HONDA XR250 Motard
早い話が、コイツはあのバリバリのオフ車、
XR250のホイールを小径化(かつオンロード専用のタイヤ)とし、
舗装路での運動性能アップを図ったものである。
ベースとなっているXR250自体、今年の2月にモデルチェンジを受けている。
従来からの大きな変更点は次のようなものだ。
1.タンク側面に、エアインテークの役目を果たすシュラウドが設けられた。
(走行風をこのシュラウドでかき集めてシリンダーにブチ当てることにより、
より一層の冷却効果が期待できる、というものだが、
これはデザイン的な面のほうが大きいだろう。
ちなみに当然走っていなければ、その効果はない)
2.フロントとリアのフェンダーデザインが変更された。
(よりモトクロッサーに近い、アグレッシブなイメージを演出すると同時に、
フロントは後端部分を短くカットすることにより、
ここでもまたエンジンへの冷却風増大を目論んでいる)
3.フロントフォークを43mm径の倒立カートリッジタイプのものに換装した。
(ストロークも従来の物の260mmから5mm増え265mm となっており、
また縮み側のダンピング・アジャスターも新たに装備されている)
4.そのフロントフォークの性能アップに伴い、
受け持つヘッドパイプまわりも剛性アップが図られた。
具体的に書くなら
ステム下部の径を3mm拡張+ステムに接合するフレームパイプの補強板の肉厚を、
従来の2.6mmから3.2mmへと変更している)
5.点火システムが変わった。
(デジタル点火方式に変更、それによりスロットル開度の小さい領域、
つまり低中速域で、より一層柔軟性を持つようになった)
6.ハンドル位置が従来のものより若干高く、
かつ前方へ配置され、幅も若干狭くなった。
(のであるが、これはほんとに僅かな部分であるので
実際には乗ってもほとんど分からない程度のものだ)
7.シートの形状が若干変更された。
(全体の幅自体は従来のものとほとんど同じだが、
ケツが当たる部分の面積が左右方向に増大している)
というものだ。
なので、乱暴に言ってしまえば、
モデルチェンジと言っても大きく異なるのは
フロントフォーク関係の話と点火制御の話だけであり、
後は外装をよりアグレッシブにしただけ、
でけえマイナーチェンジの域を出ていないじゃんか、と言えなくもないものだ。
しかし。見方をちょっと変えてみるならば、
これはやむを得ない部分ではあるまいか、とオレは思える部分もある。
この車両の国内 での年間販売計画台数は、BAJAのほうも含めて、2500台だ。
25000台ではない。僅か2500台、である。
なので、まず 大きな投資をしてもなかなか回収できないという絶対的な制約がある。
それにだ。
では仮にそれを無視して「今、俺たちの会社は儲かっているのだ」とばかりに、
えいっと腹を据えたとしよう。
しかし。
ではこの車両を具体的にどう変更するかとなると、
これは一筋縄ではいかない、実に大きな問題にぶち当たることになる。
その際には社内でこんな激論が交わされるハズだ。
「レース用の車両の市販バージョン? いいでしょう。
でも耐久性の問題とか、量産性の問題はどうすんの?」
「なに、せめて4バルブにして商品力をアップするだぁ?
ウチは数字のメーカーじゃないんだよ。
3バルブでも実質上4バルブと同 等の性能のものを作り上げる・・・
それが技術力ってもんじゃねぇのか?」
「よし分かった。ンじゃエンジン、新開発しよう。
ただし、するとフレームもサスも全面変更になるんだぞ。
年販2500台でそのコ スト回収できるのか? えっおい」
「てかさあ・・・・今の車両を自分で乗ってみて、
具体的に『ここが他社のよりも明らかに劣っている』
『明らかに改善すべき余地が 残されている』と
堂々と発言できる奴、誰か居るのかよおい!」
おそらく、焼き鳥屋かなにかでこんな激論も交わされたのではないだろうか?
だが・・・
ここで終わってしまったら世の中に「 新型車」というものは生まれて来ない。
だが、それでもメーカーというものは、必ず、送り出して来るものなのだ。
なにが言いたいのか?
