かせてやろうと1速でガッと不意打ちを食らわせたら、
自身もFZR1000所有、テストで12Rもハヤブサも乗っているマユミが、
それでも
(ポジション的に四輪のシート、
それもヘッドレスト無しのものに座っているということもあるが)
ヘルメットごと頭を取り残され、
軽いムチウチ状態になってしまったほどなのである!
テストコースでの動力テストによれば、レッドまでブン回しても
1速で70km/h弱、
2速では110弱、
3速で150、
4速180で ほぼ頭打ちが始まり、
トップの5速では200km/hぐらいか?・・・
という程度しかコイツはスピード自体は出ないのだが、
それはレッドが6000回転からと異常に低く設定されているためである。
1発あたりのピストンサイズを考えれば、
8000回転はおろか10000回転まで
ブン回るようにするのは簡単なことだろう。
しかしそんなことをしたら簡単に200馬力を突破してしまうので、
そうなると今度は制動時に車重が深刻な問題として
再浮上して来るだろうし、
それこそふつうの人には
コントロールできないようなバケモノになってしまう・・・
という現実を考慮し、これは抑えられているのであろう。
が、それでも、こうなのだ・・・・!
では、コーナーが速い、ワインディングでも
「異常に」速いというのは、どういうことなのだろうか?
まず、装備状態では400kgを遥かに越えるといっても、
重心が極端に下げられているということがでかい。
シリンダーの高さを最も低くできる水平対抗の利点が
最大限に活かされている見本のようなものだ。
そこへ着座位置も極端に低いということが加勢し、
腰高感覚ゼロ、
びっくりするほど抵抗なくペタッと寝て、ヒョイと切り返せるのだ。
ハンドリングも実に素直極まりない。
例えばワルキューレの場合
(比較のためコイツにも乗ったのだが、
ワルキューレは要するに旧GLの、皮剥仕様だ)は
コイツに比べるとハンドルそのものがかなり重めで、
また大きく切り込んで行くと途中からさらにグッと重くなり、
内側の手で意図的に突っ張ってやらないと切れ込み過ぎてしまう、
という特性を見せるのだが、
コイツの場合は車重からは考えられないほど軽く、
しかもなんのクセもまったく見せることがない。
だが、400kgは400kg、
その慣性力はどうにもならないだろうって?
ところがだ。
コイツはスッ、ペタッと寝たまま、
タイヤが猛烈に踏ん張って、食いついてしまうのだよ!
どんな配合のゴムを使っているのか知らないが、
コイツのために専用開発したというこのタイヤのグリップ力も、
これまた驚くべきものがある。
ではブレーキは?
それも400kgの慣性力に打ち勝つほどのものなのかって?
勝つのだよ。それも楽勝に。
だからGPZはチギられた。
この車両には極めて高度な制御方式を持つ
前後連動さらにABS付きのブレーキが装着されている。
だからどんな路面でも無造作にと言っていいほどに、
遠慮の要らない大制動が掛けられるのだ。
その場合にも姿勢変化はほとんど起こさない。
リヤが効いている+重心が低いで
前方に持ち上げようとするような力が発生しないのに加え・・・
アンチノーズダイブ機構まで組み込まれているからだ。
では渋滞路の擦り抜けは?
確かにでかいのは事実だ。
しかし大型のバイクやスクーターで、
2ケツしているときのことを考えてみれば良い。
後ろに乗っている人間の膝の部分はかなり出っ張っているハズだ。
その状態で擦り抜けをふつうにやっている人間ならば、
思ったほどはこの幅は障害にならない、
ということに気が付くことだろう。
最も気になるのは巨大なミラーだが、
ほとんどの乗用車をも上回るほどの大きさの
このミラーの見やすさを知ったら、
文句も引っ込めざるを得ないだろう。
燃費データが取れているのは以下の通りだ。
超ブン回して高速〜峠を335km飛ばし続けてP10.34km、
夜中の一般道を117kmエコランやってP19.65km。
2ケツで早朝の都内を227km走り回ってP12.46km。
参考までに書くと
エコラン時の数値はカタログ数値の98.2%にも達している。
今回はおよそ1000km近くに渡って
いろいろな乗り方をしてみたのであるが、
このバイクはほんとうに乗っていて疲れない。
パワーと安定性以外にも、
巨大なシールドはヘルメットのバイザーを上げ
素目の状態でも走っていられるほどに
完璧に風圧から解放してくれるからだ。
こんな疲れないバイクはオレも初めてだ。
当然、後ろはもっと疲れない。
高速2ケツ解禁となったら・・・
ああ、オレはマジで欲しくてたまらない。
超速くて超ラクチン。
超豪華装備(AM/FM無論のことCD6連チェンジャーまで装備)。
超大収納(146Pというまるで家庭用の冷蔵庫のような容量だ!)。
とコイツにはなにもかにも超が付く。
300万円は確かにず抜けて高いが、
しかしコイツは確実にそれだけの価値のあるオートバイだと言い切ろう。
ちなみにブン回したときのコイツの音は、
オートバイのそれではなく、完全にスーパーカー系統の音である。
その音を轟かせながらパーキングに入り、
電動リバースギアでバックさせた日には、
あなたは見知らぬ人から写真を撮られることになるだろう。
キャプション
顔
巨大なスクリーンにより風圧、巻き込み共にほとんどゼロレベルなので、
高速を飛ばしていても素目OK、なんならタバコも吸えるほど。
夜間は白く輝くディスチャージ式ライトが路面を昼間のように照らし出す。
後ろ姿
このでか尻の中に合計142P分もの収納スペースがある。
142Pといえば灯油のポリタン約7つ分!
