第9話



 残る手は、ひとつである。
 本人、つまりA以外の奴を攻め落とし、その人間の口から、Aが言い訳
できない供述を取っておいてから、それを突き付けて、落とす。
 もうこれしか、残された手はない。

 決めたら即、動く。

 オレは事務所に戻ると、クルマに乗り換えて、隣町にあるKの家へと向
かった。
 伜は連れて行かなかった。興奮したらぶん殴るかもしれない、と言って
いたからだ。

 ここでひとつ、くれぐれもみんなに言っておきたいことがある。
 それは、とにもかくにも、どんな場合であろうと、絶対に相手には手を
出してはならない、ということだ。
 やったが最後、相手がどんな悪党であろうと、一気に立場が逆転してし
まうか、よくてもそれで『五分の立場』になられてしまうのだ。


 家の前でじっと待つこと、4時間。
 夜の11時を回った頃、Kが仲間とともに、SRの爆音を響かせてやっ
て来た。
「おい。Kってのは、どっちだ」
 キョトンとするふたりのチンピラに向けて言った。
「オレは、○○の親父だ。単車のことで聞きたいことがある」
 オレは警察官ではない。ないから、少年法だの人権だの、知ったことで
はない。
「被害者」が「犯人一味と疑われている人間」に直接話しを聞きに行く。
 誰か文句あるか、ってことだ。
「ぼくが、Kですけど・・・」
 オレはKにクルマに乗るように言った。
 Kは乗ったとたんに、あれは誤解だ、誤解だと勝手にしゃべり始めた。
「後で、ゆっくりと聞かせてもらう。事務所まで来てもらおうか」
 事務所と聞いて、Kの顔色が変わった。
「心配するな。オレは暴力団じゃねぇ。単なる、親父だ」
 そして加えた。
「おまえらにバイクを掻っ払われた奴の、な」

 オレはまず、これ見よがしに、テープレコーダーをテーブルの上に置い
て、無言の圧力を掛けた。
 もちろん、これは証拠を残すために、欠かせないことでもあった。

 ふたりきりで。1対1での、面と向かっての話が始まった。

 オレはゆっくりと話しを始めた。
 おまえのは学校、どこだ。
 どこに進学するつもりだ。
 どこに就職するつもりだ。
 オレの伜を昔、カツアゲしたんだってなあ。
 最近も、みんなで大学生ボコボコにしたんだってなあ。
 送られるなら、横浜か練馬だよ。中どうなってるか、教えてやろうか。
 オレは、はっきりいって、脅かした。コブシで叩けないから、言葉で叩
いた。
 オレは、伜の仇を、ダブルで取らねばならないのだ。
 カツアゲと、スティードの分と。

「おい。オレはさっき、暴力団じゃあねぇと言ったな。
 それは、本当の話だ。なんの繋がりもないから、その点は心配するな」
「ただし、だ。よその親父といっしょにするんじゃねぇぞ、この野郎!」
 Kは、ガタガタ震えながらも、それでも自分は知らない、関係ないとシ
ラを切り通していたが、そのうち精神的に耐えられなくなり、ポロポロと
涙を零して泣き出した。
 ひとりきりになってしまえば、まだ精神的に幼い17歳の弱さを暴露し
ていた。
(落とすなら、今だ)
 そこでオレは、何かの足しにと撮っておいた例の、Aのバイクの数十枚
にも及ぶ写真と、警察に渡した意見書のコピーをサッと見せた。
「これは、正式に作った告訴状だ。おまえら少年だから、最初は示談にし
てやろうと思っていたが、オレは頭来た。もうやめた。明日これ持って警
察に行く」
 とたんにKは顔色を変えた。
「ちょっと待って下さいよ! ぼくは本当に関係ないんですって!」
 懇願するKを無視してもう一撃加えた。
「知ったことか。仲間だろ? ダチを庇うんだろ? 上等じゃねぇか。
 しかしいずれにしろ、おまえは明後日には、もう学校クビだ」
 そのひと言で、Kは落ちた。
「本当に、僕は、やってないんですが、申し訳ありません、嘘をついてま
した。Aは確かに、佐藤さんのバイクを盗んだのだと思います。いや、盗
んだんです!」

                つづく