そこまでこの「XR」という車両は、
まるであのスーパーカブのように、
時代の荒波に揉まれ、揉まれに揉まれてすでに完成し尽くされており、
さしものホンダをもってしても
「全面的な変更は非常に難しいのであろう」ということなのだ。
これを超えるには、およそ根本的なものをすべて見直すどころではない、
なにか「ホンダならではの」画期的な車両でなければならない。
それがどんな革新的 なものなのかオレにはちょっと想像がつかないが、
いずれにせよ技術者たちは、自らが作り出し、
究極的に熟成させてしまったコイツを凌駕するためには
一体どうしたらいいのだろうかと、
頭を悩ませ続けているに違いないことだろう。
でだ。
それはともかくとして、今回の主役、モタードの話だ。
コイツは冒頭でも書いたが、このXRの「ストリート・バージョン」 だ。
モタードとは要するにスーパー・バイカーズ・レース=
「モトクロスコースとまではいかないまでも軽いダート部分があり、
ロードレース的な舗装路もありの、路面問わず問答無用で競われる、
言わば『オートバイ版・格闘技世界一決定戦』のヨーロッパ流の言い方」である。
ダート部分があるならオフ車のほうが有利だろうが、
でも舗装路の部分ではロードバイクに圧倒的に不利・・・
かと言 って舗装路の部分ではオフ車を軽くぶっ千切る
スーパーバイクであろうとも、オフの部分に差しかかったら
とたんに亀のようなスピー ドになってしまうと・・・
その妥協点はどこか?
「排気量のでかいオフ車のタイヤだけを、ロードモデルのそれに換えてしまう!」
これである。
そして事実、このように改造したオートバイ以外は、
勝てないどころかエントリーしても意味がないというほどの、 歴然たる事実がある。
このモタードはその流れというか、ノリを汲んで製作されたものなのだ。
じゃあ、実際乗ったらどうなんだ?
いよいよそれに取り掛かるとしよう。
また、ひとつずつ挙げて行こう。
1.XRに比べたら、そりゃやっぱり良く曲がる。
(これは間違いない。
なにしろ本来はフロントが21インチ、リアが18インチという前提で作られている
オートバイのタイヤ−−結果的 にホイールと同義語だ−−を、
前後とも17インチという極端に小径のものに換装してしまっているのだから!)
2.しかし、今の話と矛盾するが、モタードとXRを
高速道路で、ワインディングで、渋滞路でと・・・
それこそ数kmおきに乗り換 えてみると、どっちも「操縦性は素直」であり、
「ハンドリングは良い」と現実には感じてしまった、ということ。
(確かにXRからモタードに乗り換えると、
XRよりずっとクイックな感覚を受けるのであるが、
その代わり少し『モサッ』とした妙 な感覚もまた受けるのだ。
これはおそらくXR用に作られたフレーム/足回りに
そのまま小径タイヤを装着したことによる、ある種の弊害なのだろうが、
対してXRは「設計図通りの完璧なセッティング」そのままなので、
これはこれで、当然ながら実に素直に曲がっ てくれるのだ)
3.モタードの操縦性、あるいはハンドリングに慣れ切ってから
XRのほうにパッと乗り換えると、
えっ!? と思うほど「ホイール のジャイロ効果」を体で感じるということ。
リアはほとんど判別不能なほどに影響は薄いが、
フロントは如実に感じられるものだ。
XRからモタードに乗り換えるぶんには特に 何とも思わないが、
モタードからXRに乗り換えた瞬間には、
ワインディングで切り返した瞬間にすぐに
「ああ、ホイールの径が4インチ違うと、こんなにも影響を感じるのか!」
と思うほどこれは食らった。
地球ゴマのように、ホイールが現状を維持しようと粘るのが
グリップから伝わって来るのである。
逆に言えば、
日常的にXR(のように大径ホイールが付いている車両ならみな同じこと)に
乗っている人がコイツに乗ったら、
自然に体に染み込んでいるこのジャイロ効果の影響を突然受けなくなる→
おお、やっぱ17インチは良 く曲がるわ! と納得してしまう、というわけだ。
4.ブレーキが「明らさま」と言えるほど、XRよりも良く効いた。
(ローター/キャリパー共にXRと共通−−更に言えば従来のものとも同じ−−であるが、
ホイールの径がガバッと小さくなっているため、
