Kawasaki ZRX1200

 

 以前、コイツの1100が出たばかりのときに、
ひとつ前の型の1100を改造している奴のところへと乗り付け、
ちょっと乗ってみろよとやったことがあった。
その男は戻るなり沈黙した。
(俺のよりブレーキ全然効く・・・
足回りだって、金かけて改造なんかしないで、
これをそのまま移植すりゃあよかった・・・)
そう思ったらしい。
随分と金をかけたバイクだったので気の毒になり、
乗せなければよかったかと、少し後悔した。

 この1200に乗ったら、1100に乗っているオーナーは
これと同じ思いに駆られてしまうことだろう。
あれもこれも、すべてがさらに良くなっているからだ。

 特にどうしようもないのは、
正味112ccもアップされた排気量による、
すぐに分かるほど更にズ太くなったトルク感であろう。
単なるボアアップではない。
3mmのボア増大に加え、1.4mmではあるが、
ストロークのアップも図られているのである。
つまり、より多く吸い込んだガスの爆発圧力を、
クランクの、より遠い部分で回転力に変換しているのだ。
僅か1.4mmとは言え
これは単にボアアップしただけで稼いだ場合の112ccよりも、
トルクの増大にはずっと効果的に効く。
そしてこの「ストロークのアップ」というものは、
事実上、メーカー以外ではまず不可能なことだと思ってもいい。
やってできないことはないが、
「これなら今のバイクを下取りに出せば新車が買えてしまう!」
というほど金がかかろうし、
そこまでやってもメーカーのようには保証など付かないのだ。
 したがって、とにもかくにも、コイツの最大の目玉は
この「ストロークアップ付きの排気量増大」にあると言っていいだろう。

 では、その威力は? あるある。あ〜るある!
例えばトップギアーでタコメーターの最低ライン、
1000回転の下・・・目見当で800〜900回転のあたりでも、
ノッキングなど起こさずに、ズゥ〜〜・・・という
低い音を起てながら平然と突き進んで行く。
そのときのスピードはおよそ30Km/h。
多少の登り勾配でもガコガコしたりはしない。
これはノンスナッチ、つまりアクセルをまったくいじらないままで、
混雑してノロノロ走りとなっているところを
オーチマチックよろしく走れることを意味している。

 ではそこから開けると?
そんな眠っているような状態、最低にパワーのない状態からでも、
250ccクラスのバイクがムキになったほどの
加速力を見せつけるのである!
これぞまさにストロークアップを伴った、+112ccの威力。
2ケツした状態でも、
このときの押し出され方は1100よりも強いものがあるであろう。

 ではブン回したら?
むごい話だが、これまた1100乗りは、
あらゆるところで指をくわえることとなる。
今も昔もパワーを増大させる手段のうちで最も効果のあるもの、
それは排気量の増大に他ならない。
したがって、750ccだの1000ccだのと
排気量の決められてしまっているレースの世界では、
これは絶対の禁じ手となっているのは当然のことだ。
 しかし、だ。ストリートバイク、市販車の世界にはそれがない。
禁じ手などないのだ。
したがって、速さであれ乗り易さであれ、
性能の向上が義務づけられている? 新型車、
特にこの手のバイクは、みな平気で排気量を上げて来る。

 そのメリットはコイツの場合ならこう書けば分かりやすいだろう。
「アクセルを開けたトタン112ccの予備エンジンが作動する」
いくらキャブをいじろうがカムを工夫しようが、
従来1052ccのエンジンにこれだけのキャパを持つ
予備エンジンを取り付けられてしまったら、
これはもうどうにもならない。
ただし、そうは言っても6000回転、7000回転と
ブン回した状態からの加速力は、そう驚くほどは変わっていない。
100馬力に押さえられてしまっているためだ。

 だがこれが例えば2000回転ほどの低い回転域から
アクセルをガバッと開けた場合や、
街中を高いギアーで静かに流しているような状態からの、
シフトダウンなしの加速などの場合には、てきめんにその差は現れる。
従来の1発あたり263ccが頑張っているところへ、
28ccが「おうりゃ!」と加勢するのだ。
ちょうど、10人対10人同士でやっている綱引きの片方に、
もう一人加わってしまうようなものだ。

