TRIUMPH BONNEVILLE
トライアンフというと
オレは映画「大脱走」をすぐに思い浮かべてしまう。
スティーブ・マックィーン扮するヒルツ少佐がドイツ兵からぶん取り、
鉄条網を飛び越えるという有名なシーンに使用されたオートバイ、
それがトライアンフの650だった。
が、印象は強烈なものがあったものの、
実際の馴染みはまったくと言っていいほどなかった。
恐らくほとんどのバイク乗りにとっても、
この「馴染みがない」という点に対しては、
似たようなものがあるのではないだろうか。
ゆえに、何だこれW650のパクリか? などと
思ってしまう人もいるかもしれない。
だが、事実は限りなく逆なのだ。
現在のW650は、遥か昔にあったW1の復活バージョンである。
そしてそのW1は、
トライアンフの650を手本として造られたオートバイである、
というのが定説となっているからである。
35年以上も前の、外国に追いつけ、追い越せで
必死になっていた頃の時代の話だ。
(ちなみに、のちにホンダがCB450を発表したときに、
宗一郎さんは「外国製の650ccに対抗するには、
我が社の技術を持ってすれば450ccで十分である」
という名台詞を残したが、その対抗目標にされた650ccこそ、
トライアンフだったのである。
それほど世界的に、高性能車の代名詞となっていたのだった)
その後トライアンフは、
パワーを出すのには不利な2気筒モデルを廃止し、
3気筒と4気筒のモデルのみを生産するようになった。
ところが、新型W650の海外での評価の高さに刺激され、
そのトライアンフが「やっぱ2気筒も作るわ」と、
また2気筒モデルの生産を始めたのだから世の中おもしろい。
もちろん、すべては新設計である。
では、トライアンフにとってはおそらくシャクに触るであろう
(現代人には「ああ、あのWみたいな新型だろ?」
と言われてしまうのだ!)
W650とは具体的にどのような相違があるのだろうか。
まずエンジンから行こう。
空冷並列2気筒・DOHC4バルブ(WはSOHC2バルブ)
排気量790cc(以前の2気筒モデルは650cc。
これは現在のW650の実排気量675ccより115ccも大きいものとなる)
62馬力/7400回転
(Wより12馬力大きい出力を、400回転高いところで出している)
6.1kg-m/3500回転
(Wより0.4kg-m大きなトルクを2000回転低いところで発生させている)
次は車体寸法だ。
全長2250mm(70mm長い)
全幅860mm(45mm狭い)
全高1105mm(35mm低い)
ホイールベース1493mm(33mm長い)
シート高775mm(25mm低い)
乾燥重量205kg(10kg重い)
タンク容量16P(1P多い)
F19インチ・R17インチ(リアのみWより1インチ小さい)
とまあ、主なところはこんなものだ。
では、実際に乗った場合はどうか?
さっそくインプレにとりかかろう。
始動はセルのみだ。キックはない。
エンジンはちょっと長めのクランキングののち、
バッバッバッと目覚めた。
チョンと押せばすぐに掛かる、というわけではないが
始動性に問題はまったくない。
同じくアイドリングも、すぐに安定するというわけではないが、
これもチョークを引いてちょっと暖機させてやればすぐに落ち着く。
キャブトンタイプのマフラーから吐き出される排気音は、
拍子抜けするほど静かだ。
昔はトライアンフといえば キャブトン、
キャブトンといえばトライアンフ・・・もしくはW1、
というほどイメージの合致したものであり、
またこのキャブトンタイプのマフラーというものは
歯切れのいい大きな音を出すので有名だったのだが、
考えてみりゃあ現代の騒音規制をクリアしなければ
新車として販売できないのだから、
これは当たり前といえば当たり前の話だ。
つまり、あのトライアンフの2気筒でキャブトンもそのままで、
しかも排気量もでかくなっていて・・・
などと想像した中高年のバイク乗りは、
マフラーを交換することを真っ先に考えなければならないだろう。
そのエンジンはブオォーーと吹け、ブ〜〜ン・・・と回転が落ちる。
つまり国産のツインのスポーツタイプのようにはツイては来ない。
まあ、アメリカンモデルの吹け具合を思い浮かべればいいだろう。
クラッチは同クラスのそこらの国産車より軽いかもしれない。
車体サイズはほとんどWと同じくらいだし、
シート高はWより低くしかもシート先端とタンク後端の部分、
つまり股ぐらのところが極端にスリムでスッカスカのため
足着き性は極めて良いのだが、
チェンジペダルとブレーキペダルの操作位置は、
外人サイズにステップから離れている。
平底なら足全体を前にズラせば問題は解決するが、
26cm以下のサイズで踵のあるブーツとかだった場合は、
ちょっと違和感があることだろう。
(ついでに言えば、グリップもアチラ得意の
中央が盛り上がった樽型のぶっ太いものが着いているので、
これも違和感がある)
それにしても乗りやすいこと乗りやすいこと!
