YAMAHA MAJESTY125/150/Kawasaki EPISILON150
最近、いろいろな年代の人間から、
このクラスのスクーターについて「どうなんだ?」と尋ねられる。
10代から40代、50代まで、その年齢幅は実に広い。
理由はハッキリしている。
「大き過ぎず小さ過ぎず、安くて手頃な乗り物」であるから、
つまり日常の足に絶好なので食指がそそられるのだと。
例えばの話。
オレの弟が「日常の足代わりに」とアクシスの90を買った。
これが小さいのに実に良く走るので、
オレも欲しくなったのだが、やっぱり2ケツする
(気軽に乗れるものだから、これが意外と多いのだ!)
と力不足を感じるし、どうにも車体が小さすぎて窮屈だ。
なのでひとまわり大きなグランドアクシスを買ったのだが、
それでもやっぱり2ケツしたときや大きな荷物を積んだりしたときには
絶対的にシート上のスペースが足りなく、
運転する人間はかなり不自然な格好で前の方に寄って
座らなければならないので、もうちょっとだけ大きければなあ、
と思ってしまうことが少なからずある。
しかし250ccクラスになると一気に柄がでかくなってしまい、
それまでのようにヒョイと引っ張り出して気軽に駐車して・・・
というわけにはいかなくなってきてしまうし、
また一気に値段も高くなってしまう・・・。
そう突き詰めて行くと、
自ずと今回取り上げたあたりの大きさというのが、
実に魅力的に見えて来るものなのだ。
そこで今回のストアタは、そんな「潜在的隠れファン」のために
この対称的な2台を取り上げてみたのだが、マジェスティのほうは
台湾ヤマハから逆輸入車として販売されているもので、
先日発表された
『インジェクション仕様(排気ガス対策による変更)』
となる前のモデルであるということを最初に断っておこう。
またエプシロンは、スズキのアヴェニス150のOEM、
つまり業務提携による同製品のカワサキブランドである、
ということも付け加えておく。
ではさっそくインプレに取り掛かろう。
まずはマジェスティの125から行こう。
4ストのたった125ccなんて・・・と思う人も多いだろうが、
これが意外なほど走る走る!
人間おもしろいもので、これが125ccの「オートバイ」となると、
なんだ、パワー感ないなあ、
125なんてやっぱこんなものだよなとなるのだが、
スクーターとなると
最初から速いとか加速がだとかを期待していないため、
「ほう、良く走るじゃないか」と受け止めてしまうのである。
これは感覚的なものが大きい話?
いや実際の面においても、
スクーターは最初からクラッチミートの達人であり、
また最高の自動変速者であるということを忘れてはならない。
クラッチ付きの125ccのオートバイであるならば、
信号待ちでのスタートから一般車の前を行くような走りをするには、
毎回毎回かなりの高回転域での絶妙なクラッチミートと
頻繁なギアチェンジが必要となって来るが、
コイツらはそれを常に最高の状態で自動処理してくれる
=125ccの力を最高効率で引き出してくれるため、
排気量からイメージされるものよりも、
ずっと良く走ってくれるのである。
(50ccのスクーターの意外なほどの信号ダッシュに
驚かされる人も多いと思うが、その理由もまさにこれだ)
ゆえに、もしコイツに乗ったとしたらかなりの人たちが
「へぇ、125でもこんなに走るんだ」
という印象を持つに違いないだろう。
「私はそんなに飛ばしません、
一般車の流れに乗り法定速を度守って走るタイプですよ」
という人ならば、冗談抜きでこれは日本一周のツーリングにだって
十分に使えるほど(仮に2ケツでだとしてもだ!)
良く走ると書いておこう。
では、この「たった125cc」の4ストスクーターは、
どのくらいまでスピードが出るものなのだろうか?
気になる人も多いことだろう。
開けっ放しにして行くと
上り坂で110km/hちょっと、
下り坂で130km/hちょっと
というのがその答えだ。これだけ出れば十分だろう。
なにしろコイツの場合は
自動車専用道路とか高速道路には乗れないのだから。
では乗り心地その他はどうなのだろうか?
