Kawasaki ZX-12R

 

「ワシらは一番でないと気が済まないんや。
川重はな、世界一でないと、気が済まん会社なんや!」

4年前の岡山、TIサーキット。
SDにゲストとして呼ばれたカワサキの技術スタッフたちは、
次期ZZ-Rについて、ステージ前に押し寄せた観客からの
熱い質問攻めにあっていた。
「カワサキはこのまま黙っているのか!」
「ブラックバードにやられっぱなしでいいのか!」
「いったいいつ、新型が出るんだ、次のは排気量はいくつだ!」
企業秘密が絡んでいたためか、
みなは肝心な点については言葉を濁していた。
そして最後に発せられたのが、この冒頭のセリフである。
そのとたん、ウオォ! と会場にどよめきが走った。
それだけで十分だった。
そして、みんな待った。

「3000kmまでは慣らしなんで、ブン回せないんだ」
そう聞かされていた。
バイクはカドヤに勤務するゴッちゃんこと後藤氏のものだ。
 彼とは以前オーストラリアをいっしょにブッ飛ばした間柄である。
本人に確認すると、
「うん。そうなんですよ。正確に言えば3200kmなんですけどね。
200マイルと指定されていますから」
 通常は500km〜1000kmである。
場合によっては300kmで完了させてしまう場合もある。
それを考えると3200kmとは随分と長い。
いや長すぎる。
(それだけ、慎重に最後の擦り合わせをやってくれ、
ということなのか・・・? 
裏を返せば、そこまでしなければならないほど、
ヤバイ精度で仕上げられているのか!)

 オレが引き継いだときは、
デジタル積算計は3700kmを僅かに超えていた。
全開、OK!
 テストコース上がクリアーになるのを見計らい、
やにわにフルスロットルをかませた。
(おかしい。そんなハズはないぞ。ギアーの数を間違えているのか?)
メーターの読み間違い、ギアーの数え間違い。
チェンジ回数の勘違い・・・
そうでなければならない事実がそこにあった。
なぜなら、
140kmを超えたところでオレはひとつギアーを掻き上げ
次のギアーにチェンジし、その次は、
180kmをこれまた僅かに超えたあたりでチェンジしていたからである。

 それがなぜおかしいのか?
バイク乗りなら、誰でもおかしいと思うに決まっている。
なぜなら・・・それは1速と2速での話だったからだ!

 これはオレが間違っている。
そう思い何度も確かめたが、それは紛れも無い事実だった。
(ふざけるなよ、このやろう!)
まず頭の中に浮かんだのは、こんな台詞だった。
 いくら速いバイクと言えども、
1速は100km/h、そして180km/hなどという、
本来はリミッターが効く速度に達するのは、
3速でなければならないのだ!
そして、そのときの感覚は爆発である。
アクセルを全開にしたとき、バン!とエン ジンが唸った。
唸ったと思ったら、自分の体が爆発したと思った。
その吹っ飛んでいく感覚は
「加速」という表現よりも「自分が爆発して飛んでいる」
というものに近かった。

 後日、第三京浜から湾岸にかけてコイツを転がした。
料金所のブースを出てしばらくすると、
R33タイプの白いGT-Rが後ろからやって来て、
前のクルマのテールを突っついて
道を開けろとディスプレイをし始めた。
車で同行していた古くからのダチが、
ニッと笑って手を挙げた。
オレがなにをしようとしているのかすぐに察したからだ。

 GT-Rはやがてオレの後ろに張り付いた。
オレは6速から2速まで落とし、
ジェットエンジンのような咆哮を放ちながら
ZZ-Rをクルージングさせた。
前の車がどいた。
だが、オレは僅かに車速を上げたままだった。
GT-Rが掟破りの左追い越しをかけて来た。
並んだと同時にフルスロットルをかませた。
およそ100kmからの加速ごっこだ。
バーン! と炸裂音がしたと同時に、また体が爆発した。
(なんだ、やる気がないのか)
GT-Rはまったく加速していなかった・・・と思ったら、
引っ 張り切ってからアクセルを戻したオレの横を、
しばらくしてから猛烈なスピードでブチ抜いて行った。
(なんだ、全開にしていたのか)

