CAGIVA V-RAPTOR1000

 

 コイツを初めて見たのは去年のモーターショーのときのことだった。
ブースの前を通りかかったオレは、? と思って後戻りした。
説明版の数字に誤植を見つけたからである。
(あはは、1000だってよ・・・)
どう見ても400、ヘタしたら250なのに・・・。

 ところが。間違っていたのはオレのほうだった。
なんとコイツは
そんなサイズの車体に1000ccのエンジンを搭載していたのである!
正体は、スズキのTL1000のエンジンを搭載した、
カジバのラプトールというオートバイだった・・・。

 とにかくコンパクトに仕上げられているオートバイだ。
特にシート高が低い。
コイツにはネイキッドふうの「ラプトール」と
フェアリングとテールカバーの取り付けられた「Vラプトール」とがあり
今回はVのほうを試乗したのだが、シート高は785mmしかない。
(カタログ上では『V』はノーマルのラプトールより
20mm高い数値が記載されている。
また最低地上高・ホイールベースにも若干の相違があるが、
実際にはモデル間に差異はなく、
同様の数値だとカジバ・ジャパンは表明している。
ただしイタリアからの情報によると
02モデルからは変更されているらしい、
しかし現車がまだ入荷していないので未確認である、ということだ)
加えてV型エンジンを搭載しているものだから
実質単気筒と同じ程度のシート幅しかなく、
そのために足着き性は
1000ccという車格からは考えられないほどに良い。
スズキのSV400と大差ないと思って良いだろう。

 とにかくV型
(L型と呼ばれる場合もあるが、90度のVを前に傾けて搭載すると、
見た目の関係でLと呼ばれるだけだ)
エンジンを搭載したリッタークラスのスポーツバイク・・・
ドゥカの一連のモデルを始め、TL1000やVTR1000等と比べてみると、
コイツのコンパクトさ、足着き性の良さは際立っている。
 またこのように着座位置がグッと低いということは、
相対的にハンドル位置を高めにしているのと同様の結果となっており、
見た目の印象ほど前のめりにはならず、
長時間の走行においても首が疲れることはない。

 車体を構成するあらゆるユニットの中で、
エンジンは別格の扱いを受けるものだ。
いかなるフレームよりも、いかなる足回りよりも、
ゼロから作り上げるのが困難なものだからだ。
その観点から見ると、
カジバがTLのエンジンをそのまま搭載している、
というのは実に現実的な選択であると言えよう。
性能・信頼性は当初からお墨付きなのに加え
それならば無用な開発コストも掛からない。
(そう、ビューエルと同じような手法だ)
128万円という、
国産の逆車と大差ないプライスで販売できるのも、
この部分が大きいハズだ。

 だが・・・この部分を逆手に取り、
こう考えたらどうなるだろうか?
「TL1000を買い、エンジン以外、フレームから足回りから
すべてオリジナルの大改造を施してやる・・・」

 例えばだ。この手のスポーツVツインマニアがいて、
そんなことを企んだとしよう。
そしてメーカー並の技術レベルを持っている
超一流ショップに見積もりを出してもらう・・・。
おそらく、ワンオフならば500万円以上掛かることを覚悟しろ、
と言われることだろう。
ならばと、苦心して有志を10人つのり、10台まとめて頼むからと。
しかしそれでもホイールからフォークからタンクを
すべてゼロから作り上げたら・・・と考えると、
1台あたりせいぜい100万円程 度のコストダウンにしかならないだろう。
そこには更にすごい問題が絡む。

 作るのは、それでもたったの10個!

 そう、10個などと言ったら
バイクメーカーでは試作の前段階の見本のような数量であり、
耐久テストや衝撃テスト等で
消え去ってしまうような数量なのである・・・。

「個人でこちらからオーダーした物」の
これはやむを得ない宿命ともいえるものなのだが、
メーカーに近い技術力を持つ超一流ショップが
「コンプリートマシン」と称して送り出しているものの多くは、
このような問題を解決しているからこそ、
値の張るものとなっているのである。

 そう考えると、コイツはカジバという完全なる
「大資本を持つメーカー」が自社の技術力持って製作してくれた、
そして「保証」まで付けて送り出してくれた、
超カスタムバイクと言ってもいいのではないか?
とオレは思っている。
ありがたいことに、それも国産車の逆車と同レベルの値段でだ。
このあたりの部分が、コイツに入り込むまず第一歩と
なって来るのではないだろうか?