800ccのキャパを持った2気筒エンジンは
完全に低速重視の設計で作られているため確かに軽快さはない。
が、軽快さなどは、このキャラクターには必要ないのだ。
ごく低い回転数から強力かつフラットなトルクを発生させ、
2気筒特有の路面を蹴飛ばしながら突き進むような特性。
それが絶好に合致しているのだ。
この特性と力強さ、そして真っ当極まりないポジションのお陰で、
コーナーリングも実に無造作にかませられる
→こりゃあ、おもしろいや! となる。
回さないと力が出なかったり、回すと今度は出過ぎたり、
ということがなければ、それこそ何も考えず、
ブレーキングとライン取りだけに専念できるからだ。
そのブレーキがまた良く効く。
随分出来が良いなと思って調べたら、ニッシン製が装着されていた。
そればかりではない。
キャブはケイヒン、プラグもNGK、サスもカヤバ、
そして電装系はすべてデンソーと、
メイドイン・ジャパンが多用されているのだ。
したがって、全体の信頼性は
「昔のボンネビル」とは比較にならないほど向上されている。
テストコースを全開でブッ飛ばすと、
トップギアーの5速目で180km/hを超えるには超えるが、
コイツにとっては150km/hはすでに猛スピードの範疇に入る。
100km/hあたりまでは振動もなく、風圧も対して食らわないが
それを超えるとたちまちミラーはブレ出し、
スッカスカ極まりないシンプルな車体は、
乗り手に猛烈な風を浴びせ始める。
伏せてもあまり現実は変わらないので、
腹筋に力を入れ指先に力を込め、
何食わぬ顔をして体を直立させたままブッ飛ばす。
それが妙に似合ってしまうというのも、
この全体のオーソドックスなデザインがあってこそ、のものであろう。
これだけ完成度が高いのであれば、
コイツは今後、Wの強敵となることだろう。
92万8千円はWより13万8千円ほど高いが、注目度は比ではない。
なにしろ名前だけは有名でも、街中を走り 回っている絶対数は
−−特にこの最近復活したばかりの2気筒モデルは−−
極端に少ないのだ。
「おっ、トライアンフじゃん!」
「新車みたいにキレイですね!」
あたりめぇだよ。新車なんだから。
それも最新設計の、国産パーツをふんだんに使ったな・・・。
「よう、今回は、大脱走のヒルツみたいに撮ってくれ!」
さすがにジャンプはできないが、
このサイズと足着き性の良さ、そして低速の粘りがあるならば、
取り敢えずどこでも走れるってもんだ。
気分はマックィーン。
オレはかなり気に入ったぜ、これ。
キャプション
キャブレター
(アイシング防止ヒーター&スロットルセンサー付き)や
電装関係すべてに日本製パーツが採用されているため、
そのあたりの信頼性は国産車と同等のハズ。
燃費も400km近いロングツーリング(但し平日・半分は高速使用)
に使ってP当たり23kmとガスも食わない。
良くできた新型エンジンだ。
ペダル
両ペダルは「これでもか」というほど肉厚で頑丈に作られている。
コケたときの対策か。
また、どちらも踏む部分までのスパンはかなり広め。
車体自体は女の子にも十分扱えるサイズだが、
ここだけはちょっとやりにくいかも。
メーター
昔ながらのデザインにこだわった、というシンプルなメーターは、
数字が中心から放射状に書き込まれているタイプ。
ブン回して乗るバイクではないので、タコメーターは無し。
スイッチ
キー位置はヘッドライトステーにある。
これも昔ながらのデザインにこだわった部分だ。
古き良き時代のものを、最新の技術で作り上げる・・・。
カワサキに先を越されたがな。
エンジン
プラグの横に見えるプッシュロッドのような棒は、
二次空気の導入装置。無論排ガス対策のためのものだ。
見れば分かると思うが、
プラグ点検のやり易さは世界トッアプレベル!
ブレーキ
この310mm径を持つニッシンのブレーキは
効き・タッチともまったく文句なし。
ほんとに指1本でOKの軽さでギュッと効く。
サスはショーワ。設定は少々硬めとなっている。
MB 2001.8月号