第3話

 交番に乗り付けると、運よく届けを出したときにいた巡査はまだいた 。
 オレは事情を手早く話した。
 バイク本体ではないが、そこから取り外した部品を着けているやつを発
見した、と。
「なるほど、わかりました、じゃあその区域を管轄する交番のほうへ、こ
ちらから連絡しておきましょう」
「えっ? だめだだめだ! いますぐ行かなければ!」
 そんな悠長なことをしているうちに、どこかへ持って行かれてバラバラ
にされてしまったら・・・!
 オレは強硬に申し入れて、同行を願った。
「分かりました。それでは、まずはそこを管轄している交番に連絡を取り
ます。それから、こちらも出掛けましょう!」
 警官は電話を取って連絡を始めた。
 すぐに戻るからと、オレは交番を飛び出た。
 雨が降り始めていた。
 すぐさま事務所に駆け戻り、オレはカメラをバックに詰め込んだ。
 すべての証拠を保全しておくためである。
 ついでにカッパを・・・だが、上着しか見当たらない。
 急いでいたオレは、下はGパンのまま、またバイクに飛び乗った。
 バイクを発見した近くの交番へ急いで行くと、すでに3名の警官が待っ
ていた。
 そこでまた、オレは新たに、発見した経緯をみなに話した。
「どうしてそれが、自分のパーツだと分かったんですか」
「そばまで行って、この目でちゃんと見ましたから」
「・・・すると敷地の中に無断で侵入したということですか?」
 ひとりの年配の警官が、ちょっと語尾を強め、非を問うかのような口調
で尋ねて来た。
 そら来た、と思った。
 だが、オレはこういう問題が発生することは読んでいた。
「入ったといえば入ったが、しかしそこは門のない私道部分に相当すると
ころで、新聞配達の人達も自由に出入りしているところだから、不法侵入
には当たらないはずだ」と返した。
 警官は納得した。
「それで、どこの家ですか、それは」
 言いながら世帯地図を広げる若い警官に、オレはバイクが置いてあった
正確な位置まで示し、Aという表札が掛かっていた、と告げた。
 そのとたん、警官の顔が歪んだ。
 あいつか・・・札付きの悪だ、そいつは。前に、傷害でも挙げた事があ
る、と管轄する区域の警官はつぶやいた。

 これは本来であるならば「職業上知り得た秘密の暴露」となるもので、
オレに漏らしてはいけないことなのだが、思わずそう呟いてしまうほどの
札付きのチンピラだったのである。

「とにかく、今すぐオレといっしょに行って、それを現認してくれ」
 しかし、警官たちは渋る。
 向こうにしてみれば、いまのところ「当事者の片方だけの、一方的な言
い分」であり、しかもそれは「パーツ」という、決定的な証拠能力に乏し
いものだからだった。
「成人だったら、もう、すぐに引っ張って来ちゃうんだけど、相手はなに
しろ未成年だからなあ・・・そこが問題になってしまうんですよ」
 と若い警官は顔をしかめて言った。
 オレは、なぜ、いますぐに現認してもらいたいか、すぐにでも動いても
らいたいか、ということを理論的に説明した。
 それは、
1.まず現状では、すべての状況のなかで、オレが確認した、たった1本
 のステーのみが、唯一犯罪を裏付けるための証拠品であるということ。
2.キャブレターという部品はデリケートなものであり、いい加減に取り
 付けると、調子が悪くなる確率が非常に高い、ということが、考えられ
 ること。
3.現場にあったそのバイクの他の改造部分などを見て判断する限り、そ
 れを行った人間の技術レベルは、限りなくド素人に近いものである、し
 たがって、2.の危惧がかなり高い、ということ。
4.調子が悪くなれば、おそらく元のキャブレターにまた交換してしまう
 であろう、ということ
5.そうなったら、唯一の証拠となるステーはどこかへ消えうせてしまう
 可能性がある、ということ・・・などだ。

 警官たちは言った。
「ならば、バイク本体という決定的な証拠に欠けるいま、我々がへたに動
いて感づかれたりしても、結果は同じようなものとなる」
「おそらく、どこかそう遠くないところに、盗んだバイクの本体を隠して
あるはずだから、まずはそいつを探しに行きましょう」

 一段と強く降り出した早朝の雨の中、2人の若い警官とともに、そのA
一派の悪党連中がよくたむろしているという辺りを、3台のバイクで捜し
回った。
 ズボンはたちまちグショグショになったが、気にはしていられない。
 しかし、1時間ほどかけて数箇所を丹念に回ったが、残念ながら目ぼし
い成果は挙げられない。
 オレたちは交番へと戻った。

                つづく