HONDA MONKEY&GORILLA
この手の「小さい」車両としては、
一般的に台数が出回っているKSRや
エイプがすぐに思い浮かぶことだろう。
両車は通常の基準で言えばかなり小さい部類に属するものだ。
だが、コイツはそれらよりもまだ「圧倒的」と
表現できるほどに小さいのである。
具体的にどのくらい小さいのか?
ここにエイプ50のスペックを書いてみよう。
全長1710mm
全幅770mm
全高970mm
ホイールベース1185mm
シート高715mm
これは十分に小さい数値だ。
では次にモンキーのそれを書こう。
全長1360mm
全幅600mm
全高850mm
ホイールベース895mm
シート高660mm
・・・なんと、あのコンパクト最右翼のエイプ50よりも
全長で350mmも短く、170mmも狭く、120mmも高さが無く、
290mmもホイールベースが短く、そして55mmもシートが低いのだ!
さらに加えるならば、
車重もエイプの75kgに対し58kgと、17kgも軽くなっている。
ここまで常識外に小さくて軽いと、
両足を着いてハンドルを引き前輪を持ち上げ、
振り回すようにしてUターンができてしまう。
これはもう、大人が乗れる限界の小ささ、と言っていいだろう。
もともとコイツは多摩テックだかどこだかに転がっていた
ゴーカート用のタイヤを利用して、
完全なレジャーバイクとして作られたというルーツがある。
出生からして、
庭先に置いておける、乗用車のトランクに積める、
出先で足代わりに使える・・・
という、こてんぱんに割り切ったコンセプトのモデルだったのだ。
ゆえに 初代はタイヤは更にひとまわり小さい6インチ、
しかも前後共ノーサスのリジッドだ。
この可愛らしさ、便利さが
アウトドア大好きのアメリカ人にバカ受けした。
それで国内でも発売するかとなったのだが、
しかし、公道を乗り回すにはさすがにこれはちょっと小さ過ぎた。
そこでタイヤをワンサイズ大きくし、車体も少し大きくして、
フロントにもサスを装備して・・・
それから更に、やはり乗り心地の問題から
リアにもサスを装備して・・・と変更を受け、
基本的に現在のもののベースとなるものができあがった、
というわけ なのであるが、つまりコイツはこれでも、
初代モデルよりは随分と大柄になっているのだ。
実際、コイツは笑ってしまうほど
ヒラリヒラリと無抵抗に曲がりまくるが、その代わり例えば
(加速が超鈍いので、ついつい意志の現れとして)
前へ伏せたりすると、それだけでもうフラついてしまう。
ホイールベースが超ウルトラ級に短いから、
伏せたときに左右のグリップを押す僅かな力の相違が
もろに影響してしまうのだ。
そしてまた、「体の反動」だけで軽いウイリー状態にもなる。
始動はキックのみだが、現在では・・・というより、
30年も前から当たり前のような機構となっている
「ギアが入っていてもクラッチを握れば
キックしてエンジンを掛けることができる」
プライマリー方式とはなっていない。
なので、ギアを入れたまま止めてしまうと、
クラッチを握ってキックしても、
モソッという感じでバイクが若干前へ出る
(タイヤが回ってしまう)だけで掛からない。
なぜこんな不便な大昔の機構を採用しているのだろうか?
ベースエンジンがカブだからだ。
カブの場合は使用目的と利便性を考えて、
ミッション付きではあるものの、すべて自動クラッチとなっている。
するともしギアが入っている状態で
キックしてエンジンが掛かってしまうと、
吹け上がったとたんに突然飛び出したりする危険性が生じるため、
敢えてこのように掛からない方式にしておいたほうが
いいというわけだ。
エンジンは、はっきり言ってからっきり力がない。
おそらく、オートバイとしては
世界で一番加速が鈍いのではないだろうか。
なので、信号待ちからのスタート時などは、
少しでも後ろのクルマに迷惑をかけたくないと、
つい足で押し出してしまうほどである。
最高速は60km/hぐらい出るが、
そこに到達するまではかなりの時間が掛かる。
またトルクがないから、
ちょっとした上り坂にさしかかったとたんに、
たちまちスピードが低下して来る。
例えばどこかの峠を越えようとしたとする。
そんな場合には全部で4速あるうちの、
2速と3速を多用することになる。
つまり30km/h〜40km/hのスピードで、
唸りまくりながらの走行を強いられるのだ。
原付きの法定速は、
そもそも30km/hなので文句を言えるものではないのだが、
実際問題交通量の多いところでは
これはかなり怖い思いをするものだ。
では本来の用途であるレジャーフィールド、
つまりキャンプ場や河原へと持ち込んだ場合はどうなのだろうか?
これが目を剥くほど実に良く走ってくれるのだ。
まずなんと言っても子供用の自転車のごとく足がベタ着きするし、
持ち上がるほど軽いので、どんなところを走ってどうなろうと、
恐怖感というものをまったく感じない。
そして、
ここでは先の非力なエンジンが良い方向に働いてくれることになる。
どう開けてもガッと駆動することなど絶対にないので、
どんなに滑りやすそうなところでも無造作に全開全開また全開、
開けっ放しで走ることができるのである。
さらに
アイドリング付近という極低回転でも実に良く粘ってくれるので、
2速に入った ままUターンしたとしても、
まるでオートマチックのごとくエンストしない。
トコトコと走るには実に具合が良いのだ。
アイドリングのまま片足で車体を押し出して
ローギアにコツンと入れてやれば、
クラッチを使うことなく
そのままトコトコと走り出してしまえるほどだ。
そしてまた、
このような場所においては
60km/hという最高速は必要十分なものとなる。
これ以上出てしまったら
サスが音を上げて飛び跳ねまくってしまうからだ。
その結果、すっ転ぶ。
ちなみに書いておくと、駆動力がないとは言っても、
ブン回せばそれなりに力はあるので、
ローギアで全開にすれば、2m〜3mぐらいの長さであれば、
土手のようなところでも上り切ることができる。
それ以上のところだとどうなるか?
