HONDA SILVERWING 600/400  

 

 コイツを最初に見たときの印象は、まず「でけぇ!」だった。
実際、柄は大型のリッターバイクほどもある・・・
というより、こっちのほうがでかく見えてしまうぐらいなのだが、
車重のほうも負けてはいない。
なんと乾燥でも215kg・・・
ガス等満タンにした装備重量では236kg! にも達するのである。
(しかもこれは600のみならず、400でもまったく同様の数値なのだ。
400のスクーターが236kg! これはすごい重さだと思わないか?!)
だが、走り出してしまえばそんなことはすぐに忘れてしまう。

 今回のインプレは、本命である600のほうをメインに
書かせてもらうが、コイツの場合なにしろパワーがあるので、
でっかかろうが重かろうが、
そんなことには関係なくブゥォォォ〜!  とぶっ飛んで行くのだ。
加速に関して言えば、あのT-MAXより確実に速い。
いや、加速だけではなく、最高速だってすごい。

 長距離楽チン仕様の権化のようなコイツは、
とにかく長く乗ってみなければその真価が分からないだろうと
(今回オレはこの600のほうだけで700km以上、
400のほうは300kmちょっと・・・
つまり2台合わせれば1000km以上も走り回った!)
伊豆までのロングアタックを企んだ。

 朝早く、とあるところを飛ばしているときのことだった。
ZRX1100がスッと追い抜いて行ったので、
オレは面白半分に追従して行った。
気が付いたZRXはグングンとペースを上げて行くのだが、
コイツはタメ張って食らい付いて行く。
140、150、160・・・。
それに気が付いたZRXは更にペースを上げるが、
こっちにもまだ余裕がある。
165・・・170・・・さすがに加速は頭打ちし、
メーター読みではあるが、173km/h前後のところで、
とうとうそれ以上伸びなくなった。
しかし・・・
ZRXの方もリミッターが働き、同じく頭打ちを始めたのだ!

 ちなみにZRXの国内仕様のリミッターは、
180チョイのところを針が通過するとコイルがそれを感知し・・・
というものなのだが、
逆車のメーターに付け替えれば免れられるかというと
そうは甘くなく、メーターの中の感知コイルを移植しないと
イグナイターが正常に作動しないという些か面倒なものなので、
ここまでやって解除している人というのは滅多にいない。
というのはこの際どうでもいいのだが、
とにかく
『オートマチックのスクーターに対し、たかが10km/h程度の
優位を保った時点』
で、それは終わってしまったのである。

 10km/hなどと言ったら、前車に追いついてちょっとでも
アクセルを戻したら、すぐに低下してしまうような速度である。
ということは・・・すぐにまたコイツに背後に張り着かれる。
・・・つまり事実上、
ほとんどタメを張られた状態が続いてしまったのである。
料金所が近づいて来たために減速したときのそいつの顔!
横に並んだコイツをチラリと見て、
すぐに顔を前に戻したときの、そいつの、目ぇ!
「・・・ってあれ、スクーターじゃねぇかおい!
カンベンしてくれよな〜・・・」
というような、あの目ぇ!
(なんだよこれ。やみちくりよなあ・・・)と、
無言で訴えていた。
まあ確かに、逆の立場だったらこりゃたまらない。

 という具合に、コイツはスクーターにあるまじきほど速い。
ブレーキも、それに見合った十分に効くものが装備されている。
特に左は前後連動
(リヤと同時に、フロントの3つあるポットのうち、
1つだけを効かせている)
なのでその気になった大減速のときは、
まずは取り敢えずこちら側を『無造作にガッ!』と
握り締めておいてから右側、つまりフロントの方を
必要に応じて締め上げて行くだけでいい。
阿呆のように飛ばしていても、
これでスポーツバイクのように減速することが可能だ。

 ただし、だ。だからと、言ってコイツが
「まったくもってスポーツバイクのように走る」
というわけではないということも、ここで明記しておこう。
いま書いたのはあくまでも「外乱を受けない状態での話」なのだ。

 どういうことか?
フレームが捩れるのである。それも、かなり露骨に。
どんなに頑丈に作ろうと
結局のところオートバイのような背骨を持っていない
・・・つまりママチャリのような形状で
フレームが構成されているという現実と、
リヤの足回りを最終的に車体と連結しているのは
エンジンブロックであり、そのエンジンブロックは
振動対策のためゴムを挟んで車体に止められている・・・
ために、これは些か無理な相談なのだが。