 では、実際に乗ったらどうなんだ? ということに入ろう。
まずはエンジンだ。
先にも書いたが基本的にはスズキのTL1000のエンジンであるが、
街中での乗り易さを優先するためとの理由から、
トップエンドのパワーを若干削り、
その見返りとして中低速域でのより力強さを手に入れている。
ちなみに、このように変更を受けているのと、
イタリアでの馬力規制等の問題も絡み、
カジバ側ではパワー/トルク共に公表していない。
実際乗ってみても、
確かに上でドカンと来るような加速はしないものの、
下から上まで谷間なくきれいに回る特性を持ち、
またピックアップも良いので
街中やワインディングではTLよりこちらのほうが気持ち良く、
そして楽に立ち上がって行くことができる。

 ただし、問題点が無いわけではない。
これはベースとなっているTLそのものについても言えることなのだが、
このように基本的にスポーツ指向に振られたエンジンというのは、
素早く回転が上昇し、戻したときも素早く回転が落ちる・・・
という方向で製作されるものであり、
これは主にフライホイールを小さく・軽くすることにより行われている。
で、コイツは1000ccの2気筒、つまり1発あたり500ccもあるわけだ。
するとトロトロ走りで極低速域まで回転が落ちたときには
フライホイール/クランクシャフトに回転エネルギーを蓄積しておけず、
圧縮工程で負けてしまう場合が出て来る・・・
その結果バスン! と止まってしまうことが
たまにだがある・・・というわけだ。

 なのでUターンするときなどで周りの状況的に
「本来ならあまり吹かして 回りたくない」ような場合でも、
途中でバスン! とこられては適わないから、
ちょっと吹かし気味にして、
半クラッチも意外と多用していたということも書いておこう。

 コイツの最も得意とするステージは、
当然ながら中低速域を多用するワインディングだ。
車重が210kgと見た目より意外と重いのだが、
着座位置が低く腰高感がないから、
大きな移動量を伴わないでバンクさせ切り返えせる。
しかも、コンパクトゆえに肘、膝、上体で
タンク部分を鷲掴みしたようなポジションとなるため、
車体との密着度というか、
一体感が実に強く感じられるので不安感がない。

 小さな車体に1000ccのエンジン。
またトップエンドは削ってある・・・。
こう書かれると、高速域での安定性や、
全開時の面白味に欠けるのではないか?
と思う人もいるだろうが、ところがどっこい、
コイツは高速道路でもその真価を失うことはない。

 とある場所を飛ばしているときのことだった。
四輪車のBMWが斜め後ろにずっと張り付いているのに気が付いた。
一度前に出させてエンブレムを見たら赤と青の斜めストライプ・・・。
なんだ、ひとつ前の型ではあるが、
BMWの小型スーパーセダン・M3か、 どうりで速いと思ったら!

 180km/h近くまでの守備を受け持つ3速でしばらく絡みあった。
相手はこの速いコンパクトバイクが何なのか
確かめようとするかのように、かなり接近して顔を振る。
いくつかコーナーを一緒に回るうち、でかいコーナーが現れた。
イン側の足をガバッとおっ広げ−−つまりハング・オンだ。
これは深くバンクさせることなく更に遠心力に対抗できる
というメリット以外にも、
「開いた内側の足が受ける空気抵抗により車体を内側に捩ってくれる」
というような副次的効果も見いだせる−−
これは余程の速度でないと起こらないことなのだが、
このときはその「余程の速度」だったため、
遠慮なくそのメリットを頂戴した。

 1発掻き上げて4速の全開。
イン側に張り付くようにして回って行くM3の外側を、
ラプトールは猛然と突き進んで行く。

 車内を覗き込むと、助手席の女の子が、
微動だにしないで前を凝視する彼氏? だか何だか分からないが、
とにかく運転していた男に何やら喚き散らしていた。
それはそうだ。
こんな途方もない スピードでコーナーリングされては!
根性尽きたか、女の子にひっぱたかれたかしたのだろう、
それ以上の速度の増加を諦めたM3を、
コイツはどんどんとミラーの中に豆粒化して行く。
そんな速度域でも、車体はビシッと安定したままだ。

 また、繰り返すが
「車体を鷲掴みにできる」ということの乗り手側の効果と、
それによって受ける心理的な安心感も、そこには大いに
加算されるべきだろう。
ただし。
このようにフラットな路面を突進し続けているような
状況下においてはコイツの車体はなんともないが、
ワインディング等で
−−例えば100km/h+αくらいからのコーナー進入時での大減速等−−
においては、フロント回りの捩れを感じ取る場合がある。
まあ、だからと言って実害はなにもないし、
また、裏を返せばそれだけブレーキが強力な制動力を発揮している、
ということにもなるので、
どうでもいいことと言えば、どうでもいいことなのだが・・・。

