YAMAHA TW200

 

 「なんで、このバイクがバカ売れするのだろうか?」
これはバイク業界に深く拘わっている人間であるならば、
恐らく1度は思ったことのある疑問ではあるまいか。
なんで、こんなバイクが?  

 そのヒントが、ある。
昔、こんなことがあった。
あの映画「イージーライダー」に影響され、
チョッパーが大流行した頃の話である。

 巷のバイク乗りたちは、
みなこぞって自分のオートバイを、それらしく改造し始めた。
当時イーグルハンドルと呼ばれていた、
極端なアップハンドルに交換して。
鉄工所に頼み曲げてもらった鉄パイプを、
自作の金具で後部に取り付け、シーシーバーとして。
少しでも車体を低く見せようと
1センチでも長いフロントフォークを流用し、
リヤサスなど取り払い、鉄棒のリジットとして・・・。
 みな涙ぐましいほどの努力をして、
自分たちのロードスポーツバイクをそれらしく改造していた。
 当時のスーパーバイク中のスーパーバイクであったCB750を始め、
CB450、W1、XS650・・・と、
軒並み「生粋のロードモデル」たちは改造されていった。
 その中でも特に好まれたのはスリムな車体かつ大きな排気量
(イメージリーダーとなっていたハーレーそのものが、
1200ccという超大排気量を持っていたため、
なるべくでかいエンジンを使いたかったのだった)
を持つ、W1や、XS650であった。

 ところがそこに、
実におもしろいベース車に目を付けた連中が現れた。
そのベースマシンとは、
なんとイメージ的には対極の位置にあった
「オフロードバイク」である!

 理屈はこうだ。
「ハーレーのようにスリムで、
しかもフロントフォークが最初から長い。
リヤだって、ロードモデルよりストロークが多い分、
リジットにしてしまえば極端に低く落ちる・・・
これは絶好の 素材ではないか!?」
 そしてなによりも、ベースとなるバイクが安い。
中古でも格安のものが、オフ車の場合ならいくらでも手に入った。
 その結果オフ車ベースのチョッパーは、
ロードバイクをベースとしたものに負けないほどの台数が
一時は走り回っていたのだった。

 TW現象というものは、
実はこれに極めて近いものなのであるとオレは分析している。
馬力やスピードは特に重要な問題ではないし、
また必要ともしない。安ければ安いほど良い・・・。
 まるで最初からカスタムしてあるようなこの極太タイヤの
200ccのバイクは、絶好のものだったのである。

「なに、コイツはオフ車だって?
そんなことはべつに関係ねぇよ、俺にとっては!」
そう叫んだ連中が、いたのだ。

 例えば、迷彩色をことさら好む連中がいる。
だが、べつに軍隊が好きだ、というわけではない。
あの色調感覚が好きなのだ。
あるいは、あのヘビーな感覚が。
 すると、こう言う奴も出てくる。
「軍隊のことをなにも知らないくせに、
カッコだけマネるん じゃない! このニセモノめ!」
 翻ってバイク乗りの世界ではどうだろうか?
「ファッションでバイクに乗りやがって。
あいつは本当のバイク乗りじゃねぇぜ」
 こんなことを言う奴も多いハズだ。
ファッションで乗る、あるいは形から入る、
ということそのものが、すでに許せないのだ。

 だが、果たしてそうだろうか?
 例えば、一世を風靡したGPレーサーに憧れて、
市販されたレプリカに乗り、同じヘルメットを被り、
同じツナギを着て走り回っている連中はどうなのだろうか。
 スーパークロスのスター選手に憧れ、
そっくり同じスタイルで
走り回っている人間は、どうなのだろうか。
 佐藤信哉がカッコイイぜと、
バトルスーツにハンマーグローブ、ハンマーブーツで
キメて走り回っている奴は、どうなのだろうか。
 カッコイイと思ったから、自分もそうしてみる。
これは、極めて自然な感覚なのではないか?
ふつうの人がロックスターや有名タレントのスタイルや
髪形をマネるのと、なにも変わらない。