ポジション的にはまるでアメリカンだ。
ただしステップではなくボードなので足は好きな位置に投げ出せる。
それにシートもケツを包むバケットシートのようになっているし、
また柔らかいので座り心地は極めて良い。
このシートのおかげで、
小径タイヤとあまり上等なサスを装備していない
(フロントはあまりストローク量がないし、
リヤはエンジンごと上下するという典型的なスクーターの足回りだ)
にも拘わらず、結果的に乗り心地もふつうのオートバイより
遥かに良いものとなっている。
(例えば、圧倒的に長くてソフトなサスを持つオフ車でも、
シートが狭くて固いためにあまり乗り心地が良いと感じる人は
少ないハズだ。
このように大面積でソフトに体重を支えるシートというのは、
実質的に「乗り心地」と感じる部分の大半を締めてしまうのである。
これは長時間乗れば乗るほど印象される部分であるゆえに、
ツアラーと称されるオートバイはみな例外なく
大面積のシートが採用されているのである)
それで・・・ブレーキがまたコイツのは良く効くのである。
ここだけはスポーツバイク、
それも限りなくレプリカに近い印象のものと
想像してもらってもいいだろう。
パワー・加速力には不釣り合いなほど効くし、
また車体がグッと低い→腰高感ゼロでヒョイと曲がって行けるぞ
という感覚があるため、コーナーを攻め込むと、剛性感に乏しい車体
(エンジンのマウント部分の作りが貧弱なことがそり主な理由だ)は、
結構グラグラとヨレるが、これは使い方を間違ったと乗り手の側が
解釈しなければならない部分となるだろう。
では次にエプシロンだ。
乗り比べるチャンスに恵まれた人は、
同じスクーターといってもここまでマジェと作りが違うのか、
と驚かされることだろう。
マジェは250ccから始まる今の本格的
(という表現が適切なのかどうかは分からないが)
スクーターがみなそうであるように、
着座位置の低いローフォルムなのに対し、
コイツは、まんま
「ふつうのスクーターをひと回り半ほどでかくした」
だけのものなのだ。
言ってみればマジェが250ccの縮小版なのに対し、
こっちは50ccクラスや100ccクラスの拡大版、
といった作りなのである。
全体のプロポーションがそのままででかくなっているだけなので、
足着き性も、車格からイメージされるほど良くはない。
ということは、腰高感があるということにもなるのだが、
しかし、だ。おもしろいことにコイツのほうが
マジェよりもコーナーは気持ち良く決まるのだ。
ペタッと寝てフッと曲がって行く。
そしてフレームもしっかりしていて、グラついたり全然しない。
そういう意味で言えばこちらのほうが遥かにスポーティー?
なのであるが、世の中往々にして「ただし」が付くことがある。
この場合もそうだ。
このように「ペタッと寝てフッと曲がる」ということは、
直進性が無いということでもあるのだ。
いや、正しく言うならば、
真っすぐ走ることを主目的に考えているか、
チョコマカ、キビキビを主目的に考えているかという、
作り手側の意図の問題であると言えようか。
例えばレーサーレプリカとアメリカンを比べたら、
どちらが手を離していても安心していられるか、
どちらが曲がろうとする乗り手の意志に即答するか、
自ずと想像はつくと思うが、それと同じことなのだ。
コイツの場合は作りそのものが
街乗りでの状況第一優先
(50ccのスクーターがそうであるように、特にフロント部分に
収納スペースを設けるわけでもなく、長時間の走行には効果を
発揮するウインドスクリーンを備えているわけでもない、
というところからもそれは分かることだ)
とされているので、このような特性にしておいたほうが
使い勝手はむしろ良いのかも知れない。
なので、コーナーはヒラヒラと決まるし安定もしているが、
ブレーキはさほど強力なものが与えられているわけではない、
ということも知っておくべきだ。
では加速力と最高速はどうなのだろうか?
