Kawasaki Super SHERPA
「高速道路での全開ごっこなどはやらない。
でかくて重たいのもごめんだ。
いつでもどこでも、思ったときに
ヒョイとUターンできるようなバイクが俺はいいぜ。
そう、小さくて、軽いやつだ。
それも車検のない250ccクラスがいい。
できればサスがよくて乗り心地 も良いやつで、
道も選ばないで走れるようなやつ・・・」
「とにかく気軽に乗りたい。
何も考えずにヒョイと引っ張り出し、
ヒョイと飛び乗り、ヒョイと気ままに出掛けて行く。
こういうのがいんだ。
こういう乗り方使い方がいいんだ! 俺は、な」
バイクというものに対して、
こんな見方や考え方をしている奴も少なくはないハズだ。
そして、この手の会話がなされると
決まって出てくるのが、セローの名前だ。
なぜXRやDR、KLX、それにジェベルやKLEではなく、
セローなのか?
その答えは簡単だ。
現車を見れば一目瞭然なようにセローは
「圧倒的にコンパクト」であるのに加え、
そのエンジン特性は、
歩くようなスピードで森の中を散策する“トレ ッキング"を
主題として設定されているので、
低速域で粘り強く実に乗り易いからである。
だが、だ。
実は・・・このスーパーシェルパは、
そのセローをも凌ぐほどの乗り易さを持ち、
なおかつ性能的にも一歩も二歩も上回る実力を持っているという、
実に良くできたバイクなのであるということを知っているだろうか?
なにしろセローとほぼ同サイズ
(全長で10mm小さくホイールベースで10mm大きいだけ、
シート高も810mmで同一と、ほとんど変わ らない)にも拘わらず、
コイツはセローの225ccと違い、
250ccフルサイズのエンジンを搭載しているのである。
この25ccの差が生み出す相違は
セローの20馬力/1.9kgに対し、26馬力/2.4kgと、
乗ればすぐに分かるほど露骨に感じられるものとなる。
さらに、だ。
現在このクラスのオフ車の最小回転半径は
どれもみな2.3mと横並び状態で均整が取られているのであるが、
トレッキング を目的とされているセローは1.9mと、
頭ひとつ出た少なさを誇っている。
ところがコイツはさらにハンドルが切れ(左右51も切れる!)、
なんと1.8mという、DT50(!)とタメ線を張るほど小ささなのだ。
つまり回しても良し、粘らせても良し、足を付かせ ても良し、
ゴソゴソとUターンさせても良しと、
すべての面であのセローを上回っている言っていいほどの、
実用的この上ない作り込みがなされているのである。
これが乗り手を満足させない分けがない。
今回は、ちょっと趣向を変えて富士山目指し、
コイツのストア タをかましてみた。
ちなみにシェルパとは、登山用の荷物を請け負う
山岳荷揚げ人夫のことである。
日本語で言うなら『強力』だ。
いかにもカワサキらしい、男っぽいネーミングではないか。
さあどうだ、強力は。
まず、最高に気に入った点から書いて行こう。
「パス ンと来ない」答えはまずこれだ。
ゆっくりとターンしようとしたときなどに、
つまり極低回転時において
エンジンがパスンと止まってしまう・・・
ということがまったくないのだ。
オフ車というものは『低速が強い』というのが
世間的な認識のようだが、
実はアイドリング付近まで落ち込んだような
土壇場の低回転域では意外に粘らない
(これは単気筒ゆえの問題点でもあるが、
特に毎回キッチリと圧縮をしている4サイクルエンジンでは
この傾向が強く出る。
そのため小刻みに吹かし込んでやるとか、
半クラッチを用いるとかしてパスンを阻止するのが
常套手段となる)
もので、足場の悪いところでターンしようとして
このパスンを不意に食らい、
バタッとぶっ倒してしまう奴も少なくない。
ところが、コイツはそれがまったくないのだ。
粘って粘って粘りまくるため、
なんと歩くようなスピードでの、
片手を離したままのターンすら可能なのである!
