Kawasaki LEO SE

 

 このバイクの存在自体は知っているのだが、
しかし、正式な車名を知らない・・・
というバイク乗りは、たいがいこう言うはずだ 。
「なんかカワサキに、カブみたいなかっこした変な
スポーツバイクがあるだろう。タイで作ってるやつが!」
 言い得て妙の感があるこのセリフは、
実際このバイクのすべてのポイントを突いている。
なぜか?

 以下はコイツの輸入総代理店となっている
月木レーシン グの広報担当のホリバさんとオレが、
最初に交わした会話だ。
「これ、なんでこんなカブみたいなフレーム形状してるんだ?」
「ああ 、結局のところね、カブがそうなっているからですよ」
「えっ? どういうこと?」
「向こうはほら、日本から中古のカブがものすごい数
入ってるわけですよ。バイクといったらもうそれは
イコール・カブちゅうぐらいに。だからこのカタチのほうが
向こうの人は親しみが持ちやすいみたいなんですよねえ、はは」
「チェンジペタルに踏み返しが付いてるけど、
これってもしかしてレーサーみたいにフルバンク中でも
シフトアップができるようにしてあるわけ?」
「いやあ、そうじゃないっスよ。
これも、カブのがそうなってるからつーだけですよ、はははは!」

 影響力とは、まさにこうこうことを言うのだと驚いた。
「でもカブとかいっても、そのくせステアリングダンパー
とか付いてるじゃん」
「向こう、道悪いですからねえ。そこ全開で飛ばしますからねえ!」
「ブレーキも、車体に対し てちぐはぐなくらい
でっけえのが付いてるよなあ」
「飛ばしますからねえ、みんな街中でもどこでも全開で!」

 お国柄とはこういうことを指す。
「そっか。でもスポーツ指向にしちゃあ、シートもでっけえよなあ」
「向こうの人、3人乗りなんて当たり前、
4ケツ5ケ ツとかだって平気でしますからねえ!」

 オレは昔、飛行機の乗り継ぎのために立ち寄ったこの国で見た、
『4人乗りした警官のバイクを
3人乗りの若者が嬌声を発しながらブチ抜いて行った光景』
を思い出し笑い始めていた。
そう、コイツはタイ人が発想した
(もちろん設計はカワサキだが)
カブのような車体に2サイクルの125cc、それもチャンバー
(の外観をしているマフラーではなく、これは本当にチャンバーで
消音はテールに装着されている月木製のサイレンサーのみで
おこなっている)
でパワーアップされたエンジンを搭載する、
過激な過激な小型スポーツバイクなのである。
 これに類似するものは現在皆無。
まさにオリジナル性の塊と言えよう。

 で、実際乗ってみてどうだったか?
これが滅法速くて、おもしろい、おもしろい!
現在の2サイクルを取り巻く社会情勢や市場からして、
今のオレたちの国ではこんなバイクは到底作ることは
できないだろう。
だが昔は90cc〜125ccクラスでこんな感じのバイクが
いくらでもあったものだ。
オレはそれらを乗り回してよく遊んだ遊んだ。
(なにがおもしろかったかって? それはとにかく圧倒的に
取り回しが良く、どこでも全開にできたという点だ)

 オレはでかいバイクの他にも、
初期型と型のDT2台をまだ持っているし
ランツァも乗り回しているが、
これはオフで乗るためという大きな理由はあるが、
あのときの滅法小気味良い感覚が忘れられない、
という理由も間違いなくある。
 だがその2ストのオフ車連中も、その長い足が災いして、
コイツのようにはコーナーは決まらない。
コイツは間違いなくピンクナンバーでは
絶対最速の地位どころか、
峠に行ったら250ccクラスのレプリカと
充分渡り合えるほどに速い。

 いくらパワーがあろうが、リッターバイクは
このスーパーコマネズミのような動きの素早さには
とても太刀打ちできないだろうし、
仮に400ccクラスだとしても、
もし腕が五分だったら食らいつかれたら最後、
引き離すのは命懸けの仕事となるかもしれないだろう。
それほど、この車体の小ささと軽さ 、
2サイクル125ccの威力には絶大なものがある。