ちなみにサイドにもオレのMサイズのJ-Force入っちまったぞ。
海行って大玉のスイカ2個買って帰って来られるぞ。
ブレーキ
296mmデュアルフローティングディスク+3ポット+前後連動+ABS+
さらにアンチノーズダイブと、
考えられる最上の機構が与えられている足回りは
上質なクロームメッキを施されたスチール製カバーでガッチリ保護されている。
マフラー
ここから吐き出される音は、どう足掻いても4気筒エンジンでは
作り出せない別世界のサウンド。
4000回転以下では静かなエンジン音なのだが、
それを越えガッと開けると、オートバイというよりスーパーカーのような
高周波音と豹変する!
エンジン
夏場のエンジンの熱気から乗り手を守るためにフルカバーされているのだが、
このようにラジエターを両脇に縦配置したため、
冬場にはここを通過した熱気が足元の開閉式カバーから吹き出す。
つまりヒーター付きというわけだ!
メーター
液晶マルチディスプレイはキーをオンにすると
登録されたオーナーの名前をまず表示。
スピード・トリップ等は無論のこと
気温・リアサスの調整具合・オーディオ関係すべてのディスプレイも。
いずれはナビも付くことになるのだろうか?
シート
このシート、座り心地に関しては絶対世界一、超絶品物。
タンデム部分は従来モデルより前後で50mm、
左右で70mmも拡大されている。
寄りかかって寝られるし、サイドポケット付きと、
比較の対象はもう四輪車しかないレベル。
ミラー
四輪用のものより遥かにでかく、
どんなスピード・回転域でも微塵にもビビらないこのミラーは
死角皆無で100m後ろの白バイも鮮明に写し出す!
とにかく速いバイクなので、
この恩恵には誰でもが絶大な有り難みを感じるハズだ。
スイッチ
左ホルダーには通常のウインカー&ライト上下スイッチの他に
ワイパー&ウォッシャー、ボリューム、一時消音用のミュート、
無線&前後のインカムスイッチ等が配置されている。
ちなみに右側にはクルーズコントロールが・・・すげえ!
ライト
量産2輪車初のディスチャージヘッドライトの光軸は
左のダイヤルで上下調整が可能。右はリヤのコンピューター制御・
電動油圧式アジャスタブルサスペンション(車高が変わる!)の
調整スイッチ。しかも2ポジションのメモリー付き!
オーディオ
高級乗用車顔負けのオーディオコントロールパネルはもちろん完全防水。
自作後付けではこうはいかない。
表示はすべてメーター類を兼ねているデイプレイ内に現れる。
フルボリュームでは「新手の街宣車か」と思わせるほどの大音量となる。
インカム
タンデム用のインカムの端子。
セットを使えば前後の会話・音楽・電話となんでも可能となる。
これも自作後付けでは大変な手間とお金の掛かる部分だ。
しっかり、きれいにで、保証付。
些細な部分だがやっぱ純正はすげえやと思わせる。
リアトランク
フルヘル2個余裕で収納というメイントランクは
キーのリモコンで施錠/解錠が可能。
油圧ダンパーでスッと開いた中には照明付きバニティミラーが・・・。
半開きだとディスプレイ内に警告灯が着くしと、300万円も納得の一面だ!
CDチェンジャー
トランクの底には6連CDチェンジャーが。
驚くべきことに、120km/hぐらいで走っていても
ジェッペルのシールドを上げていれば、
ドラムの「チン・・・」という微細な音まで
鮮明に聞こえて来るほど音質は抜群だ。これ、本当に驚いた!
MB 2002.7月号