マジェよりも25ccでかいので、信号待ちからヨーイドンすると、
最初の出だしの部分でススッと5〜6m差を付けることができる。
その後もほんの少しずつではあるが差を開いては行くのだが、
最高速は若干下り勾配でも120km/hぐらいがいいとこ、
向かい風を食らうと110km/hぐらいまで落ちる、
と思ったほどは出ない。
ここにも「街中キビキビ」のコンセプトが現れているようだ。
しかし、だ。
そうは言ってもコイツの場合は
「高速に乗れる」という部分を見逃すことはできない。
これはこの2台の間にある決定的な相違部分であり、
また絶大なメリットと感じざるを得ない部分だ。
ちょっと遠出をしたり、急いでいるときなどに
「高速に乗れるか乗れないか」ということは、
実際に使い回してみると想像以上のものがある。
というか、マジェのほうは乗れば乗るほど
「なんでオレはこのまま高速に乗っちゃけいねぇんだ?」
という思いが強まって強まって仕方がなくなって来る。
125のマジェだって、実際には高速を何の問題もなく
クルージングできるだけの性能はあるのである。
でもとにかく、乗っちゃダメだと。
それは例えば
「お前のは以前の規格の
550ccの軽自動車だから高速走っちゃだめ」
と言われているような理不尽さを、
出掛けるたびに感じさせられるものだ。
どこの阿呆がこんな規制の首根っこを押さえて
いるのだか知らんが、
しかし現状の法律がこうである以上、
これは仕方がないと諦めるしかない。
するとそのたびに、
俄然このエプシロンの150ccという排気量が
魅力的なものとなって来るのである。
ちなみに、
実際に高速を走ってみた際に感じた事を書いておくと、
先に書いた通り出ても120km/h程度なので、
追い越し車線は無論のこと
真ん中の車線でもちょっと気が引けるかなという感じ、
しかもそんな最高速状態では
「こ、このまま走り続けていても本当に平気なのだろうか?」
と不安になるほどエンジンは唸りまくるし、
またカウルはデザイン上の飾りにしか過ぎず、
風圧もまともに食らい続けるので、
いくら高速に乗れるからといって、
これで高速を使って長距離を・・・
と考えるのはちょっとやめたほうが良いだろうが、
それでも90km/h〜せいぜい100km/hぐらいまでのスピードであれば、
すこぶる快適なので、
「近道をする」あるいは「混雑した部分を走りたくない」
という考え方においてでの高速道路使用であるならば、
計り知れないほどのメリットを
もたらせてくれるのは間違いない部分である。
さて、ここで飛び道具の登場だ。
しかるに、マジェの150があったらこりゃ最高なんだけどな・・・
と思っていたら、それがあった。
今回テストで使ったマジェは
YSP川崎中央さんの試乗車をお借りしたものなのだが、
そんな話をしたら社長が「これの150、うちにありますよ」 と。
聞けば125に150のシリンダー/ピストンを組んだものだという。
その手のものは社外のボアアップキットを組んだものが多いので
耐久性に疑問があるため「へぇー」と聞き流すつもりだったのであるが、
次のセリフでまた、たちまち食指を動かされた。
「ヨーロッパ向けのヤマハ純正の150ccのシリンダーと
ピストンを使っていますので、そのまんまです」
つまり形式的には「後組」したものだが、
ヨーロッパ向けに販売されている車両とまるで同じものに
仕上がっているのだと。
それならば是非とも乗せてくれと
さっそく試乗車を飛ばしてみたのだが、
これが目からウロコもの、
なんでヤマハはこれを国内モデルとして
発売しないのかと思うほど良く走る!
