第6話

 

 今回は、最初に、警察がAを取り調べたときの状況を、前回より、 もう
少し詳しく書いておくことから始める。
 あとになって、事件解決のための切っ掛けとなった事柄が、実はここに
隠されていたからだ。

 担当官はまず、事前に「何の連絡もせずに」Aの自宅へパトカーを乗り
付け、自分の手で、Aをその場から署に任意同行させた。
 このような方法を取った理由は、『逮捕』と違い、強制力のない『任意
の同行』であるということを利用され、
「じゃあいま支度してから行きますから、ちょっと待っててください」
 などと言われ、その間に電話で仲間に連絡を取られ、証拠の隠滅を図ら
れるのを、防ぐためである。
 そのAは、連れて来られた警察で、パーツは「拾った」ものである、と
言い張った。
 嘘ではない、証人もいる、と。
 そして、複数の人間の名を挙げた。
 担当官は、裏を取るため直ちに、『その場から』名前の挙がった人間の
家に連絡を入れ、そのときの状況を、本人たちに聞いてみた。
 が、Aの供述との食い違いはほとんどない・・・。
 このように、
『事前に打ち合わせすることが不可能な状態』で、
『その場にいたという全員』を問い正した、
 にもかかわらず、全員の供述はほぼ一致している。
 したがって、いくら疑わしくとも、現段階では(相手が未成年というこ
ともあり)これ以上の追求はできないので、帰すしかなかった・・・・
  ということになってしまったのである。

 オレはここで、怒ったわけだ。冗談じゃないと。

「私は、このような捜査については、はっきり言って、まったくのド素人
です。
 ですから、本来、百戦錬磨のあなたがたに対して、こんな事を言うのは
非常におこがましいとは思います。
 しかし、これだけは私にも分かります。
 いいですか、相手は出来心で物を盗んだ人間とは違うんです。
 人様のものをかっぱらおうと企んで、実行した悪党であり、しかも何度
も挙げられている悪党なんですよ?
 警察の取り調べ方法をよく知っているやつなんですよ?
 そんなやつであれば、かっぱらった直後に、いざというときの事を考え
て、アリバイなり言い訳なりの対策を、立てているに決まっていると考え
るのが当然でしょう。
 仲間と口裏を合わせるなり、なんなりしてです。
 それを『事前に打ち合わせするのが不可能な状態で』などというのは、
ちょっとおかしいんじゃありませんか?」
 そう言われた担当刑事は、うーんと唸ったまま、黙ってしまった。
 しかし、だからといって、オレは別にこれ以上は、ガタガタ言わなかっ
た。
「仕方がないですね。あなたがたも、善かれと思って、即座に動いてくれ
たのでしょうから。
 まあ結果的にこんなことになってしまいましたが、べつに恨んだりはし
ませんよ。
 ただね、私は、ああいう泥棒野郎が、これでまた味をしめて、警察なん
てチョロイものよ、と世の中なめてかかって、のさばり続けるということ
が、どうにも勘弁できないんですよ・・・」
 そう言って、警察をあとにした。
 これが盗難より2日後、7月22日土曜日・午後12時30分の話しで
ある。
 そしてオレは、ぶっ通しでやり続けた一連の捜索の疲労のため、翌23
日の日曜日午後遅くまで、眠り込んだ。
 が、夜中にふと逆襲の手段が閃いて跳び起き、供述の矛盾点を覆す書類
を作成した。
 それを届けたのが7月24日月曜日・午前6時。
 事件発生から4日目の早朝。被害届を提出してから、およそ84時間目
のことである。

 オレはまた、事務所で仮眠していた。
 気が付くと、いつの間にやら、学校から戻ったらしい伜が、傍らに突っ
立っていた。
「おい伜。バイク、見つかったぞ」
 オレは眠い目を擦りながら言った。
「え、なに、どこどこ、どこにあったの!」
 あれからの経緯を、すべて話したオレは、ここで伜から意外な事実を聞
かされることになる。

               つづく