SUZUKI GSX1400

 

 コイツを初めて見たときにはそのタンクの大きさに圧倒され、
「おぅ、けっこう、でけえな!」と唸った。

 だが、確かにネイキッドとしては大柄なバイクではあるが、
あの大柄横綱・CB1300 BIG1と比べるならば、
全長で40mm、全高で25mm、
そしてホイールベースでも25mmも小さく、
外寸的に唯一上回っているのは、
30mm広い、全幅の部分だけなのだ。
 シート高もCBより15mm低い775mm。
またその形状自体も大きく絞り込まれた形となっているために、
見た目以上に足着き性はすこぶる良い。
 ついでに言えば車重も228kgと横綱より18kgも軽いのである。
が、なんと言ってもコイツの売り物は、
クラス最大となった巨大なエンジンだ。

 先月号のZRX1200のインプレでオレは
「排気量増大が、いかに有効なものか」ということを書いたが
コイツの場合はアレの比ではない。
まったくの新設計であり、1400cc、
それも例えば1360ccとかのものを1400ccと称するのではなく、
逆に1cc飛び出ている、1401ccなのだ。
 ゆえに腕力は抜群だ。
例えばDR350やグース等の「パンチ力自慢、力こぶ十分の猛者」
が常に4人掛かりでタコ殴りするエンジンは、
実際、無敵のくそ力を発揮する。

 ひとつ、聞いただけで戦意喪失してしまう話を書こう。
「01型の最新型GSX-R750は10500回転で8.5kg最大トルクを
発生させる。ところがコイツは、何とそれと同じトルクを
僅か1200回転で叩き出す!」

 更に言うならば、
「国内で常用するであろう」とスズキが想定した
5500回転以下の領域では、
あのハヤブサをも凌駕するパワーを発揮しているのである!
ブン回すことを考えず、右手のひと捻り、
最初のワンパンチですべてカタをつける・・・。
まるでスーパーヘビー級ボクサーのようなコンセプトのエンジンだ。
(実際スズキサイドとしても、コイツの開発に際しては
『最速ではなく、最強のエンジンを作りたかった』
と公言しているのだ)

 では、それはどのくらいの威力を秘めているのであろうか。
その肝心な部分に話を移して行こう。

 この巨大な4気筒エンジンにはキャブレターではなく、
インジェクションが採用されている。
そのためまさに一発、
エンジンはセルスイッチをチョンと押しただけで
即座に目覚めるのに加え、
暖まるまでの回転調整も自動でおこなってくれる。
つまり、チョークだなんだのの操作は一切必要としないのだ。
するとすぐに、ズズズズズッという、
1400ccということを納得させるだけの、
図太い排気音が腹に響いて来る。
クラッチはこのクラスの他車に比べると、やや重めだ。

 できるだけ驚きたいから、走り出してすぐに、
いきなりグワッと大きく右手を捻ってみたら、
とたんに後ろからダンプカーにでも追突されたかのような勢いで、
コイツはドカッ! と突進し始めた。
2速でも3速でも、それはほとんど変わらない。
では、4速・5速・6速では? 
とてもではないが街中ではそいつは試すことはできない。
なぜならテストコースでドカッと開けてレッド直前まで引っ張ると、
1速で110km/h、 2速で150km/hという具合に
アッと言う間にスピードメーターの針は反っくり返っていき、
3速では180km/hスケールのメーターを完全に振り切ってしまい、
目見当でおよそ200km/hのあたりにへばり付いて
その動きを止めているのだからして。

 だが、だ。
意外だったのは、確かに開けた瞬間の蹴飛ばされ方は
猛烈なものがあるが、
しかし全体を通して感じる「加速感」自体は、
思っていたほどは強烈ではなかった、という点だ。

 ブン回せばこのように車速は増大して行く。
が、およそ6000回転から上は、レッドまでブン回していっても、
回転の増加に伴って発生することとなる「パワー」自体は
100馬力に押さえられているため、
ハヤブサのような、振り落とされんばかりの引っ張られ方は
しないのである。
ドカン! と来てグワッ! とは来るが、
その後のズシャ 〜! は、そう驚くほどのものではない。
「なんだ、1400ccといっても、こんなものなのか」
と思う人間も多いかも知れない。
あくまでも、回したら、の話だが。

 そしてもうひとつ、おもしろいことに気が付いた。
では、チェンジしないでそれぞれのギアで、
単独で1000回転のあたりから
ガバッと開けたときにはどうなるのか? というと、
これが、即座に反応しドンッ! と蹴飛ばされるのは
ローギアのみであり、2速、3速ではワンテンポとまでは
言わないが、最初ややマイルドに反応してから、
ドカッと大加速状態に移るのだ。