2速で勢いを付け駆け登り、途中でローに叩き落とし・・・
しかしその頃には
勢いによる斜面への圧着力が消滅しているから、
超短いホイールベースのコイツは
否応無しにフロントが持ち上がり始め・・・
そのままバク転するハメになる。
また、荒れ地を走って感じることは、
意外なほどに乗り心地が良い、ということだ。
確かにタイヤは小さいしサスもショボイが、
タイヤが太くて厚みがあるため、
それがたわんでかなり空気クッションの役目を果たすのだ。
またシートの面積が大きく、
ウレタンの厚みもたっぷり取られているのも大いに加勢する。
なので例え一日中乗り回していたとしても
ケツが痛くなることはない。
さらにシートがでかいゴリラなどはなおさらだ。
そのゴリラはモンキーとどう違うのかと言うと、
ゴリラは早い話が
モンキーをロングツーリングできるよう改装したものである。
今言ったシートが大型化されているという部分の他、
荷物が積み易いようにキャリアも大きなものが取り付けられている、
タンクがモン キーの倍の容量の9Pと大型化されている、
ポジションが楽になるようにとハンドルがモンキーより
若干幅広で高いものに交換されている
(その代わり折り畳み機構はなし)というものだ。
この各部の換装はかなりの効果を上げている。
ギュッと凝縮されたモンキーから乗り換えると、
体が立ち気味になって楽なのだ。
また、モンキーは
完全にタンクの上に膝が出てしまう+タンクが丸いので
事実上ニーグリップができないが、
ゴリラの場合はそれが可能となる。
まあこんなに軽くて小さいバイクなので
ニーグリップの効果などあってもなくても
実際は変わらないのだが、
安心感という点では納得する人も多い部分だろう。
ゴリラはモンキーの倍、9Pも入ると書いたが、
ここで燃費について触れておこう。
今回は50ccで燃費はそもそも良いだろうが、
しかし事実上「常に全開」状態で走る、
それも頻繁にチェンジを繰り返しながら
走ることになるコイツらの実燃費は、
果たしてどのくらいのものなのだろうか?
倍入るということは、実際メリットのあるものなのだろうか?
という ことで、2つのパターンでテストしてみた。
最初は河原の荒れ地へ持ち込んで、
好き放題全開にし続けた、オフでの遊びに徹した場合のもの、
次は一般路を使って長距離走った場合のものだ。
●河原で遊んだ場合。
モンキーは40.4km走って(内9割は完全なダート)0.87Pの消費、
つまりP当たり46.43km。
ゴリラは39.5km走って(条件は モンキーと同じ)0.98Pの消費、
P当たり40.30km。
約6kmの差が出たが、
これは恐らく補給時の僅かな誤差が原因と思われる。
●一般路で長距離走った場合。
モンキー143.6km走って2.77Pの消費、
P当たり51.8km。
ゴリラ143.0km走って2.62Pの消費、
P当たり54.58km。
ゴリラのほうがちょっと良いが、
こちらのほうはかなり厳密に計測したので、
これは意図的にゴリラのほうのシフト回数を
減らしたために生じたものだと思われる。
ということは。
ここでは便宜上、両車の平均値を用いるとすると、
モンキーの場合はガンガン開けまくって
頻繁にシフトを繰り返すような走り方をしたとしても、
約43km/P×4.5P=193.5km走れることになる。
そしてゴリラはその倍の387kmも走れることになる。
その間ずっとガンガンシフトを繰り返した状態でだ!
体、持つか?
一般路だったら、
これが(同平均値使用として)
モンキー約53km/P×4.5Pで235.5km、
ゴリラに至っては477kmも無給油で走ることができるのである!
今回は坂道でどれくらい走るかというテストも兼ねていたので、
その半分は山道、峠越えがあったので、
しかるにこれが平坦なところばかりだったら、
さらに数10km単位で伸びることだろう。
体、持つか?
ちなみに、この140数kmを走るのには
半日という時間が費やされている。
なのでモンキーの容量ですら、
実際には十分であると言えよう。
とにかくおもしろいバイクだ。
レジャー用に、近所の足代わりに1台どうだい?
ちなみにオレは過去に3台、弟も2台、伜も1台 買っている。
それだけ魅力があるし、乗って楽しいバイクなのさ!
キャプション
エンジン
エンジンはカブ系の4速自動クラッチを手動式にして搭載。
本来は実用車のエンジンゆえに、50ccと言えども
アイドリング付近で粘る粘る!
非力ではあるが、滅多なことではエンストしない性格は
荒れ地走行の際の大きな味方となる。
ハンドル
最大の突起物であるハンドルをこうやって折り畳むことにより、
乗用車のトランクにも積むことが可能となる。
工具不要のワンタッチ式だ。
ゴリラの場合この機能はないが、
付け根のネジを緩めて手前に倒してしまえば同じ結果に。
MB 2003.8月号