 メーター上部に表示されるシフトインジケーターで
自分が変速していることの実感を掴みながら
6速まで掻き上げて行き、パンパン! と落とし、
ばかでかいローターの威力を発揮させているうちに、
きっとみんな
(お お、バイクってやっぱおもしれえ!)
と思い、そして
(俺ってもしかしたらバイクの運転うまくなったのか?)
と俄に思い始めるにちがいない。

 惜しむらくは、ピンクナンバーゆえに
高速道路に乗れないということだ。
最高速はメーター読みで160km程度まで
(実速でもおそらく130kmちょっとぐらいまでは出ると思う)
コイツは簡単に出るし、
またそこに到達するまでもカッタルさというものがない
( それどころかパーン! パァア〜ン! と引っ張って
行くのが実に小気味良いので逆に楽しいぐらいだ)
ので「高速には乗れない」という感覚が、
はっきり言ってまるで沸いて来ない。
そのため、オレは何度も首都高を自然に目指している
自分に気が付き、箱根に向かうことを考え
東名に乗れないことに気が付き、
そのたびに(あっ、だめなんじゃん・・・!)
とガックリしたものである。
 逆に言えば、それだけこいつの走りは
(車体の大きさからは考えられないほどという意味で)
余裕があるということなのだ。

 もうひとつ、コイツには特筆すべきことがある。
それは、ちょっと人通りの多いところを走ると
すぐに注目の的になるということだ。
 なにしろ、日本では絶対台数 が少ない
(まだ20台ちょっとぐらいしか出回っていないらしい。
そもそもコイツの存在自体、ふつうの若者はまったく
知らないのだ! )ので、
信号待ちしてりゃあクルマからジロジロ見られる、
歩道に止めたら止めたで
「これなんっスか? カワサキの新型ですか!」
と質問攻めに合う。

 でかいバイクの場合それは憧憬の眼差しであるが、
コイツの場合は見るからに
「これなら自分にでも即手が出せそうだ!」という
具体的な好奇心の眼差しを伴ってみんな見る。
そして、そんな連中は必ずこう続ける。
「これ、いくらなんですか?! 」
オレは答える、25万9千円だと。
値段を聞いてまた驚く。
そりゃそうだ、

 これは(車格が近い)例えばKSR80やストマジの110
(どちらも10馬力しかない)と比べ僅か1万円高でしかなく、
ほぼ同等の22馬力を発生するKDX125SRと比較するなら8万円、
DT125Rとならなんと9万円も安いのだから。
類似するものなしで、目立つ。

 軽量・コンパクトで、低重心。
 ハイパワーで、速い。そして・・・安い!

 なんでこういうバイクがもっと売れないんだろうか。
 オレには不思議でならないぜ。




キャプション
エンジン
ハイスピードでの突進状態でも車体を安定させるため、
ステアリングダンパーが装着されている。もちろん重さは可変式。
パイプフレームからブラ下がる2サイクル120ccエンジンは
シンプルな空冷方式で、専用設計だ。ミッションは6速。

マフラー
日本仕様には月木製のスペシャルサイレンサーが
装着されているのだが、音質はパァン! パァン! という、
まんま2サイクルレーサーの刺激的なそれ。

ブレーキ
17インチのホイールに290mmという、過剰なほどに
大径のディスクローターを採用。まるでレーサーだ。
もちろん効きは十二分。ちな みにリヤは220mm。

タンク
カブと同様のフレーム構成のため、シート下にはスペースは
まったくなし。同様の理由からガソリンタンクの容量も
僅か4.36Pと極端に少ない。ガス食うんだけどな。

メーター
写真では分からないが、スピードメーター上部に6つ並んだ
シフトインジケーターがあり、順次点灯していく。
これって見てると、けっこうその気になってくるものだ。

 

             MB 2000.8月号