相対的にローター径が大きくなっているのと同様の効果をもたらすために、
このような結果となるのである)
5.やはり従来モデルと比べると、
長距離を走った場合(もっと正しく言うならば長時間走った場合)にケ
ツが痛くならなくなった。
(パッと見には従来モデルと同じように見えるものの、
実際はケツが当たる部分の面積がかなり拡大されているために、
長時間乗れば 乗るほど従来のシートとの違いは歴然として来る)
6.確かに中低速域、とりわけ中速域部分でのレスポンスが良くなっている。
(ただし、それでも「アイドリング付近での粘り強さ」は相変わらずない。
これは「ブン回してなんぼ」の、絶対性能優先のというか 、
レーサーレプリカの発想優先? の悪しき部分の引きずりであると思うのだが、
とにかくトロトロ回しているときに「パスン」とエンストしてしまう恐怖は
数代前から相変わらず引きついでいる。
なので、初心者の人は用心のため必要以上に吹かしながらクラッチを操作すべし。
ちなみにこのあたりのことを考慮して作られているのは、
カッ飛び路線で設計されていないセローとかスーパーシェルパ だ)
7.モタード仕様はXRに対して20mmシート高が下げられている、というか、
ホイール径の違いで低くなっているが、それにしても無駄にシート高が高すぎる。
(オフ車のXRとて、ふつうの人がオフロードを走る分には、
その半分も使っていない・・・ということは周知の事実。
ましてやストリート仕様のモタードであるならば、何を言わんかや。
なんのためにこんなに不必要に車高を上げておくのか?)
最後に燃費のことを書いておこう。
約306km走って
(内、高速部分約93km、全行程通常のツーリングペース・渋滞部分は約10kmほど)
食ったのは8.56P、つまりP当たり約35.7kmだ。
ちなみに比較のため同行したXRは、9.54P、32km/P丁度だったので、
モタードのほうが10%ほど良いという結果となったが、
これはどうやらモタードのほうがXRより10km/hほど
最高速が高いということから察するに、
ホイール変更に伴う減速比の相違から来ているもののようだ。
(ちなみにXRは130km/hの辺りで頭打ちを始めるが、
モタードは140km/hちょっとまでは伸びる。
ついでに言っておくと、
XRはその速度に達する頃にはかなりハンドルがグラつき始めるので、
そこまで出す気にはちょっとならない。
モタードのほうもグラつくにはグラつくが、
XRに比べればずっと安心していられるものだと伝えておこう)
ストリートであるならば、
どんなに荒れた路面に遭遇しようがXRそのものの超絶サスが余裕で吸収してくれる。
それは路面への追従性が抜群に良いこともまた意味している。
従って自動的に強烈なグリップ力を生み出すことにもなる。
しかも車体はメチャクチャに軽いのだ。
おまけにバンク角はふざけたほどあるし、
ハンドリングはまったく重さを感じさせない、
ブレーキは効く、元がオフ車だけにウイリーもスパスパ決まる・・・。
こりゃあ、街中ではおもしろいに決まっている。
最後にオレからの忠告をひとつ。
「寝かせ過ぎてすっ転ぶなよ!」
キャプション
足回り
最大のポイントである、前後に装着された17インチタイヤ。
軽い車重+抜群のサスの追従性も加勢し、これが実に良く食いつくのだ!
ブレーキローターはフロント240mm、リア220mmとまんまXRと同じだが、
ホイール径が小さくなっている分、相対的に20〜30mmばかり
ローター径が大きくなったのと同じ感覚で強力に効いてくれる。
新型フォークは倒立式で、太い側をクランプしているため剛性感も抜群だ。
メーター回り
エンジン本体にオイルを溜め込まないドライサンプ方式で、
給油口はタンク前のフレーム部分にある。
スピードメーターはアナログ式 だが、
これはベース車のXRが、ハードランの際にも注視せずとも確認し易いものを、
との考えから採用されているものだ。
エンジン
ブン回したときの気持ち良さは250ccシングルの中ではトップクラスのもの。
点火方式の変更により、常用域でのパンチ力は従来のものより
確実に強力になっているが、アイドリング付近ではみなが
「オフ車だから・・・」と思うほどは、粘らないぞ。
MB 2003.7月号