Kawasaki KSR110
エイプが独占していたクラスに、おもしろいバイクが切り込んで来た。
というよりも、復活した、と言うべきか。
KSRは元々は80cc(氓ェ50ccで、が80ccだった)の
2サイクルエンジンを搭載していたのだが、
排ガス対策の問題から、
ラインナップから外されたままになっていたのだ。
なので当然復活は4サイクルとして、である。
それも以前の80ccモデルに引けを取らないように、
110ccという排気量を引っ下げてだ。
ここで、
あれ? カワサキそんな排気量のエンジン持っていたっけ?
もしかしたら、最近スズキと提携したから
これはバーディーとかのエンジンを流用しているのかも?
と思う人もいることだろう。
だがこれはれっきとしたカワサキオリジナルのエンジンだ。
そう、キッズ用のコンペティションモデルである
KLX110のエンジンの流用なのである。
ではそのKLX110のエンジンはどこから来たものなのだろうか。
これが驚くほどルーツは古い。
ベースは溯ることなんと20年も前、
1983年に発売されたAV50となるのである。
更に言ってしまえば、
その前年にはこのエンジンのボアを拡大して80ccとした、
JOYAN80−A1という、発展途上国向けに発売していた、
カブそっくりのバイクもあったのだが、
とにかくそれはやがて排気量を増大され
タイカワサキのMAX100やチャーに搭載されるようになり、
熟成を重ね、更に現在KLX110に搭載されるものへと
進化していったわけだ。
エンジンはコイツに搭載されるにあたって、
そこから更にチューニングを受けている。
KLX用の6.3馬力/7000回転から8.5馬力/8500回転へと、
トルクも0.7kg-m/4500回転から、
0.83kg-m/6500回転へとアップされており、
加えてミッションも同じ自動遠心クラッチ方式ながら、
3速から4速へと1段増やされている。
これはエイプよりもパワーで1.4馬力、
トルクで0.12kg-m上回っている数字だ。
では実際に走らせたらどうなんだ?
さっそくインプレへと取り掛かろう。
まず跨がる。
すると、まるで原付きのスクーターのような小ささに改めて驚かされる。
これで110ccもあるってか! と誰もが思うことだろう。
ちなみにコイツのサイズはエイプよりもさらに
全長で45mm、全幅で65mm、
ホイールベースで25mmも小さくまとめられており、
唯一全高のみ25mm高いだけである。
次にキックペダルを踏み降ろす。
セルはない。キックのみだ。
意外とコンプレッションがあり、思ったほどはスカッと下がらない。
ここでもやはり「ああ、これは110ccなんだな」と思わされたりする。
で、ギアを入れるのだが・・・これが変則なこと極まりない。
一番下がニュートラルで、後は全部上にかき上て行くのである。
ちなみに、同様の変速システムを持つカブは、
全部下へと踏み込んで行くパターンで、
3回踏み込んでトップギアーの3速
(リトルカブはもう1段多い4速)になった後は、
そのままもう一度踏み込むとニユートラルに戻る
ロータリー式パターンが採用されているのだが、
これは新聞や出前の配達を行う人がトップギアーのまま停止しても
ワンアクションでニュートラルにして停止することができる・・・
という実用本位の考えから来ているものだ。
しかしこっちは何せ、
いかに子供用とはいえ元がレーサーのエンジンなので、
ニユートラルこそ出し易いように一番下に持って来たというものの、
パターンは通常のバイクのように全て上
(1速も上なので、ここだけちょっとちがうが)となっている。
だから、まずつま先を下に入れて、ガツッとかき上げる。
だがこの時点では「1速に入った」というだけで
まだクラッチは繋がっていない。
ここからつま先を元に戻した(下げた)時点で、
初めてクラッチは繋がる、
つまり発進可能な状態となるのである。
で、右手を捻るとそのままブォーッと走って行く。
さあ2速へとチェンジだ。
自動式だからといって、このときにそのまま、
またかき上げようとするといささかひどい目に遭う。
かき上げた時点でクラッチは切れるわけだから、
アクセルを戻しておかないとそのとたんに
「バァォーッ!」とエンジンは唸りまくることとなり、
仰天してつま先を戻した瞬間、
高回転のままガツンと繋がってフロントが跳ね上がる・・・
となってしまうのだ。
だから、アクセルを一度戻しそれからチェンジする。
以後はそれの繰り返し。
ではシフトダウンの時は?