 ここまで低回転の駆動力を売り物にしておきながら、
なぜなのだろうか?
答えはただひとつ。
こうでもしておかないと、とてもではないが、
一般の人には乗れなくなってしまうからだ!
2速や3速で路地を曲がり、
何げなくアクセルを捻ったとたんに
このトルクを持ってしてドカン! と突進されては、
雨の日などはベタランでも、ほんとうにビクビクしながら
グリップを捻らねばならなくなってしまう。
 しかしこのようなことは、オレのような職業の人間が、
「それなりの目を持って捉えれば・・・」というだけの話であり、
もしリッターバイク、それも1200cc、1300ccのクラスに
乗り慣れていない人であれば、
「すぐに反応しないだとう? じょ、冗談じゃないぜぇ!」
と驚愕することは間違いないだろう。

 とにもかくにも、もしあなたがコイツに乗ったとしたら、
信号待ちからスタートして、せいぜい3000回転か、
ちょっと引っ張ったな、という感覚でも4000回転あたりで
自然とチェンジアップしていることに気が付くハズだ。
それでまったく十分に「速く」走れてしまうのだ。
というよりそれ以上一気に回してしまうと、
体が引っ張られ過ぎて落ち着いて乗っていられないので、
自分で自然と回すのを避けていることに気が付くハズだ。
かようにコイツの低速域での駆動力には並外れたものがある。

 そんなあんばいなので、
実際オレも1速からスタートした場合は次は2速に入れず、
チャッチャッと掻き上げて、1速飛ばして3速に入れ、
またチャッチャッと掻き上げて5速で流す・・・
あるいは2速からスタート
(アイドリング+αの1000回転も回っていれば、
仮に2ケツしていようが上り坂だろうがまったく問題ないどころか、
その気になれば4速5速でも発進させることは可能だ!)して、
チャッチャッチャッと3発一気に掻き上げて・・・
というような走り方に始終していた。

 横着ができる。
これはそのまま「疲れない」「楽だ」に直結していることにもなるのだ。

 回さなくとも速い・・・というか、
回す必要性を感じられないのに加え、
従来の5速の上に、そのままの間隔でもう1速追加したような、
完全にオーバードライブギアとしての有効性を持つ6速ギアのおかげで、
街中でも高速でも、コイツは唸るようなことはない。

 そこには無言の威圧感が同居している。

 絶対的に強いのを自覚しているから、
常に沈黙してい る筋肉隆々の大男のようなものだ。
 だがその大男は、まったくふつうの格好をしている。
世界一トルクのある筋肉を有していることも、
一見すると見とれない・・・。

 そんなのを怒らせたら大変だ。
その場所がストリートである限り、
いつ、どんな姿勢から放ったパンチでも、
相手はことごとくフッ飛ばされる運命となる。

 シグナルGPで、ハヤブサを殴り倒す・・・。
すげえバイクが、出たものだ。

 

 

キャプション
バイクの上でゴロ寝
大柄な車体なうえにシート/タンク共に大面積かつ平面的なデザインのため、
バイク乗りなら誰でも一度はやってみたい? こんな粋な休憩も余裕でできる。

エンジン
スズキ得意の油冷エンジンで、1401cc。
ということは、発熱量も過去最大のものとなるわけで・・・
夏場の渋滞、Gパンで耐えられるのだろうか。ガニ股覚悟だな。

マフラー
エキパイは中に空間を持たせた二重管構造、
マフラーは1本当たり4.7Pの大容量を確保して騒音規制に対処しているが、
それでも腹に響く音は出る出る。

ブレーキ
320mmの大径フローティングディスク+対抗6ポットの、
このFブレーキの効くこと効くこと!
加速・車重ものともしないで握り殺す。逸品だぜ、これは!

ライト
ヘッドライトは、レンズではなく、反射鏡のほうにカットを施してある
マルチリフレクター式。バルブは60/55Wのハロゲン。
明るさは、まあ平均的なもの。

収納スペース
シートの下は、ほぼ全面にわたって収納スペースとなっている。
容量は10.8P、長さ60cmのものまで収容可と実用性十分。
カッパも雑誌も余裕でOK。

オイルクーラー
水冷式さながらにオイルクーラーに電動ファンが設けられているのだが、
夏場回りっ放しになってバッテリー上がらないだろうな。
これもちょっと心配な点だ。

 

                  MB 2001.7月号