YAMAHA T-MAX

 

 まず、現物を目の当たりにしたときの印象は
「でけえ!」これに尽きる。
これ以上のボリューム感を持つオートバイなどいくらでもあるが、
「スクーター」という頭で捉えているもので、
ことさらでかく感じてしまうのだ。
実際、シート高も795mmとスクーターにあるまじきほど高い。
795mmといったら、ゼファーの1100と同じであり、
CB1300と比べても、まだ5mm高い数値なのだ。

 ちなみに現在販売されている既存の国産スクーターの中で、
排気量的にも柄的にも最大のものは、
スカイウェイブの400であるが、
アレのシート高は695mmだ。
つまり、完全なる「外人サイズ」なのである。
国内発売するときにはシートを薄くするなどして、
これはもう少し下げられるかも知れないが、
仮に30mm下げられたところで、それでもまだ765mm、
Vmaxと同等なのである。

 シートの幅もガバッとあるので、
その丸い形状といい足着き性の具合といい、
跨がったときの感じはVmaxと
ほとんど同じようなものだと思っていればいいだろう。

 ただしだ。
かように大柄であっても、タンクがないので、
ガキが 無理やりママチャリに乗るようにして
「シートの前へケツを落としてしまう」という手口が使えるので、
どんなに小柄な人でも取り敢えず・・・いや絶対に足は踵まで接地する。
そのときの姿が些かカッチョ悪いのと、
給油口のカバーに尾底骨が当たって痛い、
というふたつの点を除くならばの話だが。

 跨がって、サイドスタンドを払おうとつま先に力を入れると、
最初から二人乗りしているかのような、ズッシリとした重さを感じる。
なにしろ乾燥で197kgという、
これまたスクーターにあるまじきほどの重さがあるのだ。
14P入るガスを満タンにしたら、およそ210kg近くにもなるのである。
(ちなみに、カメラマンの楠堂亜希・推定158cm普段の愛車RZ250は、
ふつうに跨がった状態では、このシートの高さと車重のせいで、
何度も反動を付けないと起こすことが出来なかったほどだ)

 ところが・・・!
このVmaxを丸めて団子にしたようなサイズのスクーターは、
ひとたび走り出すとその大きさも重さも、
まったくどこかへとフッ飛んで行ってしまう。

 操縦性がまるっきりふつうのオートバイといっしょの感覚なのに加え、
構造上、重心がオートバイよりもメチャクチャに低いものだから、
200kgを越えているハズの車重は数字上のみの話となる。
ヒラリヒラリと動き回れるのだ!
それで、速ぇ!
今まではやれマジェスティがどうの、フォルツァがどうの、
いやいや、所詮スカイウェイブの400の敵ではないと・・・
ところがなんせ、コイツには
「250のエンジンが2丁掛け」されているのだ。
これはもう、完全にふつうのロードモデルとタメを張れる速さだ!

 例えばの話、梨本圭あたりにコイツで箱根を飛ばされたら、
あなたが素人であるならば、
およそ何に乗って来ようがチギられてしまうことだろう。
これはちょっとホメ過ぎか?
いやいや、実際やったら、恐らくそうなるハズだ。
それほど、コイツの持っている走行性能は高いものがある。
オートマチックの、スクーターであるにも拘わらず、だ。

 400ccクラスのバイクと信号待ちでの
ゼロヨンごっこをやったとしても、
相手は、突然エンジンを唸らせる、高回転でクラッチを繋ぐ、
その後も半クラッチを続ける、
笑い話のように素早くアクセルを戻しササッとチェンジし、
また加速を続ける・・・というように、
否応無しに一連の
「勝とうと思ってやっていること」を周囲にバラさないと、
恐らくコイツに勝つことは難しいだろう。

 対して、こちらがする事は、
アクセルを捻るという事のみなのだ。
いかなる事前アクションもなし。
停止時そのままの状態で、
何食わぬ顔をして右手を捻ってやるだけ。
それだけで、ほとんどの場合は先行することができてしまう。

 マジェスティでさえ、発進加速は十分に良い。
アレに、エンジン をボアアップとかするのではなく、
景気よくそっくりもうひとつ追加搭載してしまい、
それに見合うように車体や足回り等すべてを強化してやる・・・
そう考えたら、
この走りの良さ加速の良さはイメージが沸き易いことだろう。
ただし、加速感自体はあくまでもマイルドなものだ。
ちょうどクラウンやセルシオが、
まったく実感を伴わないでそこらのスポーティーカーを
千切っている、というのに似ているかも知れない。
とにかく80km/h、100km/hなどには
アッと言う間に到達してしまう。

 ついでに言っておくと、そのあたりまで車速が上がると、
大型のスクリーンによるそれまでの無風状態から、
服が前の方に引っ張られるようになるのを感じ始める。
この特性を利用し
「ジャンパーが背中に張り付き始めたら」
それを速度警告灯変わりに利用してオレは走り回っていた。
(ちなみに最高速は160km/hも出る!)

