前回で予告した通り、オレはこの一件を担当した警察官に、疑問点を直
接聞いてみた。
なぜ、Aは逮捕されなかったのか。
その後も無免許で乗り回しているというのに、なぜ検挙することが出来
なかったのか。
これらのことに対して、限りなく本音に近い話を聞かせてくれ。
腹を割って話してくれ。
みんなが一番知りたいのはそこなのだから・・・。
引き換えにオレが約束したのは、次のようなものだ。
『話したがために、警察という巨大な、かつ、極めて上下関係の厳しい組
織の中で、要らぬ中傷を受けないよう、あなたが、絶対に、どこの署の誰
と特定できないように、配慮する』
それだけである。
したがって、いかにボカそうとも、本人の後ろ姿の写真は無論のこと、
事前に撮っておいたこの警察署の建物の写真も、一切使用しない旨をミス
ター・バイク誌側に伝え、了解を取った。
この人とオレは、当然ながら、友達でもなんでもない。
また、知り合いですらない。
あくまでも、「届け出を出した一被害者」と
「たまたまその担当となった、一司法関係者」というだけの関係である。
したがって、いくら「本音」と言う前提で、話しをしてくれたものであ
ろと、そこにはお互いの絶対的な信頼関係に基づく本当の「本音の本音」
というものが、果たしてあるのか、ということまでは、正直言ってオレに
は断言できない。
また、先の理由により、発言者の特定を防ぐため、データ等の細かな数
字の末尾部分などは、あくまでも事実を変えないという範囲において、若
干省略して書いてある、ということも事前に伝えておく。
そしてもうひとつ。
本音で話すゆえに出てしまった、
「法の盲点・不備によって、犯人もしくはその予備軍に、結果的に有利に
なってしまうような話、または、ヒントとなりかねない部分」
は、当然ながら一切、削除した。
文中におけるカッコ内の文章は、話の意図を正確に伝えるため、みんな
に分かりやすくなるよう、必要な部分において、オレが補足説明の意味で
付け加えたものである、ということもここで断っておく。
では、始めよう。
−−まず、前回で最も問題として書いた、
「犯人は結局、逮捕も検挙もされていない」
ということに対してなのですが、この、逮捕と検挙というものの違いを、
一般の人にも分かりやすいようにあなたの口から説明して下さい。
「逮捕というのはですね、(その相手の)身柄を拘束することであり、検
挙というのは、その逮捕も含めて、在宅で取り調べる場合も言います。
つまり、『犯人が分かっていて、捕まえた』という大きな意味で、検挙
というものがあり、その中で狭い意味で、逮捕というものがあるんです。
つまり、同じ『捕まえた』という意味でも、身柄を確保して、留置場に
入れるのが逮捕。
検挙というのは、それ以外で捕まえた、ということです」
−−なるほど。では『逮捕』をする場合の要件というのは?
奴は結局されませんでしたね?
「証拠の隠滅(※要するに隠したりするという意味の、法律的言い回し)
や、逃走の恐れがないと、逮捕の要件にはならないんです。
殺人だなんだのと、そういった重大な事件はもちろん除かれますがね」
−−それでは、今回のような場合は?
「まずですね、逃走の恐れもなく・・・これは家も仕事も(いちおうちゃ
んと)あり、証拠もすでに押収されていて、逃走や証拠隠滅の恐れが考え
られないので、(警察が)請求しても、裁判所は逮捕状はまず、出さない
んです。少年事件だし」
−−それが現実なんですか。
「ええ、まず出ません、残念ですが」
−−出ない・・・。それ以外でも、性懲りもなくその後まだ無免許で乗り
回しているのを、私が見つけましたよね。
あれなんかも、どうにもならないんですか?
「奴にも言ったんですよ、〃あの後も乗ってるじゃないか、目撃者もいる
ぞ!〃と。
そしたら 〃あの被害者の人でしょう、それを言っているのは。それ以
外に見られてるはずがない。あれはたまたま家の前で・・・。
しょっ中乗っていた訳じゃない〃、と言い訳する。
(こんな事は決して)許される事じゃないけど、しかし、だからといって
(他の事件などもあるため)四六時中、警察が前で見張っているわけにも
いかない。
−−見た、と通報しても、動きようがないのが現状というわけですか?
「110番してくれれば、交番の者が行って検挙はできますが・・・ね」
−−でも、そんなことやったって、交番の警官がカブでトコトコと走って
来るうちに、管轄区域から完全に離れて隣の署のほうに行ってしまったと
かって、たぶん現実にはそうなってしまうでしょう。
そうなっても、ちゃんとパトカーとか派遣して、挑むものなんですか?