この特性はありがたいことこの上ない。
なにしろこんなことができるのであれば、
ケモノ道に分け入ろうが住宅街の超狭い路地に入り込もうが、
タイヤが潜るほどの砂利道でのターンだろうが、
上り坂でのそれだろうが、
なんの苦労も恐怖もなく、
ものの無造作に自分のやりたいことができるからだ。
この粘り強さには、ギア比も手を貸している。
ローギアは低速走行用にギア比を低く構え、
2速3速4速は通常のFRを走るのに適したものに、
さらに5速と6速は街中や高速道路の移動用にと
分散させてあるのだ。
したがってギア比が低くされているといっても
一般道や高速道路でも困ることはまったくない。
ちなみにトップの6速で開けっぱにすると、
若干の上り勾配のところでおよそ115km/h、
平坦地で同120km/h前後、
下り勾配ならおよそ130km/hのあたりまで車速は伸びるので、
高速を含めたツーリングにも充分対応することが可能だ。
付け加えておくと燃費(撮影が続き計測できなかったため
これは翌日一人でぶらっと三浦半島を一周して出したもので、
条件は平日の早朝発で基本的に渋滞なし、
全工程中約半分 は高速を使用したときの参考例であるが、
きちんとエアを抜いた自分給油なので正確さは保証付だ)は
195.7km走って6.51P 、
つまり辛うじてではあるが、30.06km/Pと、
30km/Pの大台に乗るほどに良い。
約200km走って、1日遊んでガス代たったの700円。
回さないでも走る特性や車体が軽い
(111kgとセローの106kgに対し5kg重いだけだ)
ということのメリットももちろんあるが、
さすが燃費では定評のある4ストの250cc!
と改めて感じさせられた部分だった。
では、足回りに関してはどうなのだろうか?
サスのストローク(カタログなどに『ホイールトラベル』
と記載されているのは、これはフロントの場合は
サスのストロークと共に車軸もそのまま動くのに対し、
リアはスイングアームを介しているために、
根元付近にあるサス自体のストローク量と
末端付近に位置する車軸とでは移動量する量が異なるため、
ストロークという言い方では表せないためだ。
それを了承の上、ここでは同義語と解釈してくれ)は、
フロントは220mm、リアは170mmである。
レプリカタイプの本格的なオフ車から比べれば、
およそ7割方の数値であるが、そもそも今のオフ車は
ナンバー付きのオートバイとしては過剰なほど、
というより不必要なほどの長さ
(レースのようなスピードで大きなギャップにモロに
突っ込んだり、モトクロスコースに乗り入れて大ジャンプを
かましたりしない限り、そんな超長いストロークをすべて
有効に使い切るなどということはまずない)
を売りにしている部分もあるので、
7割もあってくれればコイツには
(そしていかに荒れている山道であろうと所詮一般公道では)
充分なものなのだ。
実際かなりのスピードでFR(ファイアーロード・林道 の和訳)
を駆け巡っても、コイツは何の破綻も起こさない。
強力は、オレを担いでいろいろなところを駆け巡った。
街中の路地から 大通りへ、高速道路へ。
ワインディングへ。
そして山の懐深くへと分け入り、
砂利道を走り、木立の森を走り、ケモノ道を走った。
常に唸ることなく、静かに。
乗っているこっちは気楽なことこの上ない。
頭の中は安心感に満たされているからだ。
(なにかあっても足 がべったりと着く)
(仮に傾いたとしても、よほどのことが無い限り
片方の足の筋肉だけで、充分に支えられる)
そしてこう続く。
( そもそも、エンストなんかまず起こさないのだ)と!
こんな良いバイクなのに、なんで大ヒットしないのだろう。
でかいのだけが、 カワサキじゃないぜ。
キャプション
Fブレーキ回り
フロントサスは初期は柔らかく、
沈むに従って固くなるという特性を持つ。
ブレーキは240mmと大径なものに
2ポットキャリパーの 組み合わせ。効くぜ。
Rブレーキ回り
Rサスは2ケツでの沈み込み対処のために、
バネの固さとダンパーの調整が簡単に行えるタイプ。
ブレーキは210mm径+ピンスライドキャリパーを装着。
メーター周辺
液晶式のデジタルメーターは通常の積算計の他に
ツイントリップと時計付きなので、途中からの距離計測OK
いちいち袖を捲らなくとも済むと便利便利。
マフラー
森の中を分け入るという性格のため、
マフラーの消音性は高い。
これは深夜の住宅街に乗り入れるような場合でも
実にありがたく感じる部分だ。
Uターン
ほぼアイドリングに近い状態で、
まったくクラッチに触れることなく
Uターンが可能なほどエンジンは粘る。
舗装路なら2速でも回れてしまう。
女の人ならヒィーヒィー泣いて喜ぶ特性だ。
エンジン
26馬力&最大トルク2.4kg-mのスペックは
従来のものと同一だが、2000年モデルからは
排ガスの再燃焼を促進させるKCAと
有害物質を低減させるパイプ触媒が装着されており、
また騒音自体もさらに低減されている。
MB 2000.12月号