 渋滞路をトロトロと走っているようなときでも、
ハンドルをブルブルと左右に強く振ってみれば
この『絶対剛性』の無さは誰にでもすぐに分かることだろう。
前カゴにお米とかビールをたくさん積んだときの感じ・・・
と表現すれば分かってもらえるだろうか?
例えば駐車場から歩道を横切って
小回りするような感じで道路へと出るような場合には、
このグラグラ感を如実に感じる。
渋滞路でワダチでフラつくのを修正しようとしたときにも
これは感じる。
コーナーリングの途中で進路を変えようとしたような場合にも、
同じくだ。

「スポーツスクーター」
と銘打たれているT-MAXは、こうはならない。
このことを見越して
側面にぶっ太いサイドメンバーを取り付けるなどして、
限りなくふつうのオートバイと同等の剛性感が得られるような
構成がとられているからだ。
ただし、そのためにシート高も
大型バイク並に高くなってしまっているのだが。

 このあたりの問題は
『狙いをどこに持って来たのか』ということで大きく違って来る。
「スポーツバイクのように走るスクーター」
を狙って作ったのか、
「楽チンの極め付けを狙った大型スクーター」なのか、でだ。

 コイツの場合は明らかに後者なのだ。
そのためにT-MAXとは大違いの、
まるで250cc並の足着き性の良さを手に入れているわけなのだが、
このあたりの問題に関して文句をタレるというのは、
まるで、
車内が広くて、サスもソフトで乗り心地が良くて・・・
という家族旅行向けには絶好だと作ったワンボックスカーを、
超高速で走らせたり、
ワインディングに持ち込んで「ハンドリングが」と
ぶつくさ言っているようなものだとオレは思っている。

 快適性と言えば、ここでひとつおもしろい話を書こう。
ふつうは前から風を食らって、
後ろに押されるというのが、二輪車の常識だ。
だから、飛ばせば飛ばすほど辛くなる。
ところが、コイツの場合はその逆で「前に押される」のだ!
そう、スクリーンがでかいからその内側で大きな負圧が発生し、
吸い寄せられるのである。
100km/hも出ていればこれはもう完璧に感じられる。
先のZRXとジャレたようなスピード域であるならば、
若干ではあるが、
なんと腕を突っ張っていなければならないほどなので、ある!

 まあ、言わば
「速度感応式自動引っ張られ空気シーシーバー」のような
これは生来の楽チンさにさらに輪を掛けるような
ありがたい部分なのであるが、
しかし・・・その反面、
負圧で吸われる→写真を見れば良く分かるだろうが、
背中がペタッと張り付き、
腹が・・・ジャンパーの腹が、バッコン!
と景気よく膨らむのだ。

 なので、コイツで高速をカッ飛ばすときは、なるべくなら
堅くてゴッツい革ジャンを着ていたほうがいいと思う。

 でだ。もうひとつ。
この大型シールドは、多少の雨なら平気でブロックしてくれるのだが、
上の縁に掛かる部分の視界が屈折してしまい、
ほとんど凸凹のないふつうの一般路を走っていても、
マンホールのフタが見えたり見えなかったり、
擦り抜けのときに実際の感覚と若干ではあるが狂いが生じるのに
イライラさせられた、というのはまだいいが、
山中でちょっと近道しようと思い、 舗装していないFR
(ファイアー・ロード、林道のシャレた和訳)
つまり 林道に入ったときには、 レは本当にびっくら仰天した。
このように色彩の相違や凹凸が激しい部分だと、
その屈折部分が目の前に
「実際には無い盛り上がり」として飛び込んで来るのだ。
シールドを通して見なければいいかって?
確かにそうだ。
だが、荒れた部分であればあるほど、
ハンドルを取られないように手前を確認しようとする。
すると、そのときには必ずこの縁を見なければならなく
なってしまうのだ!