これもアップと同様、踏んだ時点でギアはひとつ落ちるが、
足を離さない限りクラッチは繋がらない。
なので、踏んでいるときに空吹かししてやってから離せば、
ふつうのバイクのように
回転を合わせてシフトダウンすることも可能なのだ。
まあ分かりやすく言うならば、
上下どちら方向でも作動するクラッチペダルと、
チェンジペダルがいっしょになっていると思えばいいだろう。
ちなみにこの機構はカブもまったく同じなので
(カブの場合は)ギアーを1速に
入れ踏ん付けたまま回転を思いきり上げて足を離せば、
手動クラッチのバイクのレバーを突然離したのと同じく、
ポッコンとウイリーしたりする。
もちろんコイツの場合も同じだ。
しかしこの「足を離した時点でクラッチが突然繋がる」というのは、
バイクに初めて乗ったりしたような人には
この排気量(110cc)ともなると
実はかなり危険なことでもあるわけで、
ゆえに(ベースとなっている)子供用にと開発されたKSRは、
突然足を離すということが行われにくくなる
「ローから全部かき上げ」方式になっているのである。
以前のKSRの80と比べたら、
パワー感・加速間はどうなのだろうか?
久しく乗っていない(実はオレも持っていた)ので
正確なことは言えないが、
見た目はほとんど同じでもコンセプトがまったくちがう
(前のはスーパーバイカーズごっこに興ずるための
純然たるカッ飛びモデルだったが、今度のはそうではない)ので、
やはり以前の2ストモデルのほうがカッ飛び度は上だろう。
では、
現実のライバル? であるエイプと並んでヨーイドンしたら、
どっちが速いだろうか?
みんな興味津々の部分だろう。
ズバリ、出だしはエイプのほうが速い。
KSRは自動クラッチゆえに繋がる回転が
最初から決められているというか固定されてしまっている
(言い換えればベテランでも初心者でも差が着かない、
同じダッシュとなる)のに対し、 エイプのほうは手動式なので、
ブン回した状態でのクラッチミートが可能となるからだ。
この理由により、
エイプのほうが10cc少なくパワー的に不利なのにもかかわらず、
スタートした瞬間に2〜3車身ほどリードし、
振り向いて笑うことができる・・・のだが、
しかしそれは3速に入ったあたりまでの話となってしまう。
クラッチが完全に繋がり、よく伸びるワイドレシオのギアー
(エイプは5速なの に対しKSRは4速。
つまり1速あたりの守備範囲が広い)を
110ccの威力で引っ張り続けるKSRが、
グングンと追いついて来るのだ。
その後80km/h後半のあたりでエイプは頭打ちとなるが、
KSRはまだ若干の余裕がある。
このあたりのことを、もう少し正確に書いておくとしよう。
エイプが4速で引っ張り切ったあたりで、
KSRのほうは3速でほぼ吹け切っている。
この後、両車トップギアーに放り込まれるわけだが、
この後はどちらも非常に車速の増加が緩慢になるため、
よほどガラ空きの直線が続かない限り、
この『80km/hの大台』に乗せるのは難しい。
ちなみに、
どちらもこのレベルに達するには全くの平坦路の場合、
およそ600m〜700mほどの距離を必要とする 。
この後は下り坂ででもない限り両車共に車速の伸びは
更に緩慢なものとなる
(駆動するトルクが走行抵抗に負けて来始めるのだ)
が、若干でも下り勾配であったり、
強い追い風が吹いていたような場合ならば、
エイプは伏せればメーターの目盛りを完全に振り切った
推定100km/hの辺りまで出るが、
KSRのほうは伏せることなく105km/hのあたりまで出る。
プラス10ccの威力ここにあり、と言うべき部分であるが、
これは若干のアップダウンのあるバイパス路などで
エイプと通勤バトルをするような人にとっては、
実は大きな魅力となる部分なのではないだろうか。
しかし、だ。だからといって、
これだけで「エイプより速い」と直結して考えるのは間違いだ。
例えば街中だ。
信号ダッシュでエイプに先に出られる。
KSRは徐々に追いついて来る。
しかし、完全に追い越すに至るまでには、
何百mかを必要とするわけだ。
ずっと開けっ放しの状態でだ。
街中ではそれはまずめったにある状況ではない。
その途中で必ずアクセルのオン・オフがあるわけだ。
すると回転が落ちる。
そのときにはエイプはKSRよりも一段多い5速のミッションを
スパスパと使って常に最適なギア、
効果的なギアを選択することができ、
高回転状態を保っていられるので、
10ccマイナスの排気量のハンデを感じさせないような
走りを披露するのである。
作り手側、設計者の考え方として、基本的に次のふたつのものがある。
「パワーが限られているのだったら、ギアーの数を多くして
常に力のある高回転状態を保てるようにしてやろう」
というものと、
「若干パワーに余裕を持たせ低回転でも力があるようにすれば、
あまりチェンジしなくても済む」
というものである。
どちらも正論なのだ。