 その後何度も追いつかれては開け、
並走しては開けたが、結果に変わりはない。
相手が踏もうが踏むまいが、ひとたびこっちが爆発したら、
その結果はさして変わらない。
まさに「爆発的な加速力」とは、このことを言うのだろう。
GT-Rも速いのは認めるが、
これに比べたらその加速力は破裂の範疇だ。
無理もない。

 こんな計算をしよう。
ごく大雑把に言って、
こっちは人間が乗った状態で、ガス満タンでおよそ300kgとしよう。
これは重めに計算した場合だ。
そして向こうは同じ条件で、1500kgとしよう。
これは軽目に計算した場合だ。
 実際にはもっとずっと重いが、ここでは分かりやすく5倍とする。
すると、同等の加速をもたらすためには、
GT-Rは コイツの175馬力の5倍、
およそ900馬力ものパワーを持つエンジンを搭載しなければならなくなる。
これでは話にならないのは当たり前で、
逆に言うならコイツはそれだけとてつもないエンジンを
搭載していると言えるのだ。
 そのエンジンで、ただの2速で一気に・・・
それも一瞬とも言っていいほどの素早さで
持っていかれてはたまらない。

 ちなみに、あの「速い、速い」と言われているポルシェのカレラでも、
1速でせいぜい引っ張ったところで70kmちょっと、
2速でも120kmあたりが関の山なのである。

 ではコイツが3速に入れ たら? 4速に入れたら?
5速では、6速では?
むはははは!
実際にはメーターなど見ていられなくなる。
その理由は車速そのものにもあるが、
加速力自体はその車速に見合うほどは衰えていかないので、
とても注視などしていられないからだ。
 

 ではコイツは加速力とスピードだけが命のバイクか?
 天は二物を・・・
いや、川重の技術者たちは二物を与えてしまった。
コーナーがズバッと決まるのだ。
それも車格に見合うような大きなコーナーではなく、
街中の小さなコーナーまでもが、だ!

 みんな思う。ではハヤブサと比べたら?
これは映画史に残る未着の大勝負、
あの『キングコング対ゴジラ』のようなものだと思う。
まさに両雄相対峙する。
双璧のバケモノ。
だが・・・コイツのほうが強いだろうとオレは結論する。
怒涛のような加速、
ビッグバンの大爆発の中にいながらオレの脳裏に
あのときの川重のメンツの叫びがまざまざと蘇ってきた。

「ワシらは一番でないと気が済まないんや。
川重はな、世界一でないと、気が済まん会社なんや!」

 素直に認めよう。
 コイツはスゴイと。
 『世界最速』を名乗る資格あり、と・・・!

 

 

キャプション
トップギアー6速での60km/hは僅か2000回転。
ギクシャク感など皆無。
ちなみに80km/hでは2700回転、
100km/hだとおよそ3600回転となる。
計算上3倍回せば300km/h突破となる。
何よりもコイツは簡単にそこまで回り切ってしまう。
そして回せば回すほど、
すなわち飛ばせば飛ばすほどラム圧が掛かり、パワーが出てくる感じ。
怒れば怒れほど強くなるといったあ んばいだ。
ただし、怒らせると"大飯"を食らうらし、
燃費(気にする?)は相当悪くなるようだ。
ガソリン残量計の減り方がそれを伝えていた。
試乗した日は外気温21度。
それでもふくらはぎがカウル内部からの熱風で熱かった。
それも高速を流れに沿ってクルージングしている状態でだ。
真夏ならどうなるのだろう。
街中の渋滞路ではものの3分でファンが回り出す。
大馬力=大発熱量の見本のようなものか。

 

            MB 2000.6月号