 もちろん、このような趣旨の乗り物だから、
そんなところへ乗り入れなければ良いのだが、
しかし、荒れ地にさしかかった場合は、
これは免れられないことなので、
河原に乗り入れ・・・だとか原っぱに、とかいう場合には、
それなりの覚悟が必要だ、ということだ。
二言目には「関係ねぇよ」を連発するオレが
「こりゃあたまらん!」とサジを投げたのだから、
これはよほどのことだと思っておいてもらいたい。

 荒れ地を走ってみて分かったことがもうひとつ。
コイツはスクーターとしては初の、
エンジンと駆動部分を独立させた足回りを備えているのであるが、
確かにこれは効いている。
他の機種、
例えばストマジのオフロード仕様とかT−MAXにしても、
リアの足回りは「エンジンごと」全部いっしょになって
上下するので、ちょっとでも凸凹したところを走ると、
やはりドタバタしてしまうのだ。
当然、これは乗り心地に大きく影響するが、
コイツの場合はそれがほとんどふつうのオートバイレベル
にまで到達している。
フロントはサスのストローク自体は
120mmとかなりあるもののタイヤの絶対径が小さいゆえに、
やはりまだ多少はガツガツ来る部分もあるが、
しかしタンデムの人にとっては
これは大いなるメリットとなるであろう。

 ここらで400のほうについても
ちょっと触れておくことにしよう。
実は、当初400と600を借りるとき、
ホンダサイドではあまり良い顔をしていなかった。
「乗り比べられてしまうと400の立場がない」
というのがその理由である。
なにしろ、値段がいっしょ! なのだ。
しかし。
それでも敢えて書いておきたいことがある。
確かに600は圧倒的にパワーはある。
あるが、400のほうだって
「でもこれだって、400ccもあるのだ」
ということを忘れてはならない。

 街中で250のスクーターの出足を小癪に思っている人間は
決して少なくないと思うが、その400版である。
でも、重いだろうがって?
ではこう考えたらどうだ?
「250に2ケツしてる状態です。
でもエンジンは、悪いけどこっち400までボアアップしてます」
実際、コイツの400は150km/h程度は簡単に出てしまう。

 さらに重要なことがある。
実は600は振動がかなりでかいうえに、
音もガーゴーと、けっこううるさいのだ。
これは400から乗り換えると如実に感じる。
逆に言うなら、
600から400に乗り換えると
「なんて滑らかに回り、静かに走るのだろうか!」 と
ある種感動すら覚えるほどだ。
なので、400は400で、気に入る人間は必ずいると思う。

 よって、もしこのシルバーウィングに食指が動いた人は、
必ず両方に試乗させてもらうべきだ。
中型免許しかないよ、という人でも
このように実用的な面では400のほうが絶対的に有利な部分
(音・振動ともディーゼルとガソリンのような差があるのだぞ!)
もあるので、買っても損はないと思うのだが。

 


キャプション
ブレーキ
256mm径のディスク? 小いせぇ?
しかしテコの原理(正しくは輪軸という)、
タイヤが14インチと小径なので相対的に
これはばかでかいローターと同じ効果をもたらす。
236kg+α α、十二分に殺します

マフラー
マフラーの容量が足りないのだろうか、スクーター→静かな乗り物、
という図式はコイツの600の場合は成り立たっていないと思うべし。
下に見える部分はエンジンから独立したスイングアーム。
このおかげで乗り心地は飛躍的に向上!

エンジン
400には点火時期&燃料噴射料を変える『Tモード』と呼ばれる、
ターボのようなスイッチが左のホルダーに装備されている。
上り坂とかでは確かに有効だが、
正直言って一般路では、あまりその効果は分からなかったな。

フロント収納スペース
ガタイがでかいので、左右の物入れもでかい。
ワンプッシュで開く、こりゃ便利だと600のときに右のほうに
料金所用の小銭を入れておいたら振動でジージーうるさいので、
結局服のポケットへ。左はロック付きで、カッパも入る大きさだ。

シート下収納スペース
55Pあるという、フルヘル2個楽勝
+薄手のジャケット+トレーナー2枚ぐらい
簡単に入りそうなシート下スペースは超便利。
事実上、もうデイバッグは必要ないだろう。
なにしろ、それ自体がスッポリと入って、まだ余るのだから・・・!

タンデムステップ
オートバイのようにガバッと開くタンデムステップは
踏ん張りが効いて実用性は非常に高いのだが・・・
ただでさえ広い車体の外側にさらに、これでもか! と張り出すので、
スリ抜け時には、とてつもない厄介者となることも覚悟すべし

パーキングブレーキ
ギアーを入れっぱでのロックができないスクーターでは
必需品のパーキングブレーキは、右パネルの下にある。
ロックも解除も軽い操作のワンタッチ。
坂道の途中にある料金所用等では、
この操作性の良さは特に実感できる部分となるだろう。

 

                     MB 2002.6月号