要はそいつに与えたキャラクター次第。
前者はエイプであり、後者がKSRなのだ。
モンキーの大改造車よろしくブン回してカッ飛ぶのがエイプなら、
こんなかっこをしていても実はカブのような楽チンさを持った通勤快速、
というのがKSRといったところか。
では〆として、コイツの他の部分での特徴を書いてみよう。
良い部分・悪い部分取り混ぜてだ。
まずブレーキ。
これはエイプより俄然効く。
なんせドラムブレーキ対油圧ディスク。
がしかし、
俄然効くといってもあくまでもエイプと比べればということであって、
最初に思っていたほどは効かなかったというのが正直な感想だ。
もっとも、ここまで車体が小さいと、あまり強力にしてしまうと
路面によってはケツが浮き上がって来るという
弊害も出て来るのだが・・・。
ハンドリング。
エイプはどこでも走れるキャラクターとされているため
タイヤもやや太めのブロックパターンとされているが、
コイツの場合は実質上オンロード専用に設計されているため
タイヤも細身で丸まっているので、
ヒラリヒラリ感はこちらのほうがずっと強い。
また足回りもフロントは倒立フォーク、
リアはスタピライザー付きスイングアームと
本格的な作りをしているので
多少荒れた路面でハイスピードのコーナーリングを決めても
剛性面での不満は一切なし。
コイツにカブのようなミッション付き・クラッチレスという
組み合わせはかなり意外なものだったが、
信号待ちで今にも流れ出すのを気にせずシールドをいじくったり、
左手でポケットを探ったりできるのは目からウロコものの便利さだった。
慣れてしまえばワインディングへと持ち込んでも
まるでふつうのオートバイと同じようにシフトアップ&ダウン
(空吹かしをしながら回転を合わせるレーシングシフトを含めての話だ!)
が出来る、というのも、これまた意外な面であると思う。
ただし、そのミッションはカブの場合は、
入った状態だとバックさせた場合かなりの引きずり感を伴うが、
コイツの場合は抵抗なくスッと下がってしまうので、
坂道に止めるときは絶対に頭を下にしなければならないので
かなり深刻に困った。
なにしろあのエイプより小さい上に、
マフラー等の出っ張りがほとんどないスリムなデザインなので、
街中の取り回しや渋滞路の擦り抜けは、50ccのスクーター並に無造作に行る。
ただし、その小ささが災いして、これはどうやっても2ケツするのは不可能、
自分で改造して二人乗り可能な変更登録を・・・
というおたのしみは絶望であると・・・!
では最後に、
このベビーダイナマイト・楽ちん通勤快速号の燃費について触れておこう。
おそらくコイツに目を付けているのは、
日常の足代わりとしては無論のこと、
毎日の通勤に使ってはどうかと考えている人間が多いと思うからだ。
そのテスト結果は、
国道を全開全開で103km飛ばしまくって2.84Pの消費。
P当たり36.26km。通勤時はおよそこれに近いものとなるだろう。
さらに、ここまで排気量があれば、
そんな人々はコイツをセカンドバイクとしてではなく
ファーストバイクとして所有するかもしれないぞと、
ツーリングを想定したテストを行ってみた。
その結果は
およそ3割ほどのワインディング部分を含め229.3km走って、
使ったのは5.31P。
つまりP当たり43.18kmである。
コイツのタンク容量はエイプの5.5Pを大きく凌ぐ7.3P。
つまり、ツーリングに使った場合なら
ちょっとぐらいブン回した走り方でも
無給油300km の大台に足を突っ込むのだ。
そう、僅か800円もあれば丸一日走っていられると!
後ろから迫って来るシフト音だけ聞けばカブ。
だがあれよあれよと言う間にブチ抜かれ・・・
そんな光景が増えることだろう。
キャプション
ホイール
前後のホイールは両車12インチと同じながら、
KSRのほうがひと回り細いタイヤを履いているので動きがクイック。
みなみにチューブレスだ。
シート
車体の大きさに比例してシートの面積も小さいので
長距離走るとケツがかなりこたえる。
キーで外れ、下にはMFバッテリーと工具が収まっている。
後部のナイロンベルトを掴めば軽いから簡単に持ち上げられる!
足回り
インナーチューブ径30mmの倒立フォークは剛性感十分なのだが、
ディスク(外径200mm)のほうはイメージしているように
ギュッとは効かない。
リアも同じく油圧ディスク(外径184mm)となっている。
エンジン
どこかのパーツメーカーがあと15ccアップさせるキットを
売り出した日には、この小っせえバイクが
堂々と高速道路をカッ飛ぶことも有り得る?!
ちなみに100km/hで走っても安定性には何の問題もなし!
メーター
メーターはホワイトパネル。
針以外は積算計とウインカーのインジケーターと
ニュートラルランプのみという超シンプルな作り。
表示文字がでかいのは、
老眼化した中年カッ飛び通勤ライダーへの配慮か。
MB 2003.2月号