 したがって、ムキになってブン回さずともコイツはどこでも無造作に、
そして即座に大加速を始めることができるし、
またこのことは、冒頭で書いた通り、
低速での横着極まりない運転ができることにも意味が通じている。
オレとしては、ガバッと開けたときの速さよりも、
このイージーさのほうが魅力があった。

 たまに、
「シンヤさん、余裕があったら、
Vmax以外にも欲しいと思うバイクってないんですか?」
と尋ねられることがある。
「あーるある!」
XJR1300。
W650。
ゼファーの750 。
スーパーシェルパ・・・。
へぇー、とみんな意外な顔をする。
くそ速いバイクが1台もないことに、
そしてカワサキが大半を締めていることに。

 意外でもなんでもないのだ。
ここには大きく共通していることがある。
「どれも、極めて乗り易い」ということである。
不必要な過剰部分をバッサリと切り捨て、
オートバイに乗る楽しみとはなにか、
走り回る楽しみとはなにか、ということに、
どれも焦点が絞られた作りのものばかりである。
ここではその中で、
コイツと似たような大きさ・コンセプトのバイクである
XJRを引き合いに出すが、
乗って驚き、コイツはこれに負けないぐらいに
乗り易いバイクに仕上がっている。

 1速で110km/hぐらい出る、
2速では軽く150km/hあたりまでハネ上がる・・・と、
ブン回したときの性能に関しては必要以上のものがある。
 だが、オレがいつも単純に「ああ、こいつはいいぞ!」
と感じてしまうのは、そんな部分よりも
「ヒョイとターンするときのやり易さ」
のようなところで、なのである。

 ダチが居た。興味を引かれる店があった。
 見逃した看板があった。曲がり角を行き過ぎた。
 そんなときに無造作にヒョイとUターンができるかできないか。
これは「オートバイを手足のように扱う」ことが
最大の楽しみとしているオレにとっては、重要な問題なのだ。

 例えば12R。確かに速ぇ。滅法速ぇ。
でも、12Rにはこの芸当はできないのだ。
無理しているうちに、いつかは必ず立ちゴケしてしまう。
だがコイツはXJRとまったく同等に、
そんなことがやらかせられるのだ。
なにしろこの低速の強力さに加え、
ハンドルが片側38度と、ガバッと切れ込んでくれるのだ。
したがって、ドガッ! と大減速をかまして
ヒョイとターンして、ズゥォッ! とブッ飛んで・・・という、
いかにも手足のように転がしているという走りが可能となる。
切り返しでモタモタしたり、
足でチョコチョコと押し戻したり、
カツッと止まるのを警戒して
恐る恐る半クラッチを使ったりなど、しなくてもいいのだ。
これがオレには最高に気に入った。

 フレーム幅が狭くて足着き性も良いし、
頑丈なグラブバーが左右に付いているから出し入れも楽だし、
前傾姿勢を強いられない、カウルがあるから高速でも楽・・・。

 これぞストリートバイクよ、ストリートバイク!

 また、リストにカワサキが1台増えるか。

 

 

キャプション
エンジン
トルクは俄然強力になった。
耐久・耐熱性向上のためスリーブレスの複合メッキシリンダーを採用し、
燃焼効率向上のため新型の凹面ピストンも採用されている。

ブレーキ
310mmの外形を持つでっかいローターを
6ポッドキャリパーで締め付ける×デュアル装備=超高速からの
ブレーキングもまったく問題なし、効〜く効く!

メーター
RとSとではメーターの配置と装備がちがっている。
Rはタコメーターをセンターとした、スピードと燃料の3連、
Sはこれに水温の加わった4連となっている。

マフラー
排気系統はオールステンレス製。
エキパイ部分は2重構造とし耐食性と静粛性を高めている。
スイングアームピボットと軸受け右側にはベアリングも追加されている。

収納スペース
大型グラブバーは非常に実用的。
また、シート下には500mPmと1.5Pのペットボトルがスッポリ入って
まだまだ余裕という、6Pもの大収納スペースがある。

 

                MB 2001.6月号