 またコイツのマフラーは、その外観からしていかにも良い音
−−例えばドゥカのように−−がしそうなのだが、
実際は拍子抜けするほど「ふつうの音」だ。
このあたりはやはりメーカー製の車両としては、
どうにもならない部分なのだろう。

 とにかく、コイツは
V型搭載の大排気量スポーツバイクとしては、
現時点では間違いなく世界一コンパクトで足着き性が良く、
すべてに渡って乗り易いオートバイであるだろう。

 たまには峠に走りに行くが、
現実的には街中での使用が大半だ、という人には、
目からウロコものの車両となるハズだ。
そして・・・このように乗り易い車両ほど、
乗り手の技量を引き出してくれるので、
結果として「速いオートバイ」となることをお忘れなく。


 今回の総括として最後に書かせてもらうと、
コイツはワインディングでは無論最高に楽しめたが、
それ以上に車庫からの引き出しや近所でのチョイ乗りのときなどに、
「はぁ〜、なんて楽チンなのだろう・・・
なんて無造作に取り回せるのだろう・・・・」
ということのほうが、オレは印象に強く残っている。

 ちなみに、ラプトールとはイタリア語で
「猛禽類」という意味だそうだ。
頭に付くVは、V型のV。
この造形から 映画ジュラシックパークでお馴染みの
「ベロキラプトル」を連想していたが、
遠からず近からずというところか。

 いずれにしろ、この猛禽類は乗り手に極めて優しいぞ!

 

 

キャプション
エンジン
基本的にはスズキのTL1000のものをそのまま流用しているが、
吸排気系統の変更によりブン回したときのパンチ力を殺いだ→
その代わり街中で多用するであろう中低速域でのパワーは逆に増大させた、
という実用的なチューニングを受けている。
実際、ツーリングレベルでの立ち上がりはTLよりかなり強力になっている。

ブレーキ
298mm径のWディスク(カジバではツインディスクと呼んでいる)は、
210kgの車体を制動するに十分以上の能力を持つ。
2本掛けでロック近くまで効かせることができるタッチ自体も良い。
リアは220mm径のシングルだ。

マフラー
スペース的に苦しい後方シリンダーからのエキパイ取り回しは、
前シリンダーと同じ長さを稼ぐために一度前方向に持って来てから、
まるで折り畳むようにしてターンさせている。
どう考えても排気効率は良くなさそうなのだが、
中低速重視型なので問題はなしか?

フォーク
Fフォークは43mmの径を持つ見るからに剛性の高そうな倒立タイプ。
この太さで前輪からの入力を受け止めるため、
ハイスピードでのコーナー進入時に大減速をかますと
ステアリングヘッド付近の剛性が負け、
一瞬車体がヘロるほどだ。サスのストロークは120mm。

タンデム
獰猛な生き物の歯を連想させるこのタンデムステップ部分や、
フェアリングからタンクへと繋がる、 角を思わせるデザイン処理など、
随所に「猛禽類」のイメージが取り入れられている。
機能とは何の関係もない遊び的な部分ではあるが、
こんなところがイタリア的?

メーター
メーターはデジタルだが、
メインの表示はスピードと距離のみというごくシンプルなもの。
切り替えでもトリップと水温が出るのみ。
上を跨ぐ角のようなブリッジはタンクバック置き場に絶好なのだが・・・
残念なことにメーターはまったく見えなくなってしまう!

ステップ
センターは無し、サイドスタンドのみなのだが、
これが出してもほとんど外側に出っ張らないために、
止めたときには実に不安にかられる。
若干でも勾配がある部分では、特に風の強い日などは
バイクから離れるのがちょっと心配になるほどだ。


最近の純正バイクにはブッ飛んだデザインのものも多いが、
コイツのフロント回りの造形は、ほとんどカスタムバイクのノリだ。
特にフェアリングをツノのようなステーで支えているところなど、
あのカタナ以来の斬新さと言ってもいいだろう。

後ろ姿
テールカウル上の三角木馬のようなちっこいシートは、単なる飾り。
このカウルは本来のシートの上に数本のネジにより
スッポリと被せられているだけで、
外すとノーマルラプトールのシートとなる。
騒音対策のためか、マフラーはかなりでかい。

 

                  MB 2002.8月号