 問題は、そこから先のことなのだ。
スター選手に憧れてその道に入ったが、
自分のライフスタイルに合わせて、
自然と他メーカーのバイクに乗り換える奴。
 次は、自分のオリジナルのヘルメットとツナギを
デザインしてみようと考える奴。
 シンヤさんは看板を背負わないが、俺は俺、と羽織る奴。
 いやいや、安全性が高いからという理由で
バトルスーツを着ているというだけで、
更にオリジナル性の強い、自分だけの別物に改造しよう、
と企む奴・・・いろいろといる。

 では、TWの場合は?
いくら「良いバイクだ」といったところで、
結果的にそれはほとんどの場合
「若者しか乗っていない」ということに、またヒントが見えてくる。

 飛ばすということには特に興味を持っていない。
コーナーを速く走り抜けるということにも、興味を示さない。
そしてまた、長距離のツーリングをしようなどとも考えていない。
(足だ、足。それも、カッコイイ足。
ちょっと変わった靴やブーツ。それでいて、安いやつ。
そんなのがオートバイにあったらなあ・・・)
 つまり、ごく一般にいる、潜在的なバイク乗りである。
ごく一般的な人間。潜在的なバイク乗り。
それは予備軍的に世に潜んでいた、
圧倒的な数の若者達を示していた。
 爆発的にヒットした理由は、ここにあるのだとオレは思う。

 ふつうのバイク乗り、
ちょっと知識を持ってしまったバイク乗りに取っては、
このバイクは実に中途半端なものに写っていた。
「4サイクルの200cc? それじゃあ、全然パワーないじゃん。
乗ってもおもしろくもなんともないよ。
タイヤだって太すぎるからハンドリング悪いだろうし、
だいたいからしてオフ車のクセしてこんなストロークのない
サスじゃ、オフをまともに飛ばせないではないか!」

 だが、余計な知識も先入観も持ち合わせていなかった
「潜在的バイク乗り」たちは、
そんなことは微塵も考えなかったのだ。
「うおっ、なんだこれ、メッチャヘビーでカッコイイじゃん! 
200cc? 関係ねぇよ、原チャの4倍もあるじゃん。十分走るよ。
で、なに、30万円チョイ? 買いだこれは、買った買った!」
 こんな下地があったところに、
キムタクがドラマの中で颯爽と乗り回したものだから、
更に潜在バイク乗りたちをほじくり起こす事となった。
以後のブームは推して知るべしだ。

 速いバイクに乗り慣れている人にとっては、
随分とトロい印象を与えるだろう。
しかし、街中を走るには、それでも十分なパワーはあるのだ。
でかいシートは余裕の2ケツができ、
タンデムステップも十分に実用性のあるものが備えられている。
ハンドルもトライアラー並に(51度!)とガバッと切れるので、
渋滞時のクランク擦り抜けなど実に楽。
もちろん、
元来がオフ車だから、河原などの荒れ地でもガンガン走れる。
パワーが無い分、何も考えずにどこでも全開にできる。
 言ってみれば都市型超万能実用車。
それが低価格で売られている。
そして、この奇抜なスタイルだ。
これが、潜在バイク乗りたちを刺激しないわけがない。

 物は、見方なのだ。
 それひとつで答えは正反対ともなり得る。

 乗れば乗るほど、なるほどね、と納得させられる1台だ。

 



キャプション
エンジン
4サイクル200ccのエンジンは非力といえば非力だが、
その代わりなにをやっても「飛び出さない」ので、
擦り抜けやUターンの最中でも無造作にアクセルが
開けられるので、気楽な面もある。
セッティングは高回転域よりも低回転域の粘りを重視。
バッテリーが上がったときに重宝するキックペダルが
標準装備なのもありがたい。

足回り
このぶっ太いフロントタイヤのせいで、ハンドリングはちょっと粘っこい。
220mm径を持つブレーキは2ケツ時でも十分な制動力を確保している。
また、パットも雨天時に効果的なものが採用されている。
Fサスはさすが元来がオフ車、
ストローク160mmとロードモデルにはない長さを有している。
タイヤ自体もサスになる。

リアタイヤ
TW最大の特徴となっている超極太のリアタイヤは、
元々はブロックパターンだったが、
ロードノイズの低減を狙って亀甲状のパターンに変わった。
確かにゴーッというノイズは無くなり静かになっている。
グリップは過剰なほど。
シート、ステップ共に2ケツするときのことを
ちゃんと考えて作られているので、メチャ乗り易い。

 

                
            MB 2001.4月号