乗った車両はブレーキからエンジンハンガー、スタピライザー、
マフラー、プーリーにエアクリーナー、ハンドルその他と
パーツ代だけでおよそ40万円ほどになるという
特別仕様のカスタム車だった
(ブレーキはノーマルの比ではないぐらいにバカ効きするし、
強化エンジンハンガーのおかげで10mも走れば分かるほど
車体剛性は高くなっている)
ので、公平な比較とはならないが、
さっそくエプシロンと信号ダッシュごっこをやらかしたら、
こっちのほうが出足が良い。
これは主としてプーリーを替えているせいかと思ったら、
「いや実はですね、街中で使うぶんだったら全体の
マッチングの問題から、ただ単に150のシリンダーを
組み込んだだけのやつのほうが、加速は良いんですよ」
という答えが返って来た。
ちなみにこの単に150にしただけの車両
(もちろん正規に150cc登録されたものだ)は、
車両代329000円(ここの125の販売価格)
+部品代59000円+工賃30000円の、
418000円が150仕様の販売価格となっているのだが、
現在はキャンペーン期間中なので
車両価格+50000円追加のみの、
379000円で販売しているのだそうだ。
興味のある 人は
YSP川崎中央044-755-1141まで直接お問い合わせを。
さあ困ったものだ。
乗り心地良し収納良し、
しかも125だからこその税金等維持費の安さに魅力を感じるのだと、
マジェスティ125にそそられるか。
それともキビキビ走りコーナーもズバッと決まる、
そしてなんと言っても高速に乗れるという大メリットを持つ
エプシロンにそそられるか。
それとも・・・ここに飛び入りしたマジェスティ150のように
「ふつうそれ売ってないぞ!」というような奥の手に魅力を感じるか。
ちょっとばかり悩む選択だろう。
キャプション
マジェスティ
シルエットそのものからも分かる通り、これはまんま250マジェの縮小版。
ゆえに足着き性は超抜群だし、座り心地も天下一品、
加えてスクリーンの防風効果も確実に体感できるレベルのものがある。
このあたりの快適性についてはハッキリ言ってエプシロンの比ではないので、
長時間乗る人、長距離乗る人には
排気量の差を差し引いてもこちらのほうがお薦めだ。
でも高速乗れないんだよなこれが。
エプシロン
こうやって比べると一目瞭然。
コイツはまんま「でっかい50ccのスクーター」という体型。
いちおうスクリーンのようなものはあるが、
これはあくまでもデザイン上のもので実際の防風効果はゼロ。
またメーター類は異様に低い位置にあるので、
慣れるまではかなりの違和感を持つ。
しかし、まあなんのかんの言ってもフリーウェイ無き今においては、
コイツが「小型」のシティースクーターの大将であると言えるだろう。
マジェスティ・エプシロン
両車のコンセプトの違いが如実に現れている部分だ。
ケツには主に人を乗せるのか。
それとも荷物を載せるのか。
見た目そのまんま、使い勝手にもろに現れます。
マジェスティ
マジェには万一の事を考えキックペダルも取り付けられている。
構造的に押し掛けが不可能のスクーターにとっては安心装備と言えるが、
逆に言えばバッテリーに自信がない?
エプシロン
エプシロンはカウル(というかメーターバイザー)が極端に低いため、
真正面から見ると実際の大きさよりもずっと低く、また小さく見える。
横から見る印象とは大違いの部分だ。頭を下げた牛というところか。
マジェスティ・エプシロン
このように比較するとケツから見てもエプシロンはマジェよりも小さく見えるが、
実物を見ると印象的にはほとんど変わらないどころかむしろ大きく見えてしまう。
ちなみにマジェのバックレスト付きのグラブバーは実用性非常に高し。
エプシロン
ボリュームあるシート回りの印象とは裏腹に、
そう思ったほどは容量がないのが意外な部分。
と言ってもXLサイズのフルヘルは入るのだが。
キャリアは思い切りゴツイし、
シートとツライチなので大型BOXでもドンと来いだ。
バイク便向けか?
マジェスティ
エプシロンが縦深のスペースなのに対し、
こちらは横方向にも若干スペースが確保されているので、
カバンとかを入れる際には俄然都合が良い作りとなっている。
深絞りのずん胴ナベ対平底の大ナベといったところか。
エプシロン
フロント回りには、えっなんで、と思うほど収納スペースは無し。
あるのはコンビニフックだけだ。
また、ウインドスクリーンも無いので料金所で外したグローブは
ちんこの下にでも挟むしかない。カギ穴はシャッター付き。
エプシロン
まあ、効かないわけではないのだけど・・・
マジェのと比べてしまうと、
効きもタッチもかなり負けていると感じてしまうブレーキ。
現状ならばWにしてタメ線といったところか。
マジェスティ
やっぱりここに収納スペースがあると便利便利。
もちろんキーロック付き。
またこうしたカウルがあると、防風効果以外にも、
隙間に地図とかを突っ込んでおけるのという、
些細だが旅人には実にありがたい隠れメリットもある。
マジェスティ
効〜く効くこのブレーキ。
ツーッとかジワッとかは無縁の世界、
ガツン! と効いてくれるのだよ。
これなら2ケツしていても安心して飛ばせるね。
例え高速道路だとしてもね。
でも走れない んだねコイツは。
まそのぐらい効くちゅうことで。
MB 2003.1月号