 こう書いて来ると、良いところばかりの次世代の乗り物のようだが、
ではここからは欠点を指摘して行くとしよう。

 大きな部分はふたつある。それはまず第一に
「意外なほどにエンジン音がうるさい」ということだ。
250のマジェスティがあれだけ静かなのだから、
倍もの排気量があれば、
同じスピードで走っている分には格段に回転数が下げられ、
更に静かになってしかるべきなのでは?
誰でもこう 考えることだろう。
だが、これが大ちがいなのだ。
40〜50km/hという、街中でも低いレベルのスピ ードの時点で、
すでにエンジンは予想以上の音量で唸っている。
感覚的に言うならば
6速あるバイクの4速で走っているかのような印象を受けるほど、
そのときの回転数は高めとなっているのだ。
もっとも、500ccもあるくせに
このように高い回転を維持するセッティングにしてあるからこそ、
ことさら加速も良くなっているわけなのだが、
いずれにせよ、
この騒音の問題で国内規制をクリアーすることができず、
回転数をどう制御するかマフラーをどう対策するかと、
ヤマハでは頭を痛めているらしい。

 次に、コイツは今までのスクーターの定番である
エンジン/スイングアーム一体方式のユニットから、
ふつうのオートバイと同じように別体式の、
独立したスイングアーム方式とされたため、
乗り心地も格段に進歩した・・・ということになっているのだが、
これが額面通りには受け取れない。
ふつうの道を走っている分には
「おおっこれは乗り心地が良い!」などと思ってしまうが、
ちょっと荒れた路面、つまり舗装してない砂利道などを走ってみると、
やはりリアの足回りがドタドタして、車体が踊ってしまうのだ。
サス自体は前後共に120mmという、
完全にロードモデル並の十分なストロークを持つ。
しかし、いかに14インチという、
スクーターとしては大径タイヤを装着しようと、
所詮はたかだか14インチのサイズであり、
 また「別体式のスイングアームにした」とは言うものの、
あまりにもガッシリと作られたその重量のため、
特にリアは思ったより素直に上下に動いてはくれないのだ。

 いずれにせよ、これはもうスクーターのごとき形状をした、
ロードスポーツバイクであると言えよう。
強いて言うならば、
ここまでコーナーが攻められるのであれば、荷重を制御するために、
足をケツの真下まで後退させられるスペースがあると良かったのだが・・・。
 まあそれでもとにかく楽チンで速い、
という事実に変わりはない。

 峠も飛ばせる、
 2ケツも最高。
 最後の手段を使えば誰でも絶対に踵が接地する?!

 大型あるなら、こりゃ買いだ。

 



キャプション
フロント回り
スクーターでは大径となる14インチホイールを前後に採用。
フロントのデスィク板は有効径252.6mm。
ホイールトラベルは120mmと十分に確保されている。

リア左サイド
従来の「エンジンもろとも動く」という方式とちがい、
独立したスイングアームを採用。
が、見よ、このゴツさを! 重くしちゃあ、せっかくのメリットも半減だ。

リア回り&マフラー
マフラーの容量自体は十分にあるのだが、回転自体が常に高めなので、
吐き出される音はけっこうでかい。
国内仕様は対策が施されること間違いない部分だ。

リアサス
リアサスは従来のスクターとはちがい、
エンジンの下に「伸びる側で効く」タイプのものが
水平に取り付けられている。これでホイールトラベルは120mmを確保。

メーター回り
メーターパネルはもうほとんど自動車といっしょのデザイン&充実装備。
燃料計の見やすさなどはクルマ以上のものがある。
Vベルトの摩耗警告灯まで備わっている!

ガソリン給油口
ガソリンタンクの容量は14P。
ちなみにこのシート先端のカバー部分までケツをズラせば
チャリンコ乗りができるが、
プラスチックなので尾底骨がけっこう痛い。

シート下収納
シート下の収納スペースはフルフェイス1個
もしくはB4サイズのケースが収納できる33Pの容量を確保。
Fライダー用のバックレトは35mmの幅で前後調整が可能。



              MB 2001.5月号