「110番の場合はですね、(その結果がどうなったかという事を)本部
に回答しないといけないですから、違法行為に対して、何もしないという
ことは、いまのシステムではできないんです。
ですから、何らかの処置は必ずします。
無線や110番は、全部記録で残ってしまいますし(その結果も含め)
署長にすべて報告しますので、何もしないというのは、責務を放棄したと
いうことになってしまうので、これは絶対にありません。」
−−はあ。
「例えば〃その現場を見た〃という人がいれば、その人から調書を取らせ
て貰って(という前提で)検挙することはできますが、実際は(そこまで
やってくれる人がなかなか居ないため)警官が乗っている現場を現認しな
いと、難しいんです。
例えばそれが轢き逃げとかで、『あいつがこの場で降りた』と調書が取
れれば、その場で逮捕することも可能なんですが、単なる、と言っては語
弊がありますが、無免許運転で、バイクから降りてしまってからしばらく
して『それはあいつだ』と言われても、本人が、乗ってないと言い張った
ら、難しいんですよ」
−−この辺りの、先の逮捕の件も含み、警察が強硬手段になかなか踏み切
れない、つい二の足を踏んでしまうというのは、どのあたりに引っ掛かっ
て来るんですか。
「例えばですねえ、広い目で見れば、イジメが高じて、結果的に相手を死
なせてしまった、というような事件とかに代表されるような・・・。
この管轄内であった昨年の傷害事件でも、両親が出て来て、うちの子は
やっていない、その時間はカラオケ・ボックスに居たので、出来る分けが
ないじゃないか、と毎日来るんです。
いろんな(その筋の保護・人権)団体にも行って(自分の息子である)
少年の罪を棚に上げて、それで、担当の警察の対応(つまりこの担当官の
こと)を取り上げられて・・・。
イヤな思いをすることなんか、いっくらでもありますよそりゃあ。
正当な捜査を、しているにもかかわらずに、ですね・・・」
−−警察全体の話として、ではなく、その中のあなた個人という小さな範
囲に絞ったとしても、そういう思いをした事とかはかなりあるんですか。
「それはもう、はっきり言わせてもらえば、もう、いっくらでもあります
よ。
例えばですね、ねじ込んで来るのは、その捕まえたほうの親ばかりとは
限らないんです。
恐喝事件の被害者の親が、そのやった本人が、シラを切っているという
わけではまったくなく、すでに自分の罪を認めているにもかかわらずに、
ですよ。
それで、どうして捜査経過を報告しないのか、と言って来た事がある。
しかし(捜査だから基本的には全部そうなのだが)秘密の場合もありま
すし・・・。
まあね、こちらとしても、結果は言いますけど、とにかく自分たちは被
害者なのである、(その被害者の所に取り調べの)経過報告をしないのが
許せない、とそう来るわけです」
−−はあ、そんなものなんですか。
「はい。あるいはですね、別の盗難バイクの件の場合は、少年某が盗んだ
と(警察から)言われましたが、あれはその後いったいどうなっているの
だ、その間の休業補償を(うちはそのバイクを商売で使っていたものだか
ら、その代車として)しろ、クルマを使ったから、その分しろと、催促を
しに来たりします。
あるんです、実際にそういう事が。
しかし、だからといっても、(その事件が正式に)裁判所で認定される
(法的に結論が出る)までは、そんなこと言われたって、(こちらとして
は)はっきりと(言おうにも)言えないわけですよ」
−−加害者のほうのみならず、被害者のほうまでそんなことを言って来る
もんなんですか・・・。
ではそうやってねじこまれたりして、あなたが個人的に最も困った場合
というのは?
「中学生で、これは14歳だったんですけどね、その少年の起こした傷害
事件で、この14歳というのは少年法で定められた絶対保護年齢なので、
基本的に逮捕できないんです。
でも、やってる内容というのがもう、ものすごく悪くて・・・。
(これは私が職務上で知り得た秘密に該当しますので、法律上、深く話せ
ないのは理解してもらいたいのですが)
とにかく調べていくうちに、なんとその親自体が、証拠隠滅しようとし
て(その少年の)仲間を集めて、うちの子はやっていないかった、と口裏
を合わせる工作をしている、というのが分かってきた。
でも、逮捕できない。
令状が出ないから。
少年だから。
例えばの話、13歳だったら、殺人でも犯罪じゃなくて、児童通告なん
です。
それでも、こんな悪質な例の場合は、上層部から特別に直接の指揮をも
らって逮捕するんですが、それでも、拘留はできないんですよ。
そのまま鑑別所送りになってしまうんです。
するとどうなるかというと、今度は、警察のほうで自由に取り調べがで
きなくなってしまうんです。
なにしろ少年ですから、(こちらがきちんとした事件解明のためや、あ
るかもしれない余罪追及のために)取り調べするのに、またいちいち許可
取ったりして・・・という制約が出て来るんです。
15歳以下というのは少年法に守られた少年ですよ」
少年・・・・。
その部分についての話となってからは、刑事の口調はさらに熱気を